受賞
日本私立看護系大学協会にて「看護学研究奨励賞」を受賞(看護学部 准教授 築田 誠)
本学の看護学部 准教授 築田 誠が、日本私立看護系大学協会において、優れた看護学研究を行った研究者に贈られる「看護学研究奨励賞」を受賞しました。
授与団体
日本私立看護系大学協会
受賞論文
Clinical Nurses’ Attitudes and Self-Reported Practices of Family Nursing in Japan Following COVID-19 Visitation Restrictions: A Cross-Sectional Study
研究のポイント
・コロナ禍の面会制限緩和後も、多くの看護師が患者家族対応に精神的負担や戸惑いを感じていることを、看護師892名を対象とした調査で明らかにした。
・コロナ禍で新人看護師となった若手看護師ほど、患者家族との関わりに不安を抱きやすく、世代による経験差が課題として示された。
・家族との関わりが希薄になることで生じる「潜在的無関心」のリスクを指摘し、面会ルールの整備や研修の必要性を示した。
研究の概要・背景
家族を患者ケアの一部として位置づける「家族看護」は、家族システム理論に基づき、患者一人だけでなく家族全体の関係性やニーズに目を向ける看護の基本的な考え方です。日本では従来、家族との直接的な関わりが看護実践に文化的にも深く根付いていました。しかし、2020年に始まったCOVID-19の流行により、多くの病院で長期間にわたる面会全面禁止が実施され、看護師は約3年間、患者家族と直接接する機会を大きく失いました。2023年中頃から各病院で面会制限の緩和が進んだものの、この長期的な断絶が看護師の家族看護に対する意識や実践にどのような影響を及ぼしたのかは十分に明らかになっていませんでした。特に、面会禁止期間中に臨床経験を開始した若手看護師は、患者家族と関わる実地の学びの機会を得られずに育った世代であり、その意識や実践力への影響が懸念されていました。本研究は、面会制限緩和後の日本の臨床看護師を対象に、家族看護に対する態度および自己報告による実践状況を明らかにすることを目的として実施されました。
研究手法と成果
2024年1月から5月にかけて、COVID-19患者を受け入れ、2023年5月までに面会制限を解除した国内4つの一般病院に勤務する看護師1,921名を対象に、自記式質問紙を配布し、957名から回答を得(回収率49.8%)、そのうち有効回答が得られた892名を分析対象としました。質問紙は、対象者の属性・家族看護の学び方に関する項目に加え、国際的に使用されているFINC-NA尺度(家族への態度を測る心理測定尺度)を基に、否定的側面を中心に、日本の文化的背景を踏まえて開発した17項目(6段階評価)、および自由記述1項目から構成されました。
量的分析の結果、多くの看護師が「患者家族の存在は患者・家族双方にとって重要である」「患者家族との良好な関係が仕事の満足感につながる」といった項目に肯定的に回答し、家族看護を専門的価値として概ね前向きに認識していることが分かりました。一方で、「患者家族がいると見張られているように感じる」「患者家族対応の時間が取れない」といった項目にも相当数の看護師が同意しており、家族関与に対する負担感やストレスも根強く存在することが示されました。パンデミック期に臨床経験を開始した2〜3年目の若手看護師は、記述統計上、患者家族との関わりへの不安や消極性が経験4年以上の看護師よりわずかに高い傾向を示しましたが、多重検定補正後の統計解析では両群間に有意差は認められず、この結果は「患者家族対応への負担感は若手だけでなく経験層全体に共通する課題であり、個人研修だけでなく組織レベルの支援が必要である」ことを示唆しています。
自由記述(152名、17.0%)の質的分析からは、①家族看護の断絶、②感情的ストレスと道徳的葛藤、③家族関与の再評価、④面会方針と実践への省察、⑤時間不足などの継続する障壁、という5つのテーマが抽出されました。特に、家族との直接的な接触機会の欠如が長期的に看護師の家族対応への関わりを弱めてしまう「潜在的無関心(latent indifference)」という現象を新たに指摘した点は、本研究の学術的なオリジナリティといえます。
今後の展開
本研究は、家族看護を良好な態度だけに依存させず、構造的・教育的に再構築する必要性を示しました。今後は以下のような取り組みを進めていく予定です。
縦断的な追跡調査により、面会制限緩和後の看護師の意識・実践力の経時的な変化を検証する。
シュミレーション教育やケースベース(症例ベース)の振り返りを通じて、家族との関係構築力(コミュニケーション能力・共感力)を体系的に育成する教育プログラムを開発する。
患者家族をケアパートナーとして明確に位置づける院内ポリシーや、対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド型面会・コミュニケーションモデルを検討する。
患者家族の存在・不在のいずれの状況にも対応できる、文化的背景を踏まえた新たな家族看護測定ツールの開発を進める。
多施設・国際比較研究により、文化的・制度的な違いが家族看護の実践に及ぼす影響を検証する。
研究費の出処
日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 基盤研究(C) 課題番号:23K09934
掲載誌
Journal of Clinical Nursing