研究業績

ハーバートスクリューを用いた髄内固定術がアスリートの第5中足骨疲労骨折(Jones骨折)に有用であることを明らかに(整形外科学 助教 森本 将太)

スポーツ科学分野の国際学術誌「The American Journal of Sports Medicine」(October,2021)に、整形外科学 森本 将太助教らの論文が掲載されました。

本研究は、アスリートの第5中足骨疲労骨折(Jones骨折)に対して、ハーバートスクリューを用いた髄内固定術の有効性を明らかにしたものです。

研究内容に関する詳細は、下記をご覧ください。

論題

The Effectiveness of Intramedullary Screw Fixation Using the Herbert Screw for Fifth Metatarsal Stress Fractures in High-Level Athletes

論文著者名

森本 将太、井石 智也、諸岡 孝俊、吉矢 晋一、橘 俊哉、田中 寿一

概要

アスリートの第5中足骨疲労骨折(Jones骨折)の治療において、合併症の予防・早期競技復帰の観点から手術療法が推奨されている。手術療法として、スクリューを用いた髄内固定術がゴールドスタンダードである。この術式は一般的に非常に良好な成績であることが報告されているが、遷延癒合・偽関節・再骨折などの合併症が発生することがある。これら合併症発生の一因として、不適切なスクリューの使用が挙げられるが、どのようなスクリューを使用すべきかについては議論の余地がある。我々はアスリートのJones骨折に対し特徴的なデザインを有するハーバートスクリューを使用し髄内固定術を行ってきた。今回、我々はアスリートの第5中足骨疲労骨折(Jones骨折)に対するハーバートスクリューを用いた髄内固定術の有効性を初めて明らかにした。さらに本術式において、スクリュー挿入時に生じる骨折部の開大が手術成績に影響を与えないことを明らかにした。

研究の背景

アスリートの第5中足骨疲労骨折(Jones骨折)に対する手術療法として、スクリューを用いた髄内固定術がgolden standardである。この術式は一般的に非常に良好な成績であることが報告されているが、不適切なスクリューの使用により遷延癒合・偽関節・再骨折などの合併症が発生することがあると報告されている。ハーバートスクリューは特徴的なデザインを有するスクリューであり、様々な骨折の治療に使用され、その良好な治療成績が報告されている。しかし、第5中足骨疲労骨折(Jones骨折)に対するハーバートスクリューを用いた髄内固定術の手術成績に関するまとまった報告はない。

さらに第5中足骨疲労骨折(Jones骨折)に対するスクリューを用いた髄内固定術において、第5中足骨の髄腔は弯曲しているため、スクリュー挿入時に骨折部が開大することがある。一般的に骨折部の開大は骨折部の治癒過程において好ましくない現象である。しかし、スクリューを用いた髄内固定術における骨折部の開大が手術成績に及ぼす影響について調査した報告はない。

研究手法と成果

2005年8月から2017年8月に当院で第5中足骨疲労骨折(Jones骨折)に対しハーバートスクリューを用い髄内固定術を行ったアスリートのうち、術後2年以上経過観察可能であった37例を対象とし、手術成績を後ろ向きに検討した。手術成績として、骨癒合までの期間、競技復帰までの期間、合併症を調査した。また、スクリュー挿入に伴う骨折部の開大の影響を調査するため、対象を骨折部の開大があった群(Gap群)、なかった群(No-Gap群)の2群にわけ手術成績を比較検討した。さらに骨折部の開大量と骨癒合までの期間、競技復帰までの期間の相関関係を調査した。

本研究では、全例において遷延癒合・偽関節・再骨折などの合併症なく骨癒合が得られ、競技復帰した。骨癒合までの期間は平均10.1週、競技復帰までの期間は平均10.9週であり、他のスクリューを使用し髄内固定術を行った過去の研究結果と比較し遜色のない結果であった。また、Gap群とNo-Gap群の間で骨癒合までの期間、競技復帰までの期間に統計学的有意差はなかった。さらに骨折部の開大量と骨癒合までの期間、競技復帰までの期間に相関関係はなかった。

本研究の結果より、ハーバートスクリューを用いた髄内固定術はアスリートの第5中足骨疲労骨折(Jones骨折)に有用であることが明らかとなった。また、本術式における骨折部の開大は手術成績に影響を与えないことが明らかとなった。

今後の課題

本研究では、ハーバートスクリューを用いた髄内固定術はアスリートの第5中足骨疲労骨折(Jones骨折)に有用であることが明らかとなった。この術式が普及すれば、第5中足骨疲労骨折(Jones骨折)を受傷したアスリートがより安全に早期競技復帰できる可能性がある。

また、本研究は後ろ向き研究であり、他のスクリューを用いた髄内固定術の手術成績と比較していない。この点が本研究における課題である。

掲載誌