2026.04.21
2025年度「女性医師・研究者顕彰」授賞式
兵庫医科大学(医学部)「女性医師・研究者顕彰」は、本学の発展に寄与する女性リーダーや学術研究を担う研究者の意欲を高め、また受賞者に続く次世代を育成することを目的として、教育・研究・臨床活動において優れた成果を挙げダイバーシティ推進に取り組む女性医師・研究者、また熱意をもって研究に取り組む若手を表彰しています。昨年10月の公募で学術部門の各賞4名が選出され、3月8日の国際女性デーを前に、2月25日に授賞式を開催しました。
ダイバーシティ推進本部長 鈴木 敬一郎 学長から一人ひとりに賞状と記念品が授与され、「この受賞を通過点としてさらに飛躍し、リーダーとなる存在を目指して欲しい」と受賞者をたたえました。また受賞者を代表して、女性研究者学術賞優秀賞を受賞された法医学・三浦 綾 先生の研究が発表され、活発な質疑応答が交わされました。
受賞者からは、指導教授や医局・講座スタッフ、支えてくれた家族への感謝とともに、「この受賞を励みに今後も研鑽を積み、後輩たちが続く道を拓いていきたい」など、それぞれ力強い決意が述べられました。受賞された皆さんの、さらなる活躍を期待いたします。
受賞者のご挨拶
※ 受賞者の所属および職位は、授賞式(2026年2月25日)時点のもので掲載しております。
三浦 綾(法医学 助教)
日本における突然死症例の遺伝子解析は,実施できる施設は非常に限られており,さらに、次世代シーケンサーによる網羅的な遺伝子解析は,経済的および技術的な要因が加わることによってほとんど実施されておらず,数施設のみです。発表されている論文数も多くはありません。兵庫医科大学法医学では、突然死症例における遺伝子解析研究を立ち上げ、共同研究として実施しております。
受賞研究は、突然死症例の遺伝子解析研究において、典型的な拡張型心筋症(DCM)の所見が認められない症例から同定されたRBM20 Q373fsの機能を検討しました。
RBM20は、細胞核内に存在するRNA結合タンパク質の一つで、多くの心臓遺伝子のスプライシングを制御している重要な因子です。RBM20をコードするRBM20遺伝子の変異は、Titinのスプライシングを変化させることなどによってDCMの発症に関わることが報告されており、これまでにDCMに関連する数十個の変異が報告されています。
Q374fs-Rbm20のモデルマウスを作製し、解析しました。変異モデルでは、心機能障害、スプライシング異常、発現タンパクの変化が認められ、パスウェイ解析では、発現レベルの異なる遺伝子の一部は、細胞質のリボソームタンパク質や心筋内のCa調節および横紋筋の収縮に関与することが示唆されました。
これらの結果は、Q374fs-Rbm20変異は遺伝子のスプライシングを変化させ、サルコメア構造に関わる遺伝子やCa制御遺伝子に影響を与え、心機能障害を呈することを示唆しています。本研究の結果は、RBM20の他の変異の報告とともに、ヒトでの病態の機序と不整脈の発生の解明に有用である可能性があります。このように突然死症例の死後遺伝子解析を行うことは、死因究明を行うだけでなく、同定された疾患および突然死に関連する新たな変異の機能を解析することによって、新たな知見につなげられることを示しました。
今後は、別の手法の機能解析を用いたり、コホートとしての解析も引き続き行うことで死後の遺伝子解析研究を発展させ、社会的な意義を果たしていくとともに、次の世代の医療者・研究者へよりよいバトンを渡していけるよう努めていきたいと思います。
このたびは、このような素晴らしい賞をいただき、大変光栄に思います。この度の受賞は、学内外の先生方のご協力および関係者の皆さまのご支援を得て、共に積み重ねてきた成果だとあらためて感じており、御礼申し上げます。この度の受賞に恥じぬよう、また、受賞を励みにより一層精進していきたいと思いますので、引き続きご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
瀧本 裕美(産科婦人科学 助教)
私は2024年に本学産婦人科学講座において、抗真菌薬であるイトラコナゾール(ITZ)によるtumor-associated macrophage(TAM)の再分極を介した抗腫瘍効果に関する研究で学位を取得しました。TAMには腫瘍促進性のM2マクロファージと腫瘍抑制性のM1マクロファージが存在し、腫瘍組織では一般にM2が優位とされています。学位研究では、ITZがM2型からM1型への再分極を誘導することで抗腫瘍効果を発揮することを示しました。
