学校法人 兵庫医科大学

島津製作所と潰瘍性大腸炎の新たな評価法を開発~液体クロマトグラフ質量分析計での色素剤の血中濃度から病態を定量評価~

研究

兵庫医科大学(兵庫県西宮市、学長:鈴木 敬一郎)消化器内科学 教授の福井 広一らの研究グループと株式会社島津製作所(京都府京都市、社長:山本 靖則 ※以下、島津製作所)は、液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)(*1)を活用し、色素剤インジゴカルミンの血中濃度から、潰瘍性大腸炎や過敏性腸疾患症候群の病態の指標である腸管粘膜透過性を評価する手法を開発しました。今回開発した手法は、患者の負担軽減に加えて、病態の定量的な評価を実現して、原因究明や治療法開発への貢献が期待されます。本研究成果は、本学と島津製作所が連携し、2019年に開設した産学連携講座「疾患オミクス解析講座」で開発され、第49回医用マススペクトル学会(9月13~14日に島津製作所本社にて開催)で発表いたします。

本研究のポイント

●本学は島津製作所と「包括共同研究契約」を締結し、産学連携・共同研究を進めており、本研究もその1つである。
●潰瘍性大腸炎や過敏性腸疾患症候群の病態の指標である ”腸管粘膜透過性を評価する手法" を見出した点が画期的な成果である。

概要

潰瘍性大腸炎の国内患者数は約20万人、過敏性腸疾患症候群の国内潜在患者数は人口の約10%の1,200万人といわれています。症状が重くなると腹痛や頻便により日常生活に支障をきたします。原因は明確ではなく、腸バリア機能障害による腸管粘膜透過性の高まりで生じる「腸もれ(Leaky Gut)」が一因と考えられています。腸もれによって消化中の食品抗原や腸内細菌およびその生成物が体内に侵入して発症するとみられているものの、生きた人体における粘膜透過性の定量的な評価手法はこれまでなく、疾患機構と病態解明の研究は進んでいませんでした。これまで糖類の内服後に尿に排泄される濃度を測定して粘膜透過性を評価するラクツロース・マンニトール法がほぼ唯一の粘膜透過性評価法として用いられてきましたが、この方法では1日分の蓄尿が必要で、被験者の負担が大きく、消化管運動や食事、腎機能が測定値に影響を及ぼすことなどが問題点として挙げられていました。

研究グループは「内視鏡検査で用いたインジゴカルミンが検査後、尿中に排出される」という現象に着目して、この色素剤を用いた粘膜透過性評価法を検討しました。検査でインジゴカルミン散布後にその血中濃度を潰瘍性大腸炎患者11名と健常者5名について病態との関連を評価した結果、両グループで濃度に有意な差が見られ、本手法の有用性が示唆されました。インジゴカルミンの血中濃度測定には当社の液体クロマトグラフ質量分析計「LCMS-8060」が用いられました。従来の潰瘍性大腸炎や過敏性腸疾患症候群の治療では、薬の投与後の自覚症状で治療効果を測ってきました。新手法が実用化されると、患者の負担が抑えられる効率的な治療につながります。兵庫医科大学と島津製作所は本手法の臨床研究を継続し臨床的意義を確立させます。今後、本学は島津製作所と協力して本手法の臨床的エビデンスの取得を進め、創薬研究を支援する研究用機器の開発や臨床検査に使用できる医療機器の開発を目指します。

用語解説

*1 液体クロマトグラフ質量分析計:移動相が液体である液体クロマトグラフ(LC)と質量分析計(MS)を接続した分析装置。(下写真)

参考

本件に関する問い合わせ

■研究に関する問い合わせ
大学事務部 URA
E-mail: ura-hyogo@hyo-med.ac.jp

■広報窓口
総務部広報課
電話番号:0798-45-6655
E-mail:kouhou@hyo-med.ac.jp