受賞

第28回 Journal of Pharmacological Sciences 優秀論文賞を受賞(薬学部 臨床薬学分野 助教 宮本 朋佳)

薬学部 臨床薬学分野 助教 宮本 朋佳が、第28回 Journal of Pharmacological Sciences 優秀論文賞を受賞しました。

授与団体名

日本薬理学会

受賞論題

Estrogen decline is a risk factor for paclitaxel-induced peripheral neuropathy: Clinical evidence supported by a preclinical study

受賞者名

薬学部 臨床薬学分野 宮本 朋佳 助教

本研究のポイント

・広くさまざまながんに適応するとされる薬剤パクリタキセルであるが、高い頻度で末梢神経障害(PIPN)を誘発し、患者のQOLを著しく低下させることがある。
・個々のリスクに合わせた抗がん剤の適切な投与計画をたてることは、継続した抗がん剤治療のためにも、極めて重要な課題である。
・乳がん患者、特に閉経後のエストロゲン減少や内分泌療法が、重度のPIPNと関連していることを明らかにした。
・PIPNに対する非ホルモン的薬理学的介入が必要であり、トロンボモジュリンα(TMα)はその主要な候補となる可能性があることがわかった。

研究の概要

本研究では、パクリタキセル誘発末梢神経障害(PIPN)の危険因子を明らかにするため、女性がん患者を対象とした臨床的レトロスペクティブ研究とマウスを用いた基礎実験を行った。臨床研究において、乳がん患者は、非乳がん患者よりもPIPNの発生率が高く、乳がん患者のサブ解析にて、57歳以上およびパクリタキセル治療開始前の内分泌療法が重度のPIPNと関連していることを明らかにした。基礎研究において、卵巣摘出はマウスのPIPNを悪化させたが、この影響は17β-エストラジオールの反復投与によって抑制された。ラットおよびマウスにおける化学療法誘発末梢神経障害を予防することが知られているトロンボモジュリンα(TMα)の反復投与も、卵巣摘出マウスにおけるPIPNの発症を予防した。まとめると、乳癌生存者、特に閉経後のエストロゲン減少や内分泌療法を受けている者は、PIPNを発症しやすい亜集団と考えられ、PIPNに対する非ホルモン的薬理学的介入が必要であり、TMαはその主要な候補となる可能性がある。

研究の背景

パクリタキセルは、広範な抗悪性腫瘍活性を有し、現在も多くの患者に使用されている。一方で、この薬剤は、用量依存的に末梢神経障害を高頻度に誘発し、患者のQOLを著しく低下させる。パクリタキセル誘発性末梢神経障害の発症には個人差があるが、予測は困難であり、予防薬も存在しない。したがって、パクリタキセル誘発性末梢神経障害のリスク因子を解明し、個人の末梢神経障害発症リスクに合わせた抗がん剤の適切な投与計画を確立することは、継続した抗がん治療のためにも、極めて重要な課題である。

研究手法と成果

本研究では、パクリタキセル誘発末梢神経障害(PIPN)の危険因子を明らかにするため、女性がん患者を対象とした後ろ向き研究とマウスを用いた基礎実験を行った。臨床研究では、パクリタキセルを含む化学療法を受けている外来患者131人を解析し、PIPNの発生率を調査した。その結果、乳がん患者(n=40)は、非乳がん患者(n=91)よりもPIPNの発生率が有意に高かった。乳がん患者におけるサブ解析において、57歳以上およびパクリタキセル投与開始前の内分泌療法が重度のPIPN(CTCAE grade 2~ 4)と有意に関連していた。基礎実験では、卵巣摘出術を受けた雌マウスにパクリタキセルを反復投与し、von Frey試験により機械的侵害受容閾値を評価した。卵巣摘出はマウスのPIPNを悪化させたが、この影響は17β-エストラジオールの反復投与によって抑制された。ラットおよびマウスにおける化学療法誘発末梢神経障害を予防することが知られているトロンボモジュリンα(TMα)の反復投与も、卵巣摘出マウスにおけるPIPNの発症を予防した。

今後の課題

臨床研究にて、エストロゲンおよびトロンボモジュリンがパクリタキセル誘発性末梢神経障害に影響を与えるために介在する因子を探索する。

掲載情報

掲載誌
Journal of pharmacological sciences

論文タイトル
Estrogen decline is a risk factor for paclitaxel-induced peripheral neuropathy: Clinical evidence supported by a preclinical study

著者名
宮本 朋佳(薬学部 臨床薬学分野 助教)ほか

研究費等の出処

JSPS KAKENHI(26460710 / 17K09046)

用語解説

※1 パクリタキセル 子宮体がん、乳がん、卵巣がん、胃がんなど、さまざまながんに適応しているとされる抗がん剤の一種。
※2 レトロスペクティブ研究 疾病の要因と発症の関連を調べるための観察的研究の手法の一つである。調査を開始した時点から過去に遡って対象者の情報を集めることから「後ろ向き研究」とも呼ばれる。
※3 17β-エストラジオール ヒトや多くの哺乳類に対し最も強力な天然型エストロゲンである。卵胞より分泌され、細胞の分化、増殖に影響し、エストロジェン受容体α(ERα)、β(ERβ)と結合して、その効果を示すことが知られている。
※4 トロンボモジュリンα(TMα) トロンボモジュリンは、主に血管内皮細胞、気道や腸管の粘膜上皮細胞などに存在する高親和性トロンビン受容体である。トロンボモジュリンの活性部位を含む細胞外部分のみを可溶化型分子とすることを試み、遺伝子工学的に生産することに成功したものがトロンボモジュリンαである。