薬学研究科(大学院)

理念・目標、各専門分野紹介

理念・目標

現代医療においては、各分野の高度専門化が進む一方、異なる職種間の連携や地域の医療・介護施設、住民、行政との連携が強く求められています。その中で、医療にかかわる者は広い社会的視野をもって、最先端の知識と科学的なものの見方を生かしていく必要があります。本学大学院薬学研究科は、あらゆる場面で「多様な分野で薬学的立場から全人的医療を支えることのできる医薬品の専門職者を養成する」という本学薬学部の精神を継承しつつ、医学研究科との協力関係を最大限に活用しながら、より先端的な内容の講義、演習、研究活動によってその能力をさらに高め、医療薬学の諸問題を解決する能力を持った人材を養成することにより、医療の発展に貢献することを理念とします。この理念を実現するために、以下に示す能力を身に付けた人材の養成を目標とします。

  1. 高度な研究能力、すなわち医療の現場において問題点を発見し、それを解決する適切な研究計画を立案し、さらにその成果を論文化することのできる能力を持って医療の質向上と変革を推進することができる医療専門職者。
  2. 医療薬学における問題点を基礎薬学の視点から提起し、それを解決しうる基礎的・実験的研究課題を自ら設定し、それを新しい薬剤・製剤・臨床適応の開発に発展させていくことができる薬学研究者。

臨床ゲノム薬理・分子薬物動態学

医薬品の個別化適正投与をめざし、臨床ゲノム薬理学と分子薬物動態学を基盤とした以下のテーマに関する研究指導を行います。研究テーマの主題は「個の医療の確立」で、ゲノム薬理学、分子薬理学、分子薬物動態学、数理解析学を駆使した研究が主体となります。

  1. 薬物代謝酵素群および薬物標的分子をターゲットとする臨床ゲノム薬理学の確立および診断ツールの開発
  2. アポトーシス誘導型抗がん剤の分子薬物動態を基盤にした、テーラーメードがん治療への挑戦
  3. 疾病等による薬物代謝酵素活性変動の分子メカニズム解明と臨床現場への還元
  4. より有効かつ安全な癌化学療法をめざした抗がん剤耐性機構の解明と抗がん剤感受性因子の探索

天然薬物学

海洋生物や薬用植物などの天然由来資源から、医薬シーズとなる化合物を最新の知見をもとに開発したスクリーニング評価系を用いて探索します。見いだした生理活性化合物については、作用の解析や化学誘導による最適化など医薬品シーズとしての展開を図り、臨床適用可能な医薬リード化合物の開発をめざします。

  1. PCA-1 を標的とする分子標的抗がん剤リード化合物の探索研究
  2. 抗がん剤開発を指向した腫瘍血管新生阻害物質の探索研究
  3. 抗がん剤耐性克服物質の探索と耐性に関わる作用機序の解明研究
  4. 知覚神経系に作用する新規鎮痛物質の探索研究

応用医療薬学

医療における薬剤師の職能拡大を視野に入れ、特に薬剤投与に関する様々な問題点を明らかにし、その解決に必要なシステムやデバイスの研究開発や薬物療法の個別最適化をめざした研究を行います。また、セルフメディケーション・セルフケアに関連する研究も行います。具体的には以下に示す研究テーマに取り組み、薬剤師の社会的地位の向上をめざした研究を推進していきます。

  1. 自己注射(インスリン、成長ホルモンなど)の補助器具に関する研究
  2. デバイスの違いが薬剤投与に与える影響に関する研究
  3. 薬剤投与における個別化医療に関する研究
  4. 薬学投与におけるママ・パパサポートに関する研究
  5. セルフメディケーションにおける地域薬剤師の役割に関する研究

免疫制御学

がんや慢性炎症を克服するための新しい免疫制御法の開発をめざした研究を指導します。具体的には、免疫学および関連する細胞生物学や分子生物学などの手法を用いて、以下のテーマに取り組み、研究の立案と実施および研究成果の論文発表等に必要な能力を養います。

  1. 免疫抑制性がん微小環境の形成とその制御に関する研究
  2. がん幹細胞の同定とその免疫学的な制御に関する研究
  3. 炎症反応の免疫学的制御に関する研究
  4. 様々な疾患におけるサイトカインの役割に関する研究

レドックス生物学

活性酸素を健康作りに活用するための研究です。活性酸素分子種はフリーラジカルとして生体に酸化ストレスをもたらすのみならず、シグナル分子として細胞内情報伝達に関与し、生体の調節機構に重要な役割を担っています。分泌型スーパーオキシドジスムターゼは細胞表面の糖衣構造に親和性をもつ糖タンパク質です。分子生物学的手法を用いて変異を導入した組み換え形タンパク質を作製し、一次構造と酵素の分布に関する知見を積み重ね、活性酸素代謝を作用点とする創薬への応用をめざしています。

  1. 抗酸化酵素(特に分泌型スーパーオキシドジスムターゼ)による活性酸素代謝の生理的役割に関する研究
  2. タンパク質の糖鎖修飾と細胞内分布に関する研究

神経病態制御学

慢性難治性疼痛や虚血性神経障害などの神経系における病態について、分子生物学的、電気生理学的、行動薬理学的手法を用いて解析を行い、その発生機序を解明するとともに、薬物による病態制御法の開発と臨床応用に向けてのシーズ探索を行います。

  1. 痛覚伝達系における疼痛関連受容体の機能調節に関する研究
  2. 痛覚伝達系における神経活性物質の発現調節に関する研究
  3. 慢性難治性疼痛発生と治療の分子メカニズム解明に関する研究
  4. 慢性難治性疼痛に対するシーズ探索に関する研究
  5. 虚血性神経障害の病態解析と治療法開発に関する研究
  6. 神経伝達障害の病態解析と認知症治療法開発に関する研究
  7. 神経疾患における漢方治療の効果とメカニズム解析に関する研究

