受賞

第80回JSICR 第12回奨励賞を受賞しました(アレルギー疾患研究部門 松下一史 講師)

「第80回JSICR 第12回奨励賞」を先端医学研究所 アレルギー疾患研究部門 松下一史 講師が受賞しました。

授与団体名

日本インターフェロン・サイトカイン学会

概要

第80回日本インターフェロン・サイトカイン学会(2015年7月17日-18日、東京)において、第12回奨励賞を受賞した。本研究内容は、第79回日本インターフェロン・サイトカイン学会(2014年6月19日-20日、北海道)において発表した研究内容[肺への花粉抗原曝露によるIgE産生誘導におけるB細胞特異的MyD88シグナル伝達の役割]である。

研究の背景

肺への抗原曝露によるTh2型免疫応答の活性化は抗原特異的なIgE産生を誘導し、アレルギー性喘息をはじめとした重篤なI型アレルギー疾患を引き起こす。しかし、アレルギー応答において、実際に生体内ではどのようにIgE産生が誘導されるのか、特に組織特異的なIgE産生誘導機構については未だ完全には明らかにされていない。

 これまでの報告では、B細胞特異的なMyD88を介したシグナル伝達は、抗原特異的な抗体産生には関与しないか、関与してもTh1型の抗体であるIgG2a/cへのクラススイッチにのみ関与すると考えられてきた。しかしながら、種々のアレルゲンはTLRリガンドもしくは内因性のIL-1ファミリーサイトカインの産生を介してMyD88シグナルを活性化することでアレルゲン性を発揮することが知られている。

 このような、アレルギー疾患を誘導するMyD88シグナルの活性化は、上皮細胞や樹状細胞の活性化、すなわち免疫応答の惹起における関与がこれまでに報告されており、アレルギー疾患におけるB細胞特異的なMyD88シグナルの役割は明らかにされていなかった。

研究手法と成果

【研究手法】
 マウスを麻酔下でPBSに懸濁したブタクサ花粉を三日おきに経鼻投与し、合計四回のブタクサ花粉投与を行い(Day 0, 4, 8, 12)、最終点鼻の翌日(Day 13)に解析を行った。一部の検討ではブタクサ花粉の代わりに、卵白アルブミンとIL-1ファミリーサイトカイン(IL-1α、IL-1β、IL-18)を混ぜたものを用いた。MyD88欠損マウス由来骨髄細胞とμMTマウス由来骨髄細胞をRag2欠損マウスに移入することでB細胞特異的にMyD88を欠損した骨髄キメラマウスを作製し、検討を行った。

【成果】
MyD88シグナルは肺への花粉曝露によるIgE/IgG1産生ならびに胚中心形成には必須であるが、Th2細胞の分化には不必要である。
肺への花粉曝露によるIgE/IgG1産生にはB細胞特異的なMyD88シグナルが関与しており、これは(現在のところ)肺において特異的である。
花粉曝露により誘導されるIgE/IgG1産生に必要なMyD88シグナルは内因性に産生されるIL-1α/βおよびIL-18によって活性化される。
以上の結果から、花粉のような粒子状の抗原が肺に取り込まれるとIL-1 familyサイトカインが産生され、これらサイトカインは樹状細胞を活性化して獲得免疫応答を惹起するのに加え、B細胞のMyD88シグナルを活性化することでIgE応答を誘導していると考えられる。

今後の課題

今回明らかにした、B細胞のMyD88シグナルの活性化を介したIgE/IgG1産生の誘導は肺への抗原曝露においてのみ見られる現象であり、腹腔内への抗原感作におけるIgE/IgG1産生は従来から報告されている通りMyD88を必要としない。現在のところ、なぜ肺でこのような特異的な現象が起こるのかは不明であり、今後の検討課題である。また、肺へのブタクサ花粉の曝露によるTh2細胞の分化誘導にはMyD88シグナルは必要ではなかった。本実験系でのTh2細胞の分化メカニズムも今後の検討課題である。

研究費等の出処

文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 (S1001055)
独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助金、若手B (24790484, 26860340)
公益財団ひょうご科学技術協会、奨励研究助成

掲載誌

The Journal of Immunology.193: 5791-5800, 2014.