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白血病治療のHLA半合致移植における、糖質コルチコイド投与の有効性に関する理論的根拠を証明(血液内科学 助教 井上 貴之)

国際学術誌「JCI Insight」(October,2021)に、血液内科学 井上 貴之助教(フレッドハッチンソン癌研究所 博士研究員)らの論文が掲載されました。

本研究は、白血病治療のHLA半合致移植における、糖質コルチコイド投与の有効性に関する理論的根拠を証明したものです。

研究内容に関する詳細は、下記をご覧ください。

井上 貴之助教
井上 貴之助教

論題

Peri-transplant Glucocorticoids Redistribute Donor T-cells to the Bone Marrow and Prevent Relapse after haploidentical SCT

論文著者名

Takayuki Inoue, Motoko Koyama, Katsuji Kaida, Kazuhiro Ikegame, Kathleen S Ensbey, Luke Samson, Shuichiro Takahashi, Ping Zhang, Simone A Minnie, Satoshi Maruyama, Shinichi Ishii, Takashi Daimon, Takahiro Fukuda, Hirohisa Nakamae, Takahide Ara, Yumiko Maruyama, Ken Ishiyama, Tatsuo Ichinohe, Yoshiko Atsuta, Bruce R Blazar, Scott N Furlan, Hiroyasu Ogawa, Geoffrey R Hill

概要

同種造血幹細胞移植における本質的な治療効果(抗腫瘍効果:GVL)は、ドナーとレシピエントのヒト白血球抗原(HLA)の違いに依存した、ドナー由来アロ抗原反応性リンパ球によってもたらされる。

私たちは兵庫医科大学において、GVHD予防として糖質コルチコイド(GC)を併用したHLAハプロタイプ不適合同種造血幹細胞移植(HLA半合致移植; haplo-SCT)を開発し、安全に施行可能であることを確認してきた。この結果をもとに、橋渡し研究として、MHC半合致マウス移植モデルを作製し、デキサメサゾン投与、非投与群にてドナーT細胞の動態を解析したところ、腸間膜リンパ節においてGC投与によりドナーCD4⁺、CD8⁺ T細胞ともに減少し、GVHD標的臓器(腸管)へのT細胞浸潤の低下とGVHDによる死亡率の有意な低下を認めた。また、マウス白血病細胞移植モデルにおいてGVLを検討したところ、移植後シクロフォスファミド投与(PT-Cy)群やGC非投与群と比較し、GC投与群では有意な再発率の低下を認めた。

GC投与群では、非投与群と比較し、骨髄内微小循環ドナーCD8⁺T細胞数の著明な増加とa4b1,CXCR4,S1PR1等のホーミング因子の発現レベル上昇を認めた。移植ドナーT細胞が、GVHD発症に寄与せず、GVLを維持する理由として、GC投与下におけるアロ抗原反応性ドナーT細胞の腸管から循環、骨髄への生体内再分布を確認し、GVLの場としての骨髄におけるドナーT細胞の生着、生存に関わる免疫学的な分子メカニズムを検討した。また臨床データ解析から、治癒困難な急性骨髄性白血病非寛解症例に対し、GC併用HLA半合致移植群では、従来型のPT-Cy法と比較し、著明な再発率低下と生存率の有意な改善を認めた。

本研究は、T細胞除去を伴わないHLA半合致移植における移植前後のGC投与が、GVHDを抑制しつつ、高いGVL効果を維持する理論的根拠を示した。

研究の背景

同種造血幹細胞移植における本質的な治療効果は、ドナーとレシピエントのヒト白血球抗原(HLA)の違いに依存した、ドナー由来アロ抗原反応性リンパ球によってもたらされる。従来、HLAハプロタイプ不適合同種造血幹細胞移植(HLA半合致移植; haplo-SCT)は、免疫学的差異の大きさから致死的な移植片対宿主病 (GVHD)を発症するため施行困難であったが、最近は移植後大量シクロフォスファミド投与(PT-Cy)によるT細胞除去を行うことで、比較的安全にHLA半合致移植が可能となり、急速に普及してきた。

