2022.06.10

2021年度「女性医師・研究者顕彰」の授賞式を開催しました

2021年度「女性医師・研究者顕彰」授賞式

2022年3月17日、2021年度「女性医師・研究者顕彰」の授賞式を執り行いました。

この顕彰は、研究や教育活動において優れた業績をおさめた女性医師・研究者を表彰することで、受賞者自身はもちろん、これに続く若手医師・研究者の励みとし、将来の医学・教育を担う人材の育成を目的とするものです。
研究能力や業績について評価する「研究学術賞」、業績およびリーダーとしての資質を問う「リーダーシップ賞」、さらに若手も含め熱意や成長意欲を評価する「特別奨励賞」を設置し、厳正な審査の結果、今年度は7名が受賞されました。

当日は、ダイバーシティ推進室 飯島 尋子 室長による本顕彰の趣旨説明ののち、ダイバーシティ推進本部長 野口 光一 学長より、受賞者7名に表彰状と記念盾が手渡されました。続いて、代表者3名によるスピーチがあり、最後に野口学長からお祝いの言葉と講評がありました。

受賞者のご挨拶

研究学術賞/優秀賞

吉川 良恵 先生(遺伝学 准教授※受賞時:講師)

悪性中皮腫患者の易罹患性遺伝子の探索と患者予後予測

 研究学術賞(優秀賞)受賞論文は、JOURNAL OF CLINICAL ONCOLOGY(2018 Oct 30;36(35))に採択された「A Subset of Mesotheliomas With Improved Survival Occurring in Carriers of BAP1 and Other Germline Mutations」です。近年Gene × Environment Interaction、GXE という概念、すなわち遺伝子-環境相互作用を踏まえて疾患表現型を分析していく必要性が説かれています。悪性中皮腫(MM)の主要因は、環境要因のアスベスト暴露ですが、共同研究者ハワイ大学がんセンターDr Carbone らが見出した、BAP1 遺伝子の生殖細胞系列変異もつ家族性MM患者の発見により、遺伝要因によっても発症することが分かりました。
 患者予後との関連解析により、遺伝要因が主で発症する
 1. BAP1, TP53 等に生殖細胞系列変異を持つこと
 2. 1 親等、2 親等親族にメラノーマや腎細胞がん等腫瘍発症歴あり
 3. 患者自身がMM だけでなく複数腫瘍発症
 4. 50 歳未満でMM 発症
のいずれかに属するMM 患者の予後は良好であることを示しました。
 その後のMM 易罹患性遺伝子探索研究により、BLM 生殖細胞系列変異がMM 発症に寄与することをPNAS に発表しています(「Heterozygous germline BLM mutations increase susceptibility to asbestos and mesothelioma」PNAS.2020 Dec 29)。現在はさらに解析対象者を広げ、米国、イタリア、日本、トルコ等MM 患者の生殖細胞系列ゲノムの解析を継続しております。
 このような研究を通じて、MM の早期発見と予後良好な、遺伝要因の寄与の高いMM 患者を抽出し、Precision Medicine に貢献することが研究目的です。

 MM 研究を通し、本学、およびハワイ大学のポスドク研究者の育成・論文指導を行っています。私自身バイオインフォマティクス解析は専門外ですが、丁寧にデータを観察し、遺伝要因を探ることに楽しみを感じています。
 今後も国際共同研究が継続・発展するよう定年退職後も支援を行う予定です。

研究学術賞/努力賞

上田 美帆 先生(歯科口腔外科学講座 博士研究員※受賞時:研究生)

Effects of TGF β1 on the migration and morphology of RAW264.7 cells in vitro
(RAW264.7細胞の遊走および形態における in vitro でのTGF-β1の影響)

