受賞

「平成24年度日本リハビリテーション医学会最優秀論文賞」を受賞しました

「平成24年度日本リハビリテーション医学会最優秀論文賞」をリハビリテーション部 細見 雅史 医師が受賞しました。

概要

脳卒中による上肢運動障害に対する訓練方法として、Constraint-induced movement therapy(CI療法)という方法があります。1981年に米国で最初の報告がなされて以来、その効果は、多くのRandomized Controlled Trial(RCT)で実証済みで、本邦における脳卒中治療ガイドライン2009においても推奨されています。兵庫医科大学リハビリテーション部およびその関連施設では、2003年から本邦で初めて本格的にCI療法を導入しました。その後、多くの患者さんに対して成果をあげ、この度、その実績が評価され、CI療法の効果と効果予測因子に関する論文が2012年度日本リハビリテーション医学会最優秀論文賞を受賞しました。

研究の背景

脳卒中患者では、左右どちらかの上肢、下肢に運動障害が起こることが多く、日常生活に支障をきたす程度の後遺症を残すことが少なくありません。脳卒中のリハビリテーションでは、急性期から早期リハビリテーションを行い、必要に応じて回復期病院を経て在宅復帰を目指すことになります。発症6カ月以上たっても残存する慢性期の片麻痺は後遺症として捉えられ、以前は訓練の対象にさえされないことも珍しくありませんでした。ところが、脳科学の進歩によって、脳の一部が破壊されても、損傷を免れた他の部位が損傷された部位の役割を代行する能力、すなわち脳の変化し得る性質の存在が確認されたことにより、今までは後遺症としてあきらめられていた慢性期の運動障害も改善することが期待されています。このような、既知の脳科学の知識に基づいた方法論で機能改善を目指すニューロリハビリテーションが最近、注目されるようになりました。

 CI療法はニューロリハビリテーションの一つで、脳卒中慢性期における上肢の訓練方法としてすでにその有効性は確立しており、欧米では20年以上も前から臨床応用されています。しかしながら、2003年に兵庫医科大学にて導入されるまで、我が国ではCI療法を本格的に行う施設は皆無でした。

研究手法と成果

脳卒中発症から180日以上経過した慢性期の片麻痺患者さんを対象として訓練を行いました。訓練は、1日5時間(午前2時間、休憩1時間、午後3時間)、連続する2週間のうち平日10日間で訓練室にて行いました。この際、療法士がマンツーマンで指導するのは、訓練時間全体の40%程度であり、あとの60%程度は自主訓練としました。訓練中、患者の健側上肢はミトンあるいはスリングを用いて拘束しました(下図)。ただし、病室および自宅生活などの訓練時間以外では、健側上肢の拘束は行いませんでした。欧米で行われてきた従来のCI療法の方法では、1日6時間の訓練を療法士がマンツーマンで行います。また、患者さんも訓練時間以外の日常生活でも、その90%の時間において健側上肢を拘束することが義務付けられていました。この点から、我々の方法は療法士の時間的束縛や健側上肢拘束による患者さんのストレスを従来の方法より軽減できる方法と言えます。

 訓練課題は個々の上肢機能に合わせた難易度を設定します。さらに、課題指向的な考え方を重視し、課題を遂行できたときの達成感を重要視しました。訓練の難易度を徐々に上げていく一方で、1日あたりの訓練の種類も10~15種類程度行えるように配慮しました。

 以上の方法で訓練を行い、訓練前後の上肢機能を本邦で最も使用されている上肢機能検査方法である簡易上肢機能検査(STEF)および、CI療法前後の治療効果の評価方法として世界的に頻用されているWolf Motor Function Test‐Functional Ability Scale(WMFT-FAS)を用いて評価しました。訓練前後においてそれぞれ、平均31.3点から42.7点、51.8点から57.0点へと有意な改善を認めることができました。WMFT-FASについては、過去の欧米での報告と比べても同程度の改善が得られていました。また、これらの治療の効果は、年齢、性別、脳卒中発症から訓練までの期間、脳卒中の病型、脳卒中で障害された麻痺側、利き手には影響されず、一様な効果を得ることが確認できました。

今後の課題

CI療法の適応基準となる麻痺の程度は、麻痺側の指が10度以上、手関節が20度以上伸展可能である必要があり、比較的軽度な麻痺にしか適応がないとされています。より重度な麻痺への適応については今度の課題です。

研究費等の出処

文部科学省科学研究費補助金(18300186)

掲載誌

The Jpanese Journal of Rehabilitation Medicine 2012;49:23-30