研究業績

肝がん治療において、ソラフェニブ(抗腫瘍薬)と1型インターフェロン(抗ウイルス薬)を併用することで抗腫瘍効果が増強されることが判明(内科学 肝・胆・膵科 榎本 平之准教授)

Scientific Reports誌(22, Septmber, 2017)に内科学 肝・胆・膵科 榎本 平之 准教授らの論文が掲載されました。

論題

The in vivo antitumor effects of type I-interferon against hepatocellular carcinoma: the suppression of tumor cell growth and angiogenesis

論文著者名

Hirayuki Enomoto, Lihua Tao, Ryoji Eguchi, Ayuko Sato, Masao Honda, Shuichi Kaneko, Yoshinori Iwata, Hiroki Nishikawa, Hiroyasu Imanishi, Hiroko Iijima, Tohru Tsujimura, Shuhei Nishiguchi

概要

肝がんに対して臨床的有効性が科学的に証明された抗腫瘍薬に、ソラフェニブ(経口マルチキナーゼ阻害薬)があります。しかし、実臨床においては、ソラフェニブを投与しても十分な効果が得られない症例が数多く存在し、ソラフェニブ単剤での治療効果を超える治療法の開発が求められてきました。一方、1型インターフェロン(IFN)α/βは、抗ウイルス薬ですが、抗腫瘍効果をもつ可能性があることが報告されています。そこで、本研究では、IFNの抗腫瘍効果のメカニズムを解析するとともに、ソラフェニブとの併用による治療効果増強の可能性を検討しました。その結果、IFNは肝がん細胞に対する直接的な増殖抑制効果と血管新生の阻害効果を有すること、またソラフェニブにIFNを併用することで抗腫瘍効果が増強されることを明らかにしました。この成果は、肝がんに苦しむ患者さんへの新たな治療法につながる可能性があるものと考えられます。本研究は、兵庫医科大学 内科学(肝・胆・膵科)、病理学(分子病理部門)、環境予防医学、金沢大学 消化器内科学との共同研究により行われたものであり、「Scientific Reports」に掲載されました。

研究の背景

我が国の肝がん死亡者数は、2000年代前半に最も多く、その後は緩徐に減少しつつありますが、依然として毎年3万人を超えています。また、これまでのC 型肝炎を背景にして発生する肝がんは減少傾向にありますが、脂肪性肝炎を含む非B、非C型を背景にして発生する肝がんは増加傾向にあり、わが国のがん対策上で依然として重要な疾患になっています。ソラフェニブは、キナーゼ阻害薬であり、MAPキナーゼ経路を構成するRafのキナーゼ活性を阻害することで腫瘍細胞の増殖を抑制し、血管新生に関わるVEGFRやPDGFRなどのキナーゼ活性を阻害することで抗腫瘍効果を発揮すると考えられています。2009年5月から「切除不能な肝細胞がん」への適応が承認されましたが、実臨床においては、十分な効果が得られない症例が数多く存在します。また、1型IFNは、抗ウイルス作用に加えて抗腫瘍効果も示すように考えられていますが、ソラフェニブにIFNを併用した抗腫瘍効果については十分に検討されていません。

研究手法と成果

IFNの生物学的活性には種特異性(ヒトIFNはヒト細胞に、マウスIFNはマウス細胞に作用する特性)があります。ヒト肝がん細胞 (Hep3B)にヒトIFNを投与すると細胞増殖が抑制されるとともに、Hep3B細胞を移植した免疫不全マウス(担がんモデル)においても、ヒトIFNは腫瘍細胞にアポトーシスを誘導して抗腫瘍効果を示しました。一方、マウスIFNは、 Hep3B細胞の増殖を阻害しないにもかかわらず、担がんモデルでは腫瘍血管の減少を伴って抗腫瘍効果を示しました。IFNの種特異的な生物学的活性を巧みに利用することで、生体内において、IFNはがん細胞の増殖にも血管新生にも抑制的に作用して、抗腫瘍効果を発揮していることが明らかになりました。また、ヒト臍帯静脈内皮細胞にヒトIFNを投与すると、管腔形成が抑制されるとともにアポトーシスが誘導されることを示し、IFNが血管新生に対して抑制的に作用することを確認しています。

次に、担がんモデルに、マウスIFNの単独投与、ソラフェニブの単独投与、ソラフェニブとマウスIFNの併用投与を行いました。ソラフェニブとマウスIFNの併用投与では、マウスIFN単独投与およびソラフェニブ単独投与に比較して、腫瘍壊死の拡大を認め、腫瘍血管が有意に減少していました。

更に、ソラフェニブにマウスIFNを併用した腫瘍とソラフェニブを単独投与した腫瘍における167シグナル経路の遺伝子発現プロファイルを比較したところ、ソラフェニブにIFNを併用することで、血管新生や細胞増殖に関連するシグナル経路(VEGFシグナル経路、MAPキナーゼシグナル経路、インシュリンシグナル経路を含む)の遺伝子発現が低下していること、アポトーシスに関連するシグナル経路の遺伝子発現が増加していることを確認しました。IFNは、様々なシグナル経路を介して抗腫瘍効果を発揮していると考えられます。

今後の課題

ソラフェニブにIFNを併用することで、抗腫瘍効果が増強されることが明らかになり、新たな肝がん治療法の開発に繋がると期待されます。この併用療法を肝がん診療に適用するための安全性や有効性を確認する臨床試験研究が、今後の課題に挙げられます。

研究費等の出処

厚生労働科学研究費 H21 肝炎一般-015(西口)他



掲載誌