2025.06.05
2024年度「女性医師・研究者顕彰」授賞式
兵庫医科大学(医学部)「女性医師・研究者顕彰」は、優れた教育・研究・臨床活動を行いダイバーシティ推進に取り組む女性医師・研究者、また熱意をもって研究に取り組む若手を顕彰することで、本学を担うリーダーや科学技術の発展に貢献する研究者の育成を目的としています。今年度は7名の受賞者を選出し、2025年2月26日に授賞式を開催しました。
授賞式では、ダイバーシティ推進担当副学長挨拶、ダイバーシティ推進事業活動報告に続き、表彰と代表者による受賞スピーチが行われました。スピーチでは研究成果のほか、自身を成長させた出来事や出会い、出産・育児・介護とキャリアの両立など、女性研究者ならではの困難に直面しながらも前向きに乗り越えてきた経験など、後輩たちを勇気づけるメッセージとなりました。最後にダイバーシティ推進本部長の鈴木学長より、受賞者への祝辞と、将来に続く学生や若手医師・研究者に向けた「自分の可能性に限界を作らず、時には野心的にチャレンジして欲しい」との激励がありました。
受賞者が所属する医局・講座の所属長や同僚のほか、日ごろ共に働く医療スタッフ、役員、女性医師・研究者など約40名が出席し、本顕彰が少しずつ学内で根付いていることを感じます。今後も女性医師・研究者のモチベーションを引き出し、さらに活躍できる環境整備に努めて参ります。


