研究業績

クローン病において手術部位感染予防のために術前経口抗菌薬を使用すると創感染が減少することが判明(炎症性腸疾患学 外科部門 准教授 内野 基)

Annals of Surgery誌(23, October, 2017)に炎症性腸疾患学 外科部門 内野 基 准教授らの論文が掲載されました。

論題

Efficacy of preoperative oral antibiotic prophylaxis for the prevention of surgical site infections in patients with Crohn's disease: A randomized controlled trial.

論文著者名

Motoi Uchino,Hiroki Ikeuchi,Toshihiro Bando,Teruhiro Chohno,Hirofumi Sasaki,Yuki Horio,Kazuhiko Nakajima,Yoshio Takesue

概要

手術後の主たる合併症として手術部位感染がありますが、大腸手術においては、手術部位感染予防の術前処置として下剤と経口抗菌薬の服用が2016年にWHOが公表した「手術部位感染予防のためのグローバルガイドライン」で推奨されています。そこで、クローン病における効果を前向き無作為化試験で検討しました。ガイドラインに従って、335名のクローン病患者で比較を行った結果、術前経口抗菌薬を使用することにより創感染が減少することが判明しました。

研究の背景

手術後の主たる合併症として手術部位感染(創感染や腹腔内膿瘍、縫合不全)がありますが、その合併症は、患者の安全、QOLに影響するのみならず、医療コストの増大にも大きく影響します。そのような中で、この手術部位感染の予防については、様々な工夫を用いて議論されています。

大腸手術では手術部位感染の予防を目的に、術前処置として、下剤と経口抗菌薬の服用が2016年にWHOのガイドラインで推奨されています。しかし、これまでの研究対象は大腸癌が多く炎症性腸疾患での報告がありませんでした。潰瘍性大腸炎ではすでに報告されていますが、今回、クローン病での効果について、前向き無作為化試験を用い検討しました。

研究手法と成果

前向き無作為化比較試験を単盲検で行いました。「経口抗菌薬あり」163人、「経口抗菌薬なし」162人で比較したところ、全手術部位感染に有意差はありませんでしたが、創感染は抗菌薬あり群で12/163(7.4%)、なし群で27/162(16.6%)と有意に経口抗菌薬で予防効果が見られました。

今後の課題

低栄養、貧血、免疫抑制治療などは手術部位感染のリスクとなりますが、これらに関しては、手術前の患者状態ではすぐに改善することが難しく対処しにくい問題です。したがって、今回のような前処置を工夫することで合併症軽減を目指す必要があります。今回は経口抗菌薬の