研究概要 ～ 現在の主な研究テーマ

統合失調症は有病率が約150人に1人と高く、若年より発症し思考や感情、意欲など全体的な精神機能に様々な程度の障害をきたす。慢性に経過することが多く、個人の生活に支障をきたすばかりでなく、社会や経済の問題としてもしばしば注目される。現在では抗精神病薬の改良により、急性期の症状コントロールが可能な例も少なくないが、再発や人格の闊達性に乏しくなることもしばしば認められる。発症には遺伝と環境の両方が関係するとされるが、この障害の原因が不明であることが治療の発展を遅らしてきた。

当科では、病因についての生物学的研究を行い、免疫学的アプローチを中心に未服薬の統合失調症に発現する異型リンパ球のプロファイリングを試みている。細胞表面の活性化マーカーの同定を行った結果、B細胞との関連性に注目したが、最近の世界的GWAS研究で明らかにされたゲノム免疫関連領域との関係性を考慮し、発展研究を企画している。ならびに、異型リンパ球の組織化学的所見から細胞周期異常の存在を想定したが、定量的PCR法によりサイクリン依存性キナーゼ（CDK）やヘリカーゼの発現低下を確認している。総じて、異型リンパ球はバイオマーカーとしての機能、自己免疫および遺伝的変異の観点から攻略すべきものと考える。さらに、統合失調症の薬物治療中にみられる錐体外路症状と強迫性障害の運動症状との関連性から脳内ドーパミンシステムを明確にすべく、統合失調症の運動および精神症状の解析、ならびに運動障害関連遺伝子の変異について共同研究を進めている。また、治療的アプローチとして、一部の統合失調症患者は健常者と比較して、グルテン感受性に関する自己抗体の上昇が明らかになっており、小麦からできるグルテンを抜いたグルテンフリー食を摂取することにより症状が改善したケースも報告されている。その詳細は不明であるが、当科では統合失調症患者に対する新たな有効な治療法を検討するため、統合失調症患者の血液からグルテン感受性を測定し、その臨床的背景との関係性とグルテン感受性を有する患者へのグルテンフリー食の有効性に関する研究を行っている。

病変の首座は線条体であるが、臨床症状を考えると病変は大脳全体に及ぶことが推測できる。我々は、形態的特徴に分類した病変分布と形態計測学的な研究を行っており、形態的特徴と病理学的重症度の関連について結果を得ている。近年、タウとの関連を報告している研究も見られ、その病態は現在も不明な点が多い。病理学的研究を重ねていくことは、病態および病変の進行様式を解明する上で、重要な手がかりになりうるものと考える。