 平成27年より、当講座内の骨代謝研究グループに所属し研究を開始しました。破骨前駆細胞の分化におけるTGF-βの影響に関する研究を行い、令和2年には学位取得にもつながりました。その後は、細胞老化に関与するsenescence-associatedsecretory phenotype (SASP)因子であるIL-6やTNF-αの骨微小環境内での発現の検討や、血中や骨面など細胞外物理的環境の変化による力学的ストレスが破骨前駆細胞の分化へ与える影響について研究を継続し、令和3年度科研費を獲得しました。臨床では、令和3年より宝塚市立病院歯科口腔外科へ出向し、現在は市立病院での臨床の研鑽と研修医の指導を行っています。研究では、骨代謝研究グループの大学院生とともに実験手技を指導しながら研究を行っております。現在までの研究で、破骨前駆細胞を浮遊状態で培養した場合には、接着下で培養した場合と比較してc-fos, NFATc1の発現が減少し、RANKL投与下にTRAP染色においても陽性細胞数が有意に減少したことから、浮遊状態では破骨細胞への分化が抑制されることがわかりました。さらに、今回の助成金を用いて基質の硬さを変えた数種類のディッシュを購入し、異なる細胞外物理的環境による破骨前駆細胞の細胞増殖や分化への影響について研究を行っています。今日まで研究を継続できたことは、すばらしい指導医の先生方に出会えたことが大きいと思っております。今後も臨床、研究ともにスキルアップを目指し向上心をもって望み、また次の後輩へ繋げていくことが目標です。

本山 美久仁 先生(精神科神経科学講座 博士研究員※受賞時:特別研究生)

グルテン感受性と精神・身体症状との関連、グルテンフリー食の治療有効性

 本研究では、グルテン感受性と精神症状、身体症状との関連を、血中マーカーを用いて調べるとともに、グルテン感受性患者に対するグルテンフリー食の治療有効性を明らかにすることを目的としている。これまでに、統合失調症とグルテン感受性との関連を調査し、グルテン感受性が統合失調症の治療抵抗性に関連している可能性を示した。今回、グルテン感受性を有する治療抵抗性統合失調症患者に対し、グルテンの制限を行い、グルテン関連抗体価の減少とともに症状の改善を認めた症例報告が、Schizophrenia Researchにアクセプトされた。治療抵抗性統合失調症の症状改善にグルテン制限が有効であったという報告は、本症例が日本で初めてである。
 今後の目標としては、グルテン感受性と身体・精神症状との関連をさらに調べ、従来の薬物療法とは異なる、安全かつ臨床応用の容易なグルテンフリー食という食事療法の治療効果を明らかにしたい。また、グルテン感受性を有する治療抵抗性統合失調症患者の具体的臨床像は未だ明らかになっておらず、それらを明らかにしていく。
 現在、研究チームのメンバーはそれぞれ様々な状況下にある。臨床と研究の両立や、ライフイベントに応じた働き方が出来るよう研究の役割分担をし、個々にあった指導を心がけている。研究環境においても多様性を受け入れ、個々の特性に合わせた分担になるよう取り組んでおり、定期的に研究の進捗状況を報告し、業務の視覚化や細分化を行えるように、話し合いの場をもうけ、こまめにチェックできる機能を維持している。今後、これらの研究に関わる若手医師や大学院生にも、個々の特性や状況に応じた細やかな指導を行い、研究が遂行できるようにしていきたい。

リーダーシップ賞

小林 希実子 先生(解剖学講座神経科学部門 講師)

 この度は2021年度兵庫医科大学 女性医師・研究者顕彰リーダーシップ賞に選定いただき、大変光栄に存じます。私は「構造あるところに機能あり」をモットーに教育・研究を行っています。教育は、主に1年生の解剖学(組織学・骨学・運動器学)の講義と人体解剖実習を担当しています。解剖学は人体の正常構造を理解する根幹の学問ですが、膨大な量の専門用語を覚え、さらに機能に関連した空間的理解を深めなければならず医学を学び始めた1年生にとっては最初のハードルとなっています。そのハードルを越えて将来の医学教育や臨床現場のコミュニケーションツールとして必須な知識を身につける手助けをしています。研究では痛みのメカニズム解明に向けて神経組織学的な見地から実験を行っています。皮膚などで感知された痛みは一次知覚神経線維終末で受容されますが、その一次知覚神経に痛み受容体がどのように発現しているのかを検討してきました。また、なかなか痛みが治らない難治性疼痛の一つである神経障害性疼痛に焦点をあてて一次知覚神経と脊髄後角における様々な分子発現と疼痛への関与を調べています。
 「面白い研究」をできるようにするには、研究だけに没頭しすぎてもアイデアが出てきませんし、一人ではなかなかなし得ることができません。私生活も充実したうえで、研究から生まれる発見を喜び合い、議論し合い、お互いを高め合える仲間がいてこそ、良い研究ができると思っております。そのような環境をつくることができるよう努力し、皆で疼痛研究に邁進してまいります。

蓮池 由起子 先生(医学教育センター 兼 循環器・腎透析内科 准教授)

