研究業績

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の病態形成メカニズムを明らかに(糖尿内分・免疫内科学 講師 橋本 哲平)

国際学術誌「Frontiers in Immunology」(12, January, 2022)に、糖尿病内分泌・免疫内科学 橋本 哲平講師らの論文が掲載されました。

本研究は、自己免疫性の全身性血管炎である「好酸球性多発血管炎性肉芽腫症」について、病態形成メカニズムを明らかにしたものです。

研究内容に関する詳細は、下記をご覧ください。

論題

Increased circulating cell-free DNA in eosinophilic granulomatosis with polyangiitis: implications for eosinophil extracellular traps and immunothrombosis

論文著者名

Teppei Hashimoto※1, Shigeharu Ueki※2, Yosuke Kamide※3, Yui Miyabe※2, Mineyo Fukuchi※2, Yuichi Yokoyama※1, Tetsuya Furukawa※1, Naoto Azuma※1, Nobuyuki Oka※4, Hiroki Takeuchi※5, Kyoko Kanno※6, Akemi Ishida-Yamamoto※6, Masami Taniguchi※3, Akira Hashiramoto※7, Kiyoshi Matsui※1

※1 兵庫医科大学 糖尿病内分泌・免疫内科学講座
※2 秋田大学大学院医学研究科 総合診療・検査診断学講座
※3 独立行政法人国立病院機構 相模原病院
※4 京都近衛リハビリテーション病院
※5 独立行政法人国立病院機構 南京都病院
※6 旭川医科大学 皮膚科学講座
※7 神戸大学保健学研究科 病態解析学

概要

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)は好中球細胞質抗体(ANCA)が出現する自己免疫性の全身性血管炎で、好酸球が病態形成に重要な役割を果たしているが、そのメカニズムは明確になっていない。

私たちはアレルギー性炎症に重要である好酸球細胞外トラップ(EETs)による細胞死(EETosis)とそこから細胞外に放出されるDNA断片(cell-free DNA: cfDNA)に着目し、患者血清や病理組織を用いてこれらの検討を行った。その結果、EGPA末梢血には活動期にcfDNAが高濃度に存在しており、血栓形成マーカーと相関していること、病理組織においては微小血管内血栓にEETosisをきたした好酸球が充満し核内からDNAを放出していることが明らかになった。さらにEETosisはDNaseに難溶性であり、これを足場として血小板が凝集し血栓形成が促進されることも見出した。

本研究は、EGPA患者の血管内で活性化された好酸球がEETosisを起こして免疫学的血栓症とよばれる病態を惹起しており、そのバイオマーカーとしてcfDNAが有用である可能性を示した。

研究の背景

ANCA関連血管炎は小型血管が侵される壊死性血管炎であり、EGPA、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、顕微鏡的多発血管炎(MPA)に分類される。 これまでANCA産生の機序として好中球細胞外トラップ(NETs)の異常が報告されてきた。活性化された好中球はNETsを形成し、DNAとともに細胞外に放出されたミエロペルオキシダーゼ(MPO)が自己抗原となり、MPO-ANCA産生が誘導され、さらにANCAがNETsを誘導するなど、悪循環が病態を形成している。

一方で、EGPAはGPAやMPAと異なり、ANCAと好中球だけではなく好酸球が病態形成に重要な役割を果たしている。好酸球もまたIL-5やLPSなどの刺激で活性化し、脱顆粒した際に細胞外にDNAを放出しEETsを形成する。cfDNAはNETsが関連する疾患のバイオマーカーとして使用されており、EETsにおいても重要なマーカーとなることが推測される。

研究手法と成果

EGPA、GPA、MPA患者の治療前後の血清から抽出したcfDNAをリアルタイムPCRで定量測定し、疾患パラメーターとの関連を解析した。血中cfDNA濃度はEGPAでGPAやMPAより有意に上昇しており疾患活動性を反映するとともに、好酸球やD-Dimerとの相関関係も認めた。またEGPA患者の皮膚及び神経生検で得られた病理組織を用いて、血栓中のEETs/EETosisをHE染色、免疫蛍光染色、電子顕微鏡で検討した。血管内皮マーカーCD31、EETsマーカーのシトルリン化ヒストンとDNAを免疫染色し、HE染色と比較することで、血管内にEETs/EETosisの存在が示された。

次に末梢血から抽出した好酸球と好中球をPMAで刺激し、EETs/NETsを誘導した後、核外に放出されたDNAにDNaseを添加し、その分解速度を比較した。EETsではNETsと比較してDNaseに対する耐性が強く、DNA分解に長い時間を要した。さらにEETsが血栓形成を促進するか評価するために、EETosis細胞と蛍光標識血小板を含む血漿をインキュベートし、付着血小板を定量し、EETosis細胞と血小板を走査型電子顕微鏡でも観察したところ、多数の血小板がEETosis細胞に付着し、EETsがDNaseによって除去されると付着血小板は減少した。

本研究の結果からEGPAでは血管内で活性化された好酸球がEETosisを起こして血栓形成を促進していること、そのバイオマーカーとしてcfDNAが有用であることが明らかになった。

研究費等の出処

2019年度教員研究助成費

本研究は秋田大学大学院医学研究科総合診療・検査診断学講座、国立相模原病院などとの共同研究で行われた。

今後の課題

EGPAでは好酸球の活性化と細胞死、これに関連した血栓形成が重要であることを証明したが、これは本疾患において好酸球を標的とした治療が重要であることを示唆している。今後、好酸球の活性化を抑制する新たな治療開発を含め、難治性病態を抑制することが課題となる。

掲載誌