大学院入学前の臨床経験において、ITZ投与後に腫瘍縮小や出血・疼痛の改善を認めており、その作用機序を細胞レベルで検証する過程は、強い探究心を喚起するものでした。一方で研究開始当初は、微量操作や無菌操作に不慣れで試行錯誤を重ね、自身の適性に悩む時期もありました。分子生物学・生理学・免疫学の基礎知識の習得にも多くの時間を要したものの、鍔本先生をはじめとする指導医の先生方および実験助手の皆様のご支援のもと、安定した実験系を構築できるようになりました。これらの経験を通じて、臨床で抱いていた疑問の背景にある分子機構への理解が深まり、癌免疫治療をより立体的に捉えられるようになりました。また、毎週の研究カンファレンスでは、実験指導が時に育児の相談へと発展することもあり、研究と家庭の両立を支えていただいた環境に深く感謝しております。
大学院在学中には第2子を出産し、研究と育児を両立しながら研鑽を積みました。卒業後は馬淵教授をはじめ医局の先生方のご理解とご支援のもと、基礎研究を継続しつつ臨床業務に復帰いたしました。先行研究でITZの抗腫瘍効果は示されていたものの、THP-1由来M2マクロファージモデルの高い異質性により、従来のbulk解析では再分極機序の解明に限界がありました。そのため、シングルセルレベルでの機序解明を試みました。
既報において線維芽細胞でのITZによるリソソーム膜タンパク阻害を介したコレステロール輸送障害が報告されていたことから、コレステロール代謝に着目しました。その結果、ITZ添加後のM2マクロファージではM1マーカーの発現上昇に加え、コレステロールのリソソーム内蓄積とリソソームの腫大を認めました。さらにコレステロールの排出を促進する実験により、M1様へ変化したマクロファージが再びM2様へ戻ることを確認し、ITZによるTAM再分極の主要機序がリソソームからのコレステロール輸送障害であることを示しました。
臨床復帰後は産科・婦人科領域の幅広い診療に従事するとともに、学生教育にも関わる機会が増えています。女性の身体は、月経周期という短期的変動とライフステージにわたる長期的変化から成る多層的なホルモン変動の影響を受けるため、その時々に応じた支援が求められます。一方で、社会活動との両立の観点から、患者自身が実現可能とする治療と医学的に最適とされる治療との間に乖離が生じる場面も少なくありません。診療においては、こうした社会的・心理的背景を踏まえた医療の提供を重視しています。自身の妊娠・出産およびキャリア継続の経験は、患者への共感的理解を深める大きな支えとなっています。今後は、基礎研究・臨床・教育の三本柱を軸に活動を継続してまいります。特に教育においては、臨床上の疑問を研究の種として捉え、患者に真摯に向き合う姿勢を伝えることが重要であると考えています。学生および若手医師に対して、エビデンスに基づきつつ個々の患者に最適化された医療を実践できる能力を育成するとともに、基礎と臨床双方にわたり広く深い知識と関心を持つ人材の育成に貢献したいと考えております。自身もまた、研究と臨床の双方をさらに深化させ、産婦人科領域における新たな治療戦略の確立に寄与していく所存です。
このたびは、栄誉ある賞を賜り、大変光栄に存じます。これまでの研究をご指導くださいました先生方をはじめ、支えてくれた家族、ならびにご支援いただきました多くの皆様に心より感謝申し上げます。本結果は、本講座における連綿とした先行研究の上に成り立つものであり、本研究として結実したことに深い意義を感じております。
産婦人科学講座には意欲にあふれる若手女性医師が多く在籍しており、近年は基礎・臨床研究に関心を持つ先生も増え、講座全体としてさらなる活性化が進んでおります。一方で、研究活動や育児と臨床業務の両立にはハードルを感じやすい現状もありますが、「あの先生ができるなら自分もできる」と思ってもらえるような存在となれるよう、仲間とともに精進してまいりたいと存じます。今後ともご指導ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
土田 純子(乳腺・内分泌外科 助教)
私は乳癌を専門とする外科医として、これまで臨床と研究の双方に取り組んでまいりました。科学的根拠に基づく最適な医療を患者さんに届けると同時に、臨床で生じた課題を研究へと還元し、その成果を再び医療へ橋渡しするトランスレーショナルリサーチを実践する医師でありたいと考え、研鑽を重ねてきました。臨床面では、日本外科専門医、日本乳癌学会専門医、がん薬物療法専門医、臨床遺伝専門医の資格を取得し、手術、薬物療法、遺伝医療を組み合わせた乳癌の集学的治療に携わってまいりました。研究面では、既存治療では制御が困難であった症例の治療成績向上を目指し、基礎と臨床をつなぐ研究に継続的に取り組んでおります。これまでに、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)の臨床的意義に関する研究で博士号を取得し、近年では癌ゲノムや公共データベースを活用した臨床研究にも取り組み、その成果を学術誌に報告してまいりました。