受賞者のご挨拶
※ 受賞者の所属および職位は、授賞式(2025年2月26日)時点のもので掲載しております。
トップリーダー部門 ロールモデル賞

藤原 範子(生化学 教育教授)
このたびは、女性医師・研究者顕彰トップリーダー部門ロールモデル賞という栄誉ある賞をいただき、誠にありがとうございました。これまでお世話になった多くの先生方(理解のある上司や協力的な同僚)、研究の喜びと苦労を共にした共同研究者、子育てを支えてくれた家族、そしてダイバーシティ推進室の皆様に感謝申し上げます。
私はライフイベントもあって、いったん仕事を中断した経歴があります。その後、子育てをしながら研究を再開し、学位を取得し、兵庫医大に来て22年が経過しました。仕事や研究が楽しくていつの間にか月日が経ってしまっていた、という感じです。これまで抗酸化酵素の性質やALS(筋萎縮性側索硬化症)の原因となるタンパク質の研究を続けてきました。これらの研究結果を生化学の講義に利用することで、学生さんにも少しは研究の片鱗のようなものを伝えてこれたように感じています。
また、ともに研究をしてきた研究医コースの学生が学長賞を受賞し、関西学院大学の研究学生が仁田記念賞を受賞するなど、教員として最大の喜びを経験することもできました。さらに嬉しいことに、前者の学生は研修医をしながらも研究の立ち上げを頑張っており、後者の学生はこの春から社会人大学院生として研究を続けてくれることです。今後の益々の活躍を心から期待しています。
男性・女性問わず、人生、山あり谷ありです。人生の途中で仕事や研究を一時的に中断することもあることでしょう。しかし、強い気持ちがあれば続けることも再開することも可能だと思います。これまで自分自身が心がけようとしてきた8カ条を紹介させていただきます。
『1)周囲の支援に感謝する。2)プライドを持ちすぎない。3)専門分野以外の友人を持つ。4)完璧を求めずにベストを尽くす。5)外野の雑音(噂話)を気にしない。6)自分の可能性を自分自身で制限しない。7)何事が起こっても明るく楽しく過ごす。8)常にゼロからの出発ができるように覚悟しておく。』今は実感がわかないことも多いと思いますが、何か一つでも若い世代の方々の心に残るものがあれば幸いです。そして、「大丈夫、なんとかなるよ。」とエールを送りたいと思います。
田附 裕子(消化器外科学/ 小児外科 准教授)
この度は、女性医師・研究者顕彰トップリーダー部門においてロールモデル賞という栄誉ある賞をいただき、誠にありがとうございました。
私は秋田大学を卒業後、学生時代に感銘をうけた小児外科の専門医を目指し、当時、国内では数少ない独立した小児外科学講座がある大阪大学附属病院(第一外科・小児外科)にて外科研修を開始いたしました。外科研修は厳しい修練の場でしたが、同僚にも恵まれ、ある意味男女関係なく指導を受けることができ充実したものでした。その後、大阪母子医療センターでの小児外科研修を経て、大阪大学小児外科へ正式に入局いたしました。主に臨床面では新生児外科・外科栄養学を中心に、研究面では大学院生として外科栄養に関連して腸管不全や中心静脈栄養関連の合併症の機序に関連した研究に従事することとなりました。
大学院在職中の2001年より2年間、米国ミシガン大学の小児外科にリサーチフェローとして留学させていただく機会があり、欧米の小児外科のレジェンドであるArnold Coran教授のもと腸管上皮細胞関連の基礎実験や、アメリカ臨床栄養学会の理事であったDaniel Teitelbaum教授のもと、マウス中心静脈栄養モデルにおける腸管免疫・胆汁うっ滞に関連する膜たんぱくの同定・肝細胞の細胞周期などの動物実験、また短腸モデルの腸管免疫に関する研究に従事する貴重な機会を得ました。米国では小児外科においても、海外では臨床をしながら研究をすることが普通である恵まれた環境があること、自身が多忙な場合は研究者を雇用して研究を継続することで成果を上げていることを目の当たりにし、臨床と研究の見事な両立に感銘をうけました。帰国後、留学前の大学院のテーマであった「腸管虚血再灌流とグルタミンによる免疫バリアーの修復メカニズムの検討」で学位を取得し、その後大阪大学や自治医科大学、そして2006年からの2年間は兵庫医大において留学中の研究テーマを発展させた研究をすすめ、一方で臨床において後輩指導に邁進する環境をいただくことができ、現在に至っています。
今回ロールモデル賞を受賞し、改めてキャリアについて考えるきっかけとなりました。欧米・アジアにおける小児外科医は圧倒的に女性が多く男女差なくキャリア継続している医師が多いですが、本邦ではいまだに女性医師のキャリア継続が課題となっています。私自身、外科医であることまた留学生活を常に支えてくれた家族に大変感謝しております。今思う「後に続く女性医師たちへのメッセージは、自身の経験から「自信を持つことの重要性(ディスカッションに加わる。男性医師と同じ目線に入る)」、「専門性を持つ勇気(1つの専門性で経験を深めることで自身がつく)」、「努力と熱情(初心にもどる。やめなければ救える命がある!)」です。今後、自分自身の努力を継続しつつも、小児外科分野の女性リーダーの一人として、医局員がワークライフバランスを男女差なく確保しつつ臨床・研究を両立させたキャリア形成ができるよう尽力していきたいと思います。この私の経験が兵庫医科大学の女性医師のロールモデルの1つとなれば幸いです。