これとは別に、私たちは大阪大学/兵庫医科大学において、移植前後にGVHD予防としてメチルプレドニゾロンを併用したHLA 半合致移植を開発し、安全に施行可能であることを確認してきた。臨床データの解析から、GVHDの発症頻度は低いにもかかわらず、治癒困難症例に対しても、十分な抗腫瘍効果(移植片対白血病:GVL)を認めた。これらの臨床データをもとに、橋渡し研究としてMHC 半合致マウス移植モデルを作製し、移植前後の糖質コルチコイド(GC)投与の役割を検討した。

研究手法と成果

MHC半合致マウス移植モデル(B6D2F1→ B6C3F1, B6→B6D2F1)の系を用い、レシピエントマウスへ全身放射線照射後にドナー脾臓細胞又はCD3+T細胞(2x106)と骨髄細胞(5x106)を移植し、デキサメサゾン投与群(5 mg/kg, Days -1 to +5)、非投与群におけるドナーT細胞の体内動態を解析した。GC投与群で腸間膜リンパ節内のドナーT細胞数は減少し、GVHD標的臓器(腸管)への浸潤低下と、GVHDの有意な減少を認めた。Glucocorticoid receptor (GR)欠損T細胞を移植したところ、GRの有無に関わらず、ドナーCD4⁺T細胞数を著明に低下させ、同時にT細胞上のa4b7インテグリンの発現低下を認めた。また、GC投与下の腸管リンパ組織では、レシピエント由来樹状細胞、マクロファージによるアロ抗原提示能は、量、質ともに減少を認めた。以上から、GC投与は抗原提示能を低下させ、間接的にT細胞のprimimgを抑えることで、GVHD発症を抑制した。

次にマウス急性骨髄性白血病(BCR/ABL-NUP98/HOXA9)移植モデル(CD3+T細胞;0.25x106)においてGVLを検討したところ、PT-Cy群では急速な白血病の再発を認め、40日までに全例白血病死を認めた。一方でGC投与群では、GC非投与群やPT-Cy群と比較し、著明な再発率の低下を認めた。GC投与群では、非投与群と比較し、骨髄内微小循環ドナーCD8⁺ T細胞数の著明な増加とa4b1,CXCR4,S1PR1等のホーミング因子の発現レベル上昇を認めた。以上の結果から、移植前後のGC投与下で、アロ抗原反応性ドナーT細胞がGVHD発症に寄与せず、GVL効果を維持する理由として、GVHD標的臓器(腸管)から循環、骨髄系へのT細胞の生体内再分布が確認された。また、臨床データ解析から、急性骨髄性白血病非寛解期症例において、PT-Cy法と比較し、GC併用HLA半合致移植では、有意な再発低下と生存率の改善を認めた。(57.7% at 3 years for GC haplo-SCT vs 25.0% for PT-Cy haplo-SCT, p = 0.040)

研究費等の出処

科研費 基盤研究(C)16K09882

NIH R01 HL148164

※本研究は、筆者が研究留学(2018年10月から2021年5月)した米国シアトル フレッドハッチンソン癌研究所 Geoffrey R. Hill研究室との共同研究プロジェクトとして実行された。

今後の課題

本研究はHLA半合致移植において、現在普及しているPT-Cy法による免疫抑制に代わる新たな治療戦略として、T細胞除去を行わず、高い抗腫瘍効果を発揮する治療法としての理論的根拠を示したものである。今後、難治性血液悪性疾患に対する糖質コルチコイド併用HLA半合致移植(兵庫医科大学方式)とPT-Cy併用法のランダム化前向き比較臨床試験を計画する。また、移植後骨髄中ドナーT細胞の解析から、糖質コルチコイドによる免疫細胞の骨髄への生着、生存に関わる免疫学的な分子メカニズムを更に明らかにすることで、細胞移植治療の新しいコンセプトを提示する。

掲載誌

「JCI Insight」(October,2021)

関連リンク

フレッドハッチンソン癌研究所WEBサイト
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