研究業績

IgA腎症と歯周病菌との関連性を明らかに(総合診療内科学 講師 長澤 康行)

国際学術誌「International Journal of Molecular Sciences」(1, December, 2021)(10, January, 2022)に、総合診療内科学 講師 長澤 康行らの論文が掲載されました。

本研究は、日本国内において最も頻度の高い原発性糸球体腎炎「IgA腎症」の治療について、「扁桃摘出が有効であること」を明らかにしたものです。

研究内容に関する詳細は下記をご覧ください。

論題

Relationship between IgA Nephropathy and Porphyromonas gingivalis; Red Complex of Periodontopathic Bacterial Species

論文著者名

長澤 康行※1、野村 良太※2、三崎 太郎※3、伊藤 誓悟※4、仲 周平※5、和唐 薫子※6、奥中 美恵子※7、渡部 舞子※8、伏見 勝哉※9、都築 健三※10、仲野 道代※11、仲野 和彦※12

※1 兵庫医科大学 総合診療内科学
※2 大阪大学大学院 歯学研究科小児歯科学
※3 聖隷浜松病院 腎臓内科
※4 自衛隊岐阜病院 診療部内科
※5 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 小児歯科学分野
※6 大阪大学大学院歯学研究科 小児歯科学
※7 明和病院 耳鼻咽喉科
※8 明和病院 耳鼻咽喉科
※9 兵庫医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学
※10 兵庫医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学
※11 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 小児歯科学分野
※12 大阪大学大学院歯学研究科 小児歯科学

概要

IgA腎症患者から摘出された扁桃では、もっとも病原性の強い歯周病菌である「RedComplex」に属するP. gingivalisとT. forsythiaが習慣性扁桃炎で摘出した扁桃に比べ、有意に検出された。習慣性扁桃炎患者の扁桃では、92%が「RedComplex」に属する歯周病菌が検出されなかったことに対して、IgA腎症患者は「48%の患者」で検出された。この中で最も検出率が高いP. gingivalisをマウスに経鼻投与をしたところ、腎臓にIgAの沈着を認められ、IgA腎症特有の組織変化が確認された。これは、P. gingivalisがIgA腎症の病因となっていることを強く示唆している。

研究の背景

IgA腎症患者では、急性扁桃炎時に肉眼的血尿を呈するなど、扁桃の細菌感染との関連が考えられてきた。口腔内の病原性の高い細菌としては齲蝕菌と歯周病菌があり、この歯周病菌の中でも特に病原性の高い「RedComplex」は、T. denticola、P. gingivalis、T. forsythiaの3種類に属している。この3種類の「RedComplex」の細菌は嫌気性菌であり、扁桃陰窩の嫌気環境で定着する可能性がある。しかし、T. denticolaに関しては、「IgA腎症患者で検出率が高い」という報告があり、それ以外の歯周病菌についてはIgA腎症患者での検討は行われていない。

研究手法と成果

まずは、研究に同意が得られたIgA腎症患者23名と習慣性扁桃炎患者63名の摘出扁桃の「RedComplex」に属する歯周病菌の検出率の検討を行った。P. gingivalis、T. forsythiaの2種の歯周病菌はIgA腎症患者で有意に高く検出され、T. denticolaは両群ともに検出率は低値であった。「RedComplex」に属する歯周病菌のいずれかが検出されるのは、IgA腎症患者では48%であったのに対して、習慣性扁桃炎患者では8%であった。
このうち、最も検出率の高いP. gingivalisについては、マウスに対して麻酔下で週1回の経鼻投与を8週間継続した。その結果、投与後2週間後よりIgA腎症で特徴的なメサンギウム領域の拡大が投与群において有意に多く認められた。
また、投与後6週後以後で80%のマウスにおいてIgAの沈着を認めた。これらはIgA腎症に特徴的な組織変化であり、P. gingivalisがIgA腎症の病因となっている可能性が強く示唆された。

研究費等の出処

JSPS KAKENHI Grant Numbers JP17K09721, JP19K10098,
JP20K10225 and 21K08242.

今後の課題

今回の結果は、「口腔ケアがIgA腎症患者の治療として重要であること」を示唆しているが、今後の検討は必要である。
また、歯周病菌をターゲットとしたIgA腎症の治療においても、現状の報告がないため、今後の検討が必要である。

掲載誌