研究業績

慢性肝疾患症例におけるサルコペニアの合併は、うつ症状と強く関係することが明らかに(臨床研究支援センター 准教授 西川 浩樹、肝・胆・膵内科 准教授 榎本 平之)

論文タイトル

Association between Sarcopenia and Depression in Patients with Chronic Liver Diseases

論文著者名

西川 浩樹(臨床研究支援センター)、榎本 平之(内科学 肝・胆・膵内科)、楊 和典(内科学 肝・胆・膵内科)、西口 修平(内科学 肝・胆・膵内科) ほか

概要

筋肉の量的低下や機能低下を示す「サルコペニア」は、単に運動機能の低下のみならず、多くの疾患の予後を悪化させることから近年大いに注目されています。一方、従来より慢性肝疾患では「精神症状」(特にうつ症状)をきたしやすいことが知られていますが、これら「精神症状」と「サルコペニア」との関連については十分に検討されていませんでした。本研究では慢性肝疾患症例におけるサルコペニアの合併が、うつ症状と強く関係することを明らかとしました。

研究の背景

サルコペニアは加齢に伴う筋肉量の低下として当初報告されましたが、近年さまざまな疾患に合併して生命予後に悪影響を及ぼすことが明らかとなっています。慢性肝疾患は二次的にサルコペニアを引き起こす疾患の一つですが、栄養状態不良など特殊な病態を有するため、それに特化した診断基準が必要と考えられました。そこで肝硬変を対象としたサルコペニアの判定法について、2016年5月に日本肝臓学会から診断基準を含むガイドラインが発表されました。当科では慢性肝疾患の栄養評価や介入に関する研究を長年に行っており、上記ガイドラインの作成でも重要な役割を果たしました。また一方で当科では、ウイルス性肝炎の症例を中心として、慢性疾患の精神症状・生活の質に関する研究も行って来ました。
本検討は、これまで当科で積み重ねてきた慢性肝疾患に関する「栄養評価・サルコペニア研究」と「精神症状の研究」を融合させた研究として行われました。

研究手法と成果

慢性肝疾患414人(平均年齢 61.5歳、男性 198人・女性 216人)を対象に体組成分析機(InBody 720)による筋肉量の評価と、握力測定による筋肉機能の評価を行いました。またうつ症状については広く用いられている、ベックの抑うつ質問票(BDI-2)の点数によって評価を行いました。
BDI-2の数値が高いほどうつの程度は強くなりますが、慢性肝疾患症例のうち、スコア0-10点と正常であったのは284人(68.6%)に留まり、全体の30%以上が11点以上とうつの合併を認めました。また肝疾患の進行した肝硬変の症例(152人)では、慢性肝炎の症例(262人)よりもBDI-2のスコアが高く、うつの程度が強いことがわかりました。
また筋量・筋力の両者の低下(サルコペニア)は、うつ症状に関連する因子であることも明らかとなりました。特に筋肉の量的低下以上に、握力低下(筋肉の質的・機能的低下)の方が、より強くうつ症状に関連していました。
今回の研究の結果から、サルコぺニアが精神症状の悪化に関与することも示唆され、将来的に慢性肝疾患症例の生活の質の改善への貢献も期待されます。

今後の課題

本研究は兵庫医科大学の Hyogo Innovative Challenge「脳内ストレス顕在化の評価を通じた疾病予防戦略と実装」の研究の一環として、サルコペニアと種々の精神症状を検討する企画における成果として得られました。現時点では臨床的な事象を明らかにした段階であり、今後サルコペニアと精神症状について、より詳細な機序の検討を行いたいと考えています。

研究費等の出処

掲載誌