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悪性中皮腫になりやすい遺伝子変異を発見(遺伝学 講師 吉川 良恵)

国際的な医学雑誌「米国アカデミー紀要(PNAS:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」(14,December 2020 ※米国東部標準時)に遺伝学 吉川 良恵講師、江見充特別招聘教授らの論文が掲載されました。

日本、アメリカ、トルコの共同研究で、悪性中皮腫になりやすい遺伝子変異を発見し、その易罹患性に関する機序を調べた研究です。詳細は、下記をご覧ください。


論題

Heterozygous germline BLM mutations increase susceptibility to asbestos and mesothelioma

論文著者名

Angela Bononi* (University of Hawaiʻi Cancer Center),Keisuke Goto* (Hiroshima University),Guntulu Ak* (Eskisehir Osmangazi University, Lung and Pleural Cancers Research and Clinical Center, Eskisehir, Turkey),Yoshie Yoshikawa* (Hyogo College of Medicine),Mitsuru Emi (Hyogo College of Medicine),Sandra Pastorino (University of Hawaiʻi Cancer Center),lorenzo carparelli (University of Hawaiʻi Cancer Center),Angelica Ferro (University of Hawaiʻi Cancer Center),Masaki Nasu (University of Hawaiʻi Cancer Center),Jin-Hee Kim (University of Hawaiʻi Cancer Center),Joelle Suarez (University of Hawai'i Cancer Center),Ronghui Xu (University of Hawai'i Cancer Center),Mika Tanji (University of Hawaiʻi Cancer Center),Yasutaka Takinishi (University of Hawaiʻi Cancer Center),Michael Minaai (University of Hawaiʻi Cancer Center),Flavia Novelli (University of Hawai'i Cancer Center),Ian Pagano (University of Hawaiʻi Cancer Center),Giovanni Gaudino (University of Hawaii at Manoa),Harvey I Pass (New York University),Joanna Groden (University of Ilinois),Joseph J. Grzymski (Desert Research Institute),muzaffer metintas (Eskisehir City Hospital, Department of Chest Disease, Eskisehir, Turkey),Muhittin Akarsu (Eskisehir City Hospital, Department of Chest Disease, Eskisehir, Turkey),Betsy Morrow (National Institutes of Health),Raffit Hassan (National Cancer Institute, NIH),Haining Yang (University of Hawaiʻi Cancer Center),Michele Carbone (University of Hawaii Cancer Center) *equal contribution

概要

父母由来両アレルのBLM遺伝子が機能を失う変異により、悪性腫瘍を多発するBloom症候群(劣性遺伝病)を発症することが知られています。しかし、片アレルのみの変異が及ぼす影響は明らかになっていません。今回悪性中皮腫を多発するトルコと米国の2家系の悪性中皮腫患者が、それぞれ片アレルBLM遺伝子に機能喪失型変異を持つことを見出し、悪性中皮腫発症へのBLM遺伝子の関与について研究しました。
一般の悪性中皮腫患者155名中にも、本遺伝子の片アレル変異を有する患者が7名いて一般集団と比較すると有意に高いことが判明しました。片アレルのみBLM遺伝子ノックアウトマウスにアスベスト暴露すると、野生型マウスに比べ有意に死亡率や悪性中皮腫発症率が上がり、悪性中皮腫へのなりやすさを誘発することが示されました。
また本マウスやヒト中皮細胞を用い、腫瘍発症機序を解析しました。結果、BLMが片アレル機能を失うことにより遺伝子やゲノムの不安定性を引き起こしたのみならず、炎症性サイトカインや炎症性マクロファージを高度に誘導することもわかり、高頻度腫瘍発症に寄与していることを明らかにしました。

研究の背景

悪性中皮腫の主要因はアスベスト曝露ですが、曝露歴を有する人の内ごく一部が発症することから、環境要因と遺伝要因が合わさって発症すると考えられるようになりました。
これまで兵庫科大学 遺伝学教室とハワイ大学がんセンターCarbone博士教授らとの共同研究により、BAP1遺伝子など特定の遺伝子に生まれつき変異を持つ悪性中皮腫患者さんの予後は、アスベスト暴露歴の明らかな悪性中皮種に比べ良好であることを見つけ報告しました。しかし、生まれつきBAP1変異を有する患者さんは発症者の数%であり、他にも発症に寄与する遺伝子の存在が予測され、世界中の研究者が研究していました。
現在個々の患者さんに適した医療を提供するパーソナルメディシンが注目されており、悪性中皮腫においても、予後の良い患者さんを見極め、適切な治療を提供したいという願いから、易罹患性に関与する遺伝子の探索研究を進めています。

研究手法と成果

  • トルコと米国悪性中皮腫患者の次世代シーケンスによる塩基配列解析(兵庫医科大学 遺伝学教室担当)
  • ヒト中皮細胞やノックアウトマウスへのアスベスト暴露の影響解析(ハワイ大学がんセンター担当)

研究費等の出処

ハワイ大学Subaward KA1300

今後の課題

現在ハワイ大学では、米国ネバダ州住民のゲノムDNAの塩基配列解析を実施しています。ネバダ州はエリオナイトというアスベスト様鉱物を含む鉱床があり、住民は慢性的暴露による悪性中皮腫を含む腫瘍発症率が高いことが分かっています。悪性中皮腫易罹患性遺伝子に生まれつき変異を持つ住民に対しては、カウンセリングを実施し、定期的な検診を実施することにより、早期発見できるよう研究しています。
日本においても、大規模ゲノムDNA塩基配列解析の広がりにより、将来の疾病リスクを予測し、対策を打つパーソナルメディシンに向かうことが望まれます。

掲載誌

「米国アカデミー紀要(PNAS)」 (14 December 2020)

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