女性医師・研究者の活動支援にあたって、ICTを活用することで以下のような取り組みを実施した。

【概要】
以前からの活動として、腎臓内科を専門とする女性医師の指導を継続した。いくつかの専門的側面からアプローチしながら、興味が出た領域につき知的好奇心を持たせるよう努めた。適切な機会を待ちつつ、探求心が増大し行動変容につながるまで関与を繰り返してきた。COVID-19感染拡大により、多くの研究活動とその支援は困難となった。一方、女性医師・研究者への支援においては、従来大きな妨げとなっていた制約(時間的・物理的)の一部に対して、ICTを活用することは有用であった。

【成果】
新しいテーマでの研究を検討していた若手女性医師に対して、リモートで指導を開始することができた。また、以前からリモートで指導していた育児中の女性医師が、前向き研究の成果を国際学会で発表し、論文化したことは大きな成果として挙げられる。

【今後の目標】
近年注目されているオンライン診療は、育児中の医師が関与できる可能性がある。オンライン診療の整備・普及を見据えて、医療に生涯貢献できる女性医師の育成を目指したい。

特別奨励賞

谷口(磯野) 路善 先生(産科婦人科学 助教※受賞時:大学院生/非常勤医師)

 当科では1 0 年ほど前から抗真菌薬であるイトラコナゾールの抗腫瘍効果に着目し複数のがん種で臨床研究及び基礎的検討を報告してきた。トランスレーショナルリサーチで得られた頸癌組織のトランスクリプトーム解析を行ったところ、腫瘍関連マクロファージ( TAM )への作用が示唆され、頸癌細胞株を用いた細胞膜リン脂質組成や脂質メディエーターなどのメタボローム解析でも TAM へ作用する可能性が補強された。そこでプレリミナリーな細胞実験を行ったところ、イトラコナゾールは M2 マクロファージ( M Φ)を M1 型に再分極しがん細胞増殖を抑制する可能性が示唆された。経口投与可能で安全性の高い薬剤を用いた TAM の再分極が明らかにできれば、 TAM を介する新たな免疫治療の臨床応用やターゲット分子を同定することで新規薬剤開発が期待できると考えている。
 2年間の研究期間を経て、現在、臨床に戻った環境では研究の事を考える時間は皆無に等しい。この臨床と研究の両立、また女性という立場からの家族との両立を考えた上ですべてを完璧にする事は不可能である。継続していくことが大切であるため無理のない時間配分を考える必要がある。時にはオーバーワークになることもあるかもしれないが、自分が楽しいと好奇心を持って取り組めているのか、他人と比べずに自分軸を大切にできているのかを重要視していきたい。時には他人に頼ることも重要だと考えて おり、日々周りへの感謝の気持ちを忘れずに一人ではなくチームで研究に取り組み、チームで学ぶ、チームがブラッシュアップすることを心がけていきたい。

荻野 奈々 先生(産科婦人科学 大学院生/非常勤医師)

 このたびはこのような名誉ある賞をいただき、ありがとうございます。
 私は「化学療法後の卵巣機能の評価」の研究において、化学療法後の卵巣予備能の評価を明らかにすることを目的とし、卵巣組織凍結目的に摘出した卵巣の卵胞を病理組織学的に検討することを目的として います。化学療法はがん細胞と同様に分裂が盛んな発育卵胞の顆粒膜細胞を障害することが知られています。現在、婦人科領域では卵巣機能の評価として血清 抗ミュラー管ホルモン(AMH)が用いられており、卵巣内の発育卵胞数を反映しています。しかし、原始卵胞からはAMHは産生されないため、化学療法で発育卵胞が障害を受け、血清AMHが低くても多数の原始卵胞が存在する可能性が示唆されました。このことから化学療法後であっても卵巣組織凍結が有効であることが明らかになりました。
 私がこのような研究をしようと思った経緯は、自身が妊娠、出産を経て感じたことをがん患者さまにおいても経験していただきたいとおもい、妊孕性温存に興味を持ったからです。「がん生殖」という分野はまだ世の中に広く知られていないこともあるため、今回の賞を受賞させていただいたことにより、みな さまへの周知につながれば光栄です。
 また今回のダイバーシティの受賞 式では他の医学分野の先生方の研究内容を知ることができ、いい刺激となりました。育児、仕事しながらの研究はなかなか大変ですが、自分が学生のときに指導していただいた諸先輩方のような存在になれるよう今後も学生への指導や自身の研究に精進してまいります。

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