今回の受賞研究では、乳癌のオンコプロテインとして報告されているE3ユビキチンリガーゼTripartite motif-containing 37(TRIM37)に着目いたしました。TRIM37は、DNA修復に関わる腫瘍抑制因子をエピジェネティックに抑制し、腫瘍形成を促進することが知られています。また、中心体複製を制御するPLK4の調節にも関与し、この経路の破綻は染色体不安定性や腫瘍進展を引き起こします。近年では、TRIM37を標的とする選択的PLK4阻害薬の臨床試験も進められており、PLK4/TRIM37経路は新たな治療標的として注目されています。これまでTRIM37と乳癌患者さんの予後との関連については複数の研究で検討されてきましたが、対象コホートが比較的小規模であったため、一貫した結論には至っていませんでした。そこで本研究では、The Cancer Genome Atlasをはじめとする複数の大規模公共データベースを用い、TRIM37の臨床的意義を包括的に検討いたしました(Tsuchida, Ann Surg Oncol. 2026)。
働き方に制約がある期間もありましたが、多くの同僚に支えていただいたからこそ、今日まで活動を継続することができたと深く感謝しております。支えていただいた分を社会へ還元するため、乳腺専門医として培った知識と経験を生かし、若手医師の教育にも力を注いでまいります。また、自身のライフイベントを経験したことで、当事者でなければ気づくことのできない課題があること、そして困難さは一人ひとり異なることを深く実感いたしました。今後は、ライフイベントを抱える医師がその能力を十分に発揮できる環境づくりにも尽力してまいりたいと考えております。
この度は女性医師・研究者顕彰 学術部門 若手未来賞という栄誉ある賞を賜り、誠にありがとうございます。ご選考くださいました先生方、ダイバーシティ推進室ならびに関係者の方々、そして日頃よりご指導・ご支援を賜っております乳腺・内分泌外科の皆様に、心より御礼申し上げます。今回の受賞を大きな励みとし、臨床・研究・教育のすべてを通じて社会に還元できる医師であり続けられるよう、一層精進してまいります。
徳永 沙知(小児科 助教)
私は、2018年から母校である兵庫医科大学病院小児科に勤務しております。小児科一般、小児神経疾患、頭痛を専門にしております。兵庫医科大学で勤務を開始して以降、取り組んできた研究テーマは大きく分けて、脊髄性筋萎縮症(SMA)と頭痛の二つです。
SMAは、私が小児科医になった頃には治療法がなく、支持療法のみが行われている疾患でした。しかし、2017年に初めての疾患修飾薬であるヌシネルセンが登場して以降、経口治療薬であるリスジプラムや遺伝子治療薬であるオナセムノゲン アベパルボベクといった様々な治療薬が登場しています。小児科では、これらの治療に治験の段階から参加しており、これまで多くの患者さんに対して治療を行ってきました。その過程で、いくつか課題も明らかになってきました。特に、進行例や重症例に対する治療については、添付文書に「永続的な人工呼吸が導入された患者における有効性及び安全性は確立していない」と記載されており、十分なエビデンスがない中で治療が開始された背景があります。実際、進行例や重症例では、運動機能評価スケールで明確に評価できるほどの機能改善が得られない症例が少なくありません。そのような状況の中で、アンケートを用いた評価の実施や、長期投与例の解析などを行い、これまでに複数の論文を報告してきました(徳永ら, 脳と発達, 52: 390-6, 2020, Tokunaga S, et al. Eur J Pediatr Neurol, 54: 171-7, 2025. )。今後も、症例を蓄積し、その知見を発信していくことを目標としています。
頭痛は、日常診療で非常に頻度の高い疾患であり、その頻度や程度によっては、生活支障度が高くなることもあります。私たちはこれまでに、小児片頭痛患者では血清亜鉛値が低値である可能性があること、また起立性調節障害を共存していない患者の血清亜鉛値は、共存している患者よりも低いことを報告しました(Tokunaga S, et al. Nutrients, 17: 3753, 2025)。亜鉛は、生存に不可欠な微量元素で、亜鉛欠乏症や亜鉛補充の有用性がさまざまな疾患で報告されています。頭痛分野に関しても、成人片頭痛患者の血清亜鉛値が低いことや、亜鉛サプリメントによる頭痛の改善が報告されていますが、小児に関する報告はありません。今後は、片頭痛患者の食事からの亜鉛摂取量の評価や、亜鉛摂取量の増加を目的とした食事指導後の症状変化について検討していく予定です。本研究を通じて、患者さんの診療に還元できる知見が得られればと考えております。
この度は、このような栄誉ある賞をいただき、本当に嬉しく思っております。日頃より温かくご指導くださる医局の先生方のおかげであり、心より感謝申し上げます。今回いただいた賞を励みに、これからも、私らしく学び続けたいと思っております。