医薬品化学

新規医薬品の開発とそれを支える基盤新技術の構築をめざして、次世代型薬化学研究を行います。有機化学的・物理化学的手法や方法論を駆使して、有機合成化学、触媒化学、医薬品化学、創薬化学を高度化するための研究指導を行います。以下に示す研究テーマに取り組み、高度な研究能力を養います。

  1. 環境に調和適合したカスケード型有機合成反応の開発に関する研究
  2. 新規ラジカル反応の開発とその立体制御に関する研究
  3. 新規な固体触媒や分子触媒の創製とその構造・機能評価に関する研究
  4. 触媒的酸化還元反応の開発とその反応機構の解明に関する研究
  5. 生物活性化合物の合成と新規医薬品のシーズ創出に関する研究
  6. 不安定な反応活性種の動的変化の追跡と反応制御に関する研究
  7. 生理活性物質の生体内ダイナミクスの解析に有用な蛍光プローブの開発に関する研究
  8. 蛍光プローブの開発に資する新規蛍光色素の創製に関する研究

創薬化学

製薬企業での創薬研究活動を基本とし、ADME 等も考慮した試薬開発ではない“薬”の探索合成を行います。また、独自に開拓してきたアフィニティ樹脂を用いた生理活性物質のターゲット探索に関する基盤技術を活用し、新規創薬ターゲット探索および生理活性物質のターゲット探索を行います。

  1. 新規や抗がん剤の探索合成に関する研究
    国内外研究機関・企業と連携し創薬化学を実践する
  2. 生理活性物質のターゲット探索に関する研究
    ターゲット未知の開発(候補)品のターゲット探索等を行う
  3. その他創薬開発に関する研究

臨床医薬品化学

「臨床」における「医薬品」に対して、「化学」を基盤とした研究を行います。実験を中心としたWet研究、データ解析を中心としたDry研究の実施が可能です。
Wet研究では、既存薬や既存薬の代謝物を新たな医薬品へと展開するドラッグリポジショニング、既存薬をシード化合物とした探索合成研究を展開します。さらに、2022年度からは、有機反応開発の研究も行います。
Dry研究では、JADERおよびFAERSを用いた医薬品有害事象データベース研究を行っています。さらに、データベース解析から得られた情報を基にした臨床研究へと展開したいと考えています。また、薬剤師の質向上をめざした薬学教育研究も展開しています。

  1. 膠芽腫に対するドラッグリポジショニング研究(Wet研究)
  2. 抗がん薬による心毒性発症傾向の解析および予防薬の開発(Dry & Wet研究)
  3. 化学的な視点を基にした医薬品有害事象データベースを用いた種々の医薬品の有害事象解析(Dry研究)
  4. コバルトなどの金属を用いた有機反応開発(Wet研究)
  5. 化学の臨床活用をめざした薬剤師教育プログラムの開発(Dry研究)
  6. 薬剤師・薬学生の医学文献評価能力向上に向けた教育プログラムの開発(Dry研究)
  7. その他、薬学教育研究(Dry研究)

微生物・寄生体学

感染症の制御をめざし、血液感染症および新興再興感染症を中心に、薬理学的、免疫学的、分子生物学的手法を主に用いて、感染機構の解明、薬剤感受性/耐性機構の解明、診断法、治療法、予防法の確立に関わる研究、ならびに疫学調査研究を行います。主な研究テーマは以下のとおりです。

  1. 病原体の感染性、病原性に関与する細胞内情報伝達機構の解明に関わる研究
  2. 病原体の薬剤感受性/耐性機構の解明に関わる研究
  3. 薬剤耐性獲得病原体の薬剤感受性回復誘導に関わる研究
  4. 新興再興感染症の診断、治療、予防に関わる臨床的研究
  5. 新興再興感染症の流行の実態解明に関わる分子疫学的研究

微生物制御学

感染症や微生物汚染・微生物劣化を招く有害微生物を分離同定し、性状調査や疫学的調査を行います。薬剤に耐性を示す有害微生物については、その耐性メカニズムを解明します。これらの情報を元に有害微生物の制御方法を提案、実施し、その効果を微生物学的、生化学的、分子生物学的方法を含む手法で評価します。評価結果に基づき、制御方法の改善に取り組み、新規微生物制御方法を開発します。

  1. 有害微生物の分離同定・性状調査に関する研究
  2. 有害微生物の疫学的調査に関する研究
  3. 有害微生物の薬剤耐性メカニズムに関する研究
  4. 環境調和型の新規微生物制御技術の開発に関する研究

呼吸器疾患病態治療学

高齢化社会や喫煙・大気汚染・アスベスト曝露などの環境要因から、現代社会では肺癌・悪性中皮腫などの呼吸器悪性腫瘍、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー性疾患である気管支喘息、難治性呼吸器疾患である間質性肺炎・肺線維症、呼吸器感染症である肺炎・肺結核など多岐にわたる呼吸器疾患は、増加の一途にあります。しかしながらそれらの病態や治療法は十分に解明・確立されず、まだまだ未知の領域です。
本研究指導科目分野では、 (1)臨床応用可能なバイオマーカーの確立、(2)病態メカニズムの解明や(3)新規治療法の開発などをめざして、細胞やマウスなどの動物を用いた基礎研究や臨床研究を行い、研究能力を養成します。そしてその研究成果を学会発表や論文発表して、学位取得できるように指導いたします。