トップリーダー部門 次世代リーダー賞

中村 久美子(健康医療学 臨床講師)
私は2010年に本学を卒業し、2012年に消化器内科に入局しました。入局してからは、大学病院および関連病院で消化器内科医として研鑽を積んでまいりました。2022年4月より健康医療学の一員として、梅田健康医学クリニックの立ち上げから携わらせていただいており、同年10月に梅田健康医学クリニックが開院しました。梅田健康医学クリニックは人間ドック(健診)と外来診療エリアを設け、予防医療と治療の両方に対応しており、私自身は消化器内科医として内視鏡検査と外来診療を行っています。
開院後約2年半が経過しましたが、人間ドックの件数および外来受診患者数は右肩上がりとなっており、内視鏡件数においては、今年度は年間6000件に到達しました。日帰りでの大腸ポリープ切除術も行っており、大学病院が運営するクリニックとして水準の高い医療を提供しております。
また、外来診療では、消化器内科としての専門的な外来だけではなく、高血圧や脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群などの生活習慣病の治療や感冒症状などの一般内科の診療も行っています。より多くの方々に選ばれるような医療機関を目指し、日々勉強することを怠らず、より質の高い診療を実践するよう努めてまいりたいと存じます。そして、本院で働いておられる方々にも認知していただけるよう活動していきたいと思います。
この度は、栄誉ある次世代リーダー賞を頂き、誠にありがとうございます。この賞を受賞できたのは、推薦いただきました富田教授はじめ、梅田キャンパスのスタッフ皆様のおかげです。この場を借りて感謝申し上げます。この受賞を励みに、引き続き微力ながら梅田健康医学クリニックの発展に精進してまいりたいと存じますので、ご指導・ご鞭撻のほど何卒よろしくお願い申し上げます。
飯田 倫子(脳神経外科学 助教)
この度、ダイバーシティプロジェクトにおいて女性脳神経外科医として顕彰を受けることができ、大変光栄に思います。この表彰は、脳神経外科という高度な専門性を必要とする分野において、女性が持つ可能性を広げ、医療界に多様な視点をもたらすことの重要性を示されたのではないかと思います。
医学は日々進歩し、より良い治療法の確立と患者中心のケアが求められています。その中で、さまざまなバックグラウンドを持つ医師や研究者が協力し合い、柔軟な発想で医療を発展させていくことが不可欠です。今回の受賞を機に、ダイバーシティの価値をさらに広め、次世代の若手の女性医師や研究者にとっての道を切り拓いていくことに貢献できればと願っています。
今後も脳神経外科の発展に尽力しながら、社会にポジティブな影響を与えられるよう努力を続けてまいります。この栄誉を支えてくださったすべての方々に心より感謝申し上げます。
【これまでの取組概要と成果】
1.教育 若手医師に対する実践的な経験を充実させ、脳神経外科に必要な知識や技術の指導を行う。また、講義や実習を通じて、学生たちの専門的な知識の向上を目指す。
成果: 医師の技術力向上や診療現場での即戦力化に寄与。
2.研究 手術技術の研究を進め、学術論文の執筆や国内外の学会での発表を行い、大学および自身の知見を広める。
成果: 脳疾患治療におけるレアケースなどの認知。
3.診療 患者中心の医療を実践し、最新の技術や治療法を活用して個々の症例に応じた医療を提供する。診療活動を通じて地域社会に貢献。
成果: 高い患者満足度と地域医療の向上。
【今後の目標】
1.教育: 次世代の医師の育成をさらに推進し、より専門性の高い医療人材を輩出する。
2.研究: 留学生との積極的な国際的な研究ネットワークを構築する。
3.診療: 最新の技術導入など通じて、患者にさらに良い治療を提供する。

学術部門 女性研究者学術賞(優秀賞)

