生体は内外からの様々な情報をもとに適切な行動を発現します。その中で痛みや痒みなど 侵害あるいは不快な刺激は生体防衛機能を発現するのみならず、持続する不快な感覚は情
動とも密接な関連があり破局的思考に陥るなど精神機能にも大きな影響を及ぼします。侵 害・不快な刺激は主に無髄で伝導速度の遅いC線維によって伝えられるなど、我々は原始
的な末梢神経を利用しますが、その情報は脊髄や視床、脳幹、辺縁系のみならず、新皮質 を含めた多くの中枢を賦活化します。これまで、様々な部位における疼痛や体性感覚の発
症機構の詳細が明らかにされていますが、これらの成果を有機的に結びつけ体系的に痛み を捉えることが重要です。そこで、前年度に引き続き、様々な角度から疼痛や体性感覚を
捉える研究成果を元に、統合的視点から活発な議論を行う研究会を開催いたします。
富永先生が開催された第43回日本疼痛学会に続き、痛みや痒みの研究を更に裾野を広げ て討論したいと考えています。そこで、日々実際に実験を行っている研究者、大学院生も
しくは博士研究員からのご発表を歓迎いたします。Preliminaryな成果でも構いませんので 、痛み・感覚研究の現場の声を、是非研究会で発信してください。多くの演題登録をお待ちしています。
尚、特別・教育講演も企画いたします!
若い研究者や学生の方々も、是非ご参加頂いて慢性痛の神経機構の理解や、今後の研究方針の策定にお役立て頂ければ幸いです。
~ 130名をこえる多くの参加登録頂きありがとうございました。~
特別教育講演の加藤総夫先生から紹介論文や問題提起を頂きました!
参加者の皆様からコメントや感想も頂きました。
痛み研究への問題提起!~加藤総夫先生からのメッセージ~
1.あなたが計測しているvon Frey thresholdは,痛み(実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、 あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験)のread
outですか? それとも,生体の警戒状態の変化のread outですか? どうして,どのような機構であなたの疼痛モデルでのその閾値が変化したと考えているのですか?
2.神経障害や炎症を人工的に与えたモデルのメカニズムの詳細な解析をしているとき,それは,その神経障害によって生じる体性感覚系の異常によって起こる「神経障害性疼痛」を解析・分析してるのですか? それとも,持続する神経障害の帰結として生じた脊髄~脳の変化に起因するnociplasticな痛みの機構を解析・分析しているのですか? それをどうやって弁別したらいいでしょうか?
3.末梢侵害受容機構を解析している研究を除き,多くの痛みの研究が「痛みと情動」が重要であるとの前提のもとに,一般的情動回路(前帯状回,島皮質,側坐核,前脳前野,扁桃体,…)を解析し,一般情動(不安,恐怖,うつ,嫌悪)に関連した行動解析を進めています.しかし,それは,「痛みの苦痛」の研究ですか? それとも,慢性的な「痛み」の状態によって生じる「一般情動回路」の変化の研究ですか? 不安様行動やうつ様行動を解析しているのはいったい何を評価しているのですか? そして,その変化の発現に対し,末梢侵害受容機構からの情報はどのような働きをしているのでしょうか?
4.痛みには感覚成分と情動成分がある,といういい方がされます.この「情動成分」は,どういう情動ですか? 「 『感覚かつ情動の不快な体験』としての痛みの苦痛」ですか? それとも,「痛み(感覚かつ情動の不快な体験)」の結果として生じる一般情動ですか? これらを区別して議論することが重要だと思います.だとしたら,「情動成分」のない痛みの「感覚成分」ってなんですか?(最後のスライド:一部修正)
皆様から多くのご意見もいただきました。
- 歴史的な話から、最新の話題まで大変勉強させて頂きました。
最後は超過していたにも関わらず質疑の時間をくださり誠にありがとうございました。
- こちらも周りでもとても好評です。若手の方にも刺激になったと思います。
- 痛みの研究会は非常に気付きの多い研究会でした。本当に参加させて頂き、勉強になりました。
特に加藤先生の講演は刺激的でした。もう少し今回の関連の論文等も学習する必要性を感じました。 - 色々な先生方の最先端のデータを拝見並びに発表を聴講し、大変勉強になったと共に
私たちももっと頑張らなければと感じました。 - 特に、最後の加藤先生の講演は、あまりに示唆に富みすぎていて、これから痛み研究を行う者にとって、ずっと心に止めておかないと行けない問題と思いました。
- 興味深い報告も多くありましたし、特に最後の加藤先生の特別講演はさすがというべきか圧巻でした。
- この度は、充実した痛みの研究会を企画・開催していただきまして、心から感謝しております。
若い方からベテランの方までの多くの発表を聞くことが出来、とても刺激的な時間を過ごすことが出来ました。情動・不安系に興味を持つ私にとっては、加藤先生のお話はとても興味深く、勉強になるものでした。加藤先生は日本を代表する素晴らしい先生ですので、また違う機会でもお話を伺えるかと思いますので、その時を楽しみにしています。 - 他の先生方の御発表から非常に多くのことを学ぶことができ、とても勉強になった研究会でした。今後の研究活動に活かしていきたいと思います。
- 素晴らしい会の企画・構成・実施,お疲れ様でした.生理研の研究会で130名というのはかなりの盛会ですね.オンラインでしたが,十分時間があって楽しい会でした.
- 痛み研究会では大変お世話になりました。一般演題、シンポジウムいずれも非常に興味深い内容で、大変勉強になりました。オンライン開催の学会でしたが参加して良かったです。
痛みの研究会2021
特別・教育講演
慢性痛の成立における腕傍核・扁桃体システム可塑性の能動的役割
加藤 総夫 先生
東京慈恵会医科大学・痛み脳科学センター
招待講演 シンポジウム
1.ミクログリアの性差と神経障害性疼痛
和歌山県立医科大学 木口 倫一 先生
2.神経傷害性疼痛モデルにおける損傷C-線維終末の可塑的変化
兵庫医科大学 山中 博樹 先生
3.痛みの慢性化を引き起こす脳内回路の解析
名古屋市立大学 大澤匡弘 先生
4. がん化学療法誘発性末梢神経障害動物モデルの妥当な評価法
京都大学 中川 貴之 先生
講演
1. Ivabradine Hydrochloride (IVA) の鎮痛作用
劉 思丹(第一三共株式会社 トランスレーショナルサイエンス第二部)
2. サルファイドによるCav3.2依存性疼痛と有機ゲルマニウムの効果
関口 富美子(近畿大学 薬学部)
3. 甘草由来フラボノイドおよびエストロゲンによるTMEM16A阻害
加藤 真未(昭和大学 医学部・九州大学 大学院薬学研究院)
4. マウス糖尿病性末梢神経障害における温痛感覚変化を明らかにする温度勾配装置
笹島 沙知子(愛知医科大学病院・生理学研究所)
5. 側坐核内ドパミンD1受容体含有神経細胞の活性化による痛覚制御機構の解析
濱田 祐輔(星薬科大学・国立がん研究センター研究所)
6.三叉神経脊髄路核尾側亜核ニューロンにおけるIL-33を介した興奮性神経伝達の変調機構
木村 有貴(日本大 学歯学部)
7. 一次体性感覚野の痛みに関わる神経細胞の役割
石川 達也(金沢大学 医薬保健研究域)
8. Investigation of the interaction between TRPV3 and TMEM79 in mouse keratinocyte
Jing Lei(生理学研究所・総合研究大学院大学・生命創成探究センター)
*****
日時;2022年1月31日(月) 9時半頃から17時頃を予定しています
場所;ZoomによるWeb開催演題登録締め切り:2022年1月14日(金)抄録提出締切;2022年1月14日(金)参加登録締め切り:2022年1月14日(金)
申し込みHP; https://www.nips.ac.jp/cs/pain2021/index.html
*****多くの方のご参加・ご発表をお待ちしております。
代表者;古江 秀昌(兵庫医科大学)
世話人;富永真琴(生理学研究所/生命創成探究センター)