教授挨拶

● 講座の変革：「天の時」と「地の利」

内科学講座呼吸器科を主宰しております木島です。平成29年4月1日付で着任しました。私たちの講座は平成14年に誕生し、アスベストによる中皮腫が社会的大問題となった時代背景（天の時）と、まさにその中心に立地する大学という地理的特異性（地の利）が相俟って、社会のニーズに応えるべく本邦随一の中皮腫の診療拠点として発展してきました。先代の中野孝司教授が築かれた基礎をさらに発展させ、新しい分野の研究に取り組むと同時に、ニーズの高いオールマイティな呼吸器疾患の診療の充実にも力を注ぎ、地域医療に貢献するとともに、大学の使命を遂行し社会貢献に邁進したいと思います。

● 呼吸器疾患領域の現状：平成時代における進歩と令和時代のアンメット・ニーズ

呼吸器疾患診療は、平成時代にいくつかの画期的進歩を遂げました。がん領域では、原因遺伝子の同定と分子標的薬の開発、免疫チェックポイント機構の解明とその阻害薬の開発という2大革命が起こりました。喘息領域でも、吸入ステロイド薬の普及が劇的な死亡者数の低下をもたらし、生物学的製剤（サイトカインをターゲットとした分子標的薬）の臨床応用が難治性喘息に希望の光を灯しました。間質性肺炎の領域でも抗線維化薬が開発されました。しかしながら、これらは呼吸器疾患領域のほんの一部でしかなく、原因や病態が不明であったり、エビデンスのある診断治療法が確立されていなかったりと、その病態解明や新規診断治療法の開発が待ち望まれる疾患がまだまだ山とあります。逆に言えば、非常に魅力的な研究対象の宝庫とも捉えることができ、「わからない」から面白い分野なのです。

● モットー：「真実への情熱、探究の精神、誠実さ」を実践できる医療者・研究者の育成

講座のモットーは、「真実への情熱、探究の精神、誠実さ」です。私たちは日々の診療に全力を注ぐ一方で、「わからない」ことに好奇心をもち、その仕組みを明らかにし、新しい道を切り開くため、臨床研究はもちろん基礎研究にも日夜力を注いでいます。幅広い知識と高い技術に裏付けられた高度な専門性を持つだけでなく、そのベースに医師の根本である目の前の患者さんにしっかりと寄り添える心の豊かな人間性を備えた次世代の呼吸器専門医の育成を目指します。ベッドサイドでの実践から学ぶ姿勢を重視し、学会発表や論文作成を通して、思考力，まとめる力，伝える力を養い、将来指導者として独立できるよう育成します。自主性を重んじ、日々の臨床を通して「わからない」こととそれに挑戦する突破口を見出し、深く掘り下げて行ける研究マインドを持った次世代の育成を行います。

● 具体的な進路指導

好奇心旺盛な若者の入局、大歓迎です。呼吸器内科専門医、アレルギー専門医、気管支鏡専門医はもちろん、がん薬物療法専門医も在籍しており、若手医師が早期に呼吸器領域やがん領域の各種専門医資格を取得できるよう医局一丸となってサポートします。また、研究に興味のある若者には大学院に進んでいただき、学位取得を目標とし、きめ細やかな指導を行います。呼吸器内科学および臨床腫瘍薬剤制御学（胸部腫瘍学特定講座）の大学院（フルの大学院、夜間大学院）と大学院の過程を経ない学位取得コースがあり、個々の希望に応じて対応します。がんプロフェッショナル育成プラン、さらに、働き方改革にも積極的に取り組み、女医さんにも働きやすい環境を提供します。

● 将来の方向性：「人の和」を大切にした人材育成

医学の歴史は感染症との戦いから始まったと言っても過言ではありません。異物を排除する免疫システムがなければ人類は生存できません。がん免疫も然りです。特に、呼吸器系は常に病原体や粉塵といった抗原の脅威にさらされており、呼吸器疾患は免疫とは切っても切れない関係にあります。「敵にすればこれほど手強いものはないが、味方にすればこれほど心強いものがない」のが免疫機構です。次元号は、間違いなく、免疫が中心の時代、そして、AI, ビッグデータ，ゲノム医療が中心の時代になります。次世代を担う人材の育成が最重要課題です。そのために最も大切なことは、「天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず」という孟子の言葉にあるように、「人間そのものの努力とグループ内での団結と協力」です。教室員が切磋琢磨し助け合い、やり甲斐とプライドをもって働ける環境を提供することとその舵取りが私の役目であり、若い原石を発掘し磨き上げ、立派な臨床医・研究者・指導者を育成することが私の夢です。実地臨床に則した幅広い視野での診療・教育・研究にバランスよく力を注いで行く所存です。私たちの教室は「やり甲斐と達成感を味わえる教室」です。一人でも多くの若者諸君が私たちの仲間になってくれることを願っています。

木島 貴志