受賞

Best Basic Science Abstract Awardを受賞(精神科神経科学 助教 山西 恭輔)

本学の精神科神経科学 助教 山西 恭輔は、アメリカのテネシー州で行われた15th Annual American Delirium Society Conferenceにて、Best Basic Science Abstract Awardを受賞しました。この賞は、せん妄研究における優れた基礎科学研究を発表した者に授与されます。

本研究のポイント

1.肝移植後せん妄患者の血液から作製したヒト誘導ミクログリア様細胞(iMG)を用い、DNAメチル化解析により脳内炎症との関連を明らかにした。
2.せん妄患者のiMGでは、シナプス機能や炎症性シグナル経路に関わる遺伝子で特徴的なエピジェネティック変化が認められた。
3.末梢免疫と脳内ミクログリアの連動によるせん妄発症メカニズム解明に貢献し、新たな治療標的発見につながる可能性を示した。

授与団体

American Delirium Society (15th Annual American Delirium Society Conference)

受賞演題

The epigenetic investigation of human induced microglia-like (iMG) cells derived from patients with post-operative delirium after liver transplant surgery

研究の概要・背景

せん妄は、手術後や集中治療中などに高頻度で発症する急性の意識・認知障害であり、高齢化の進行とともに社会的・医療的負担が増大している。これまで脳内の免疫細胞であるミクログリアの過剰な活性化が関与すると考えられてきたが、ヒトにおける分子メカニズムの詳細は明らかでなかった。本研究では、肝移植後にせん妄を発症した患者と非発症患者の末梢血から、誘導ミクログリア様細胞(induced microglia-like cells:iMG)を作製し、DNAメチル化解析を実施した。その結果、せん妄群のiMG細胞では、シナプス機能や炎症性シグナル経路に関わる遺伝子で特徴的なエピジェネティック変化が認められた。これらの結果は、末梢免疫と中枢ミクログリアの相互作用がせん妄発症の鍵を握る可能性を示しており、将来的に新たな治療標的の発見や予防的介入の開発につながることが期待される。

研究手法と成果

本研究では、スタンフォード大学肝移植チームと連携し、肝移植手術を受けた患者14名(せん妄群6名、非せん妄群8名)から手術時に採取した末梢血単球を用いて、誘導ミクログリア様細胞(induced microglia-like cells:iMG)を作製した。そしてCD11b陽性細胞を分離後、GM-CSFおよびIL-34存在下で14日間培養し、さらにLPS刺激によって活性化を誘導した。得られたiMG細胞のDNAを抽出し、Illumina Infinium MethylationEPIC BeadChipを用いて網羅的DNAメチル化解析を実施した。その結果、せん妄群のiMG細胞では、シナプス伝達、サイトカイン産生、炎症シグナル経路などに関わる遺伝子領域で有意なメチル化変化が認められた。これらの変化は末梢血や未刺激iMG細胞では見られず、せん妄特異的なエピジェネティック調節を反映している可能性が示唆された。本研究は、ヒトミクログリアのエピジェネティック解析により、せん妄の新たな病態メカニズム解明に貢献する成果である。