受賞

令和6年度兵庫県医師会 医学研究賞を受賞(糖尿病内分泌・免疫内科学 講師 橋本 哲平)

糖尿病内分泌・免疫内科学 講師 橋本 哲平が「令和6年度兵庫県医師会医学研究賞」を受賞しました。この賞は、医学研究分野で優れた研究成果を挙げた者に授与されます。

授与団体名

一般社団法人兵庫県医師会医学会

研究課題

関節リウマチとcell free DNA

研究の概要

本研究では、関節リウマチ(RA)患者におけるcell free DNA(cfDNA)が滑膜細胞の増殖により放出され、Toll様受容体9(TLR9)経路を介して炎症を惹起すること、関節リウマチの治療薬であるトシリズマブ(TCZ)がcfDNAを直接減少させることで、cfDNAにより誘導される炎症性サイトカインを抑制することを示した。これにより、RAの自己DNA認識による炎症病態形成やTCZの新たな効果発現機序を解明した。

研究の背景

cfDNAは細胞死などに伴い細胞外へ放出されるDNA断片である。我々は、RA患者の末梢血や関節液でのcfDNA増加を報告してきたが、どのように産生され疾患と関わるかは不明であった。そこで、本研究はRAにおけるcfDNAと疾患活動性との関連,cfDNAの産生機序と役割を明らかにすることを目的として行った.

研究の手法と成果

【研究手法】
TCZまたはTNF阻害薬(TNF-I)による治療を開始したRA患者136例(TCZ77例、TNF-I59例)について、開始前と4週後、12週後の血漿cfDNAを定量PCRで測定し、疾患活動性との関連を評価した。またin vitro でRA滑膜細胞によるcfDNAの産生機序と、cfDNAの炎症への関与、治療による変化について検討した。

【研究成果】
TCZ群、TNF-I群で治療開始前の疾患活動性に差はなく、12週で両群ともに疾患活動性が有意に改善したが、cfDNA濃度はTCZ群でのみ低下した。特に、生物学的製剤の使用歴のない患者では、TCZ群でのみ、cfDNA濃度と疾患活動性が相関し(r=0.52, p<0.01),寛解患者でcfDNA濃度が有意に低くなった。
in vitroにおいてはcfDNAは滑膜細胞増殖に伴い増加し、細胞分裂の停止でプラトーに達し徐々に減少した。TCZまたはTNF-Iを添加すると臨床での結果と同様にTCZ添加でのみcfDNAが有意に減少した。両薬剤の細胞周期への影響は認めず、純粋なcfDNAにTCZを添加してもcfDNAを減少させたことから、TCZがDNA abzymeとしてDNAに直接作用していることが示唆された。またRA-cfDNAはTLR9経路を活性化し、炎症性サイトカインを誘導したが、これはTCZにより阻害された。
RA患者におけるcfDNAは滑膜細胞の増殖により放出されTLR9経路を介して炎症を惹起するが、TCZはcfDNAを減少させることでこの炎症を抑制し、RA病態を改善する可能性が示唆された。

今後の課題

cfDNAがRAの炎症病態に影響を与えることを示唆されたが、これを抑制することで実際にRAの滑膜炎が改善するかさらなる検討が必要である。

掲載誌

Clinical and Experimental Immunology