米田 和恵(胸部腫瘍学 特任講師)
私はこれまで、原発性肺癌および胸膜中皮腫を含む胸部悪性腫瘍を対象とした研究に携わってきました。特に、臨床検体によるバイオマーカー探索においてliquid biopsy(血液など液性検体を用いた検査法)に関心を持ち、血中循環腫瘍細胞(CTCs: Circulating Tumor Cells)の検出とその臨床的意義の解明を進めてきました。
CTCsは、転移の早期指標や治療効果のモニタリングに加え、細胞そのものを解析可能である点からも有用性が期待されていましたが、従来の検査法では標的細胞が限定され、中皮腫細胞はほとんど検出できませんでした。そこで、多様な細胞表面抗原に対応可能なマイクロ流路デバイス “universal CTC-chip” の構築に取り組み、中皮腫細胞に高発現するpodoplaninを標的とした “podoplanin-chip” にて血中中皮腫細胞の高感度捕捉に成功し、診断や予後予測への応用可能性を示しました(Cancer Sci. 2019)。
また、非小細胞肺癌では、治療前後の免疫微小環境の変化に着目し、同時化学放射線療法(cCRT)前後の組織における腫瘍細胞のPD-L1発現割合(TPS)および間質のCD8陽性腫瘍浸潤リンパ球(CD8+ TIL)密度を解析しました。その結果、cCRT後にはTPSが有意に上昇し、高いCD8+ TIL密度は良好な病理学的治療効果や予後との関連が認められました。これらの所見は、放射線治療によって誘導される抗腫瘍免疫応答が治療効果に寄与している可能性を示唆するとともに、cCRT後の抗PD-L1抗体投与に対する病理学的知見が得られました(Br J Cancer. 2019)。
現在、再び本学にて胸部悪性腫瘍の研究に携わる機会をいただいております。臨床現場の課題を意識しながら、トランスレーショナル研究を通じて医療への貢献を目指すとともに、研究の魅力や社会的意義を次の世代にも伝えていけるよう努めてまいります。
このたびは、栄誉ある賞をいただき大変光栄に存じます。これまでの研究をご指導くださいました先生方をはじめ、ご支援いただきました多くの皆様に心より感謝申し上げます。
土居 亜紀子(先端医学研究所/神経再生研究部門 助教)
私は先端医学研究所神経再生研究部門において脳梗塞病態時に誘導される内在性神経幹細胞 (iNSPC) を基盤とした新規神経再生療法の開発に取り組んできました。最近では、ヒト由来iNSPCを脳梗塞モデルマウスに移植した前臨床試験を行ったところ、移植細胞が神経に分化し、内在性の神経細胞と神経ネットワークを相互的に形成し、神経機能が改善することも明らかにしました。しかし移植細胞の多くは、時間経過とともに最終的に脱落することが分りました。
今後はマウス由来の傷害誘導性神経幹細胞(iNSPC)を脳梗塞マウスに同種間移植し、生着や神経分化能をはじめ、神経機能改善効果に関して高い移植効果が得られるのか、その生体内動態や神経機能改善効果を詳細に検討する予定です。脳梗塞後に生じるiNSPCについて、さらに詳細な研究を進め、iNSPCを用いた神経再生療法の開発を進めていたきたいと考えています。
この度はこのような賞を頂き、ありがとうございました。現在も子育て中ではございますが、上司や周りのスタッフのおかげで研究を続けることができて感謝しております。これからも引き続き研究を続け精進してまいりますので、ご指導の程よろしくお願いいたします。

学術部門 女性研究者学術賞 (準奨励賞)

江川 可純(社会医学/予防医学部門 助教)
私は兵庫医科大学在学中に研究医コースに所属して以来、血小板に対するアルコールやポリフェノール等の作用について、様々な血小板機能解析手法を用いて検討を重ねてきました。血小板は我が国の死因のみならず、健康寿命に大きく関与する血栓性疾患の重要な因子であり、血小板機能の亢進・減弱に係る物質の作用点の解明は、高齢化社会に突入した我が国において意義のあるものだと考えております。これまでに当講座ではアルコールが血小板内へのカルシウム流入を抑制することで凝集を抑制することが報告していましたが、今回、血流下での血栓形成の初期段階においてより強く血小板凝集を抑制することを発見しました。さらに、赤ワインに含まれるポリフェノールであるレスベラトロールがエタノールの抑制作用を増強し、その作用機序として抗酸化作用が一部関与していることを明らかにしました。今後は抗酸化物質の血小板活性化経路における作用点についてさらに検討し、酸化ストレスがもたらす血栓性疾患の予防策を講じる一助となればと考えています。
教育面では、本学研究医コースを卒業し基礎医学講座の教員になったという経歴から、研究医コース在学生と交流する機会も多く設けていただいており、学生生活および卒後のキャリアについて興味と不安を持つ学生の相談も受けております。所属講座では、医師国家試験の出題割合が多い衛生・公衆衛生分野の講義を担当するにあたり、学生のころの苦手意識を忘れずに、分かりやすい講義を心掛けています。自身の経験が研究医コース在学生だけでなく、全ての学生たちにとって進路を考える際の一助になれるよう、今後も尽力していきたいです。
この度はこのような栄誉ある賞をいただき誠にありがとうございます。こうして賞をいただけましたのも、所属教室の先生方を始め、これまでご指導いただいた先生方のおかげであると感じております。今後も兵庫医科大学で研究を続けていくうえで、これまでご尽力された女性医師・研究者の先生方、素晴らしい環境を築いてくださったダイバーシティ推進室ならびに関係者の方々に深く感謝申し上げます。今後もこの賞に恥じぬよう、より一層精進してまいりますので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。