医学部医学科
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兵庫医科大学医学会

先端医学研究所 神経再生研究部門

講座(部署)紹介

現在、わが国は急速な超高齢化社会を迎えており、それに伴う要介護者の急速な増加は深刻な社会問題となっている。高齢者が健康で自立した生活を送るためには、虚血性脳血管障害やそれに伴う認知症に対して根本的な治療法を提供する必要がある。神経再生研究部門は、これらの疾患に対して、神経再生による神経脱落症状の回復を目指した普遍的な治療法を確立する目的で設立された。

本研究部門は、脳組織再生に関するバイオ環境因子の検索や成体組織幹細胞などの基礎研究に留まらず、神経再生医学を応用した再生医療の実現を目指しており、基礎研究の成果を速やかに臨床応用に繋げるためのトランスレーショナルリサーチを行っている。具体的には、脳梗塞などの病態時に特異的に誘導される内在性の幹細胞を単離し、それらを細胞治療に応用するための基礎研究や産学連携事業を介して幹細胞の賦活化を促進するような創薬の開発研究にも取り組んでいる。

現在までに脳血管障害を対象に自己血球系幹細胞移植による再生医療的手法を用いた神経再生療法の臨床試験を実施してきた(J Cereb Blood Flow Metab, 28, 445-449, 2008; J Cereb Blood Flow Metab, 29, 34-38, 2009; Stem Cells Dev, 24, 2207-2218, 2015)。また、様々な中枢神経疾患における神経再生機構の解明にも精力的に取り組んでおり、これまでの研究により、脳梗塞をはじめとし(Stem Cells Dev, 20, 2037-2051, 2011)、多発性硬化症のような脱髄性の神経疾患においても(Cells, 8, 1025, 2019)、内在性の幹細胞が誘導されていることを明らかにしてきた。今後、これらの内在性幹細胞を臨床応用し、新規神経再生療法を開発することで、脳血管障害や認知症のみならず、最終的には神経変性疾患を含めた難治性脳疾患の治療の実現を目指している。

研究の現状

概要
血管再生や神経再生などの再生医療技術を応用し、脳血管障害を中心とした神経疾患に対する新しい治療法の開発を目的とした総合的研究を行っている。


主題
  1. 病態時に誘導される幹細胞を用いた神経再生に関する基礎研究
    再現性の高い脳梗塞マウスモデル(特許第4481706号;脳梗塞疾患モデルマウス)を用いて、脳梗塞巣から容易に神経幹細胞を単離培養し、それらを増殖させる技術を開発した(特許第4905719号;神経幹細胞の調整法)(Eur J Neurosci, 29, 1842-1852, 2009)。この幹細胞は血管壁細胞(血管周皮細胞:Pericyte)が虚血病態下でリプログラミングを受けて幹細胞化した多能性幹細胞 (Ischemia-induced multipotent stem cells: iSC) であると考えられており、神経のみならず血管系の細胞にも分化するため、傷害後に失われた脳組織を再生する能力を秘めている(Stem Cells, 33, 1962-1974, 2015; J Neuroinflammation, 13, 57, 2016)。また、最近の研究により、iSCは間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells: MSC)と同様に多能性を有し、両者は類似した性質も有するものの、iSCはMSCと比べ、機能的な神経細胞に分化する能力が高いことが明らかになった(Stem Cells Dev, 27, 1322-1338, 2018)。
  2. 虚血性脳血管障害における病態解明に関する研究
    現在、急性期の脳梗塞患者に対して、血栓溶解療法やカテーテルを用いた血管内治療が行われている。治療適応は拡大される傾向にあるが、脳梗塞発症後、数時間以内に神経細胞は細胞死に陥り、それ以降は治療の適応外であるというのが現在のコンセンサスである。しかしながら、我々は、虚血による神経脱落後も、虚血領域に血管系細胞が生存していることをマウス脳梗塞モデルにて明らかにしてきた(Transl Stroke Res, 8, 131–143, 2017; Histol Histopathol, 33, 507-521, 2018)。また、その時期に再灌流を行うことで、脳梗塞後の組織修復や機能改善が促進され、そのメカニズムの一端として、iSCなどの幹細胞を介した再生機構が関与していることを、最近、明らかにした(Cells, 9, 1374, 2020)。本研究は、脳梗塞患者における再灌流療法の適応が、さらに拡大される可能性があることを示唆しており、今後の臨床応用への発展が期待される。
  3. トランスレーショナルリサーチによる再生医療の実践
    iSCを介した神経再生療法を臨床応用に繋げるためには、iSCがヒト脳梗塞巣にも存在するかどうかということが非常に重要な鍵となるが、我々は、当大学脳神経外科学講座との共同研究により、脳梗塞患者の梗塞巣にもiSCが存在することを確認しており、その単離にも成功している(Stem Cells Dev, 26, 787-797, 2017; Stem Cells Dev, 28, 528-542, 2019)。これまでの研究により、免疫系細胞や血管系細胞がこの細胞の生体内動態に関与し、脳梗塞後の組織修復に影響を及ぼしていることを解明しつつある (Stem Cells, 27, 2185-2195, 2009; Stem Cells, 28, 1292-1302, 2010; J Neurosci Res, 88, 2385-2397, 2010; Cell Death Differ, 19, 756-767, 2012)。そこで、今後はiSCの分化、増殖、細胞死などを制御している因子を同定し、それらを標的とした創薬を開発することで臨床応用に繋げていく予定である。また、iSCは、in vitroにて高い増殖能を有するため、脳梗塞患者より単離したiSCをin vitroで増殖させ、十分な細胞数を確保することが可能である。現在、その細胞を脳に移植することで、傷害部位の脳の修復や再生を目指した新規治療法の開発にも取り組んでいる(Transl Stroke Res, 8, 515–528, 2017; World J Stem Cells, 11, 452-463, 2019)。


自己評価・評価及び将来の展望

研究成果の一部は、既に特許となっている(特許第4481706号,特許第4905719号)。我々が開発した脳梗塞治療効果の評価に適したモデルを他大学や製薬企業の研究所に提供することで脳卒中の普遍的な治療法の研究やその発展に貢献している。また、臨床研究グループと脳卒中再生医療研究チームを結成し、虚血性脳血管障害に対する神経再生医療のための基盤的研究等を実施している。今後は、iSC幹細胞培養システムを用い、神経再生に関わる新たな因子(免疫制御因子、幹細胞分化・増殖促進因子、幹細胞死抑制因子など)を発掘し、神経疾患治療薬となり得る新たな化合物を探索していく予定である。


責任者 中込 隆之(研究所教授)
TEL 0798-45-6821
FAX 0798-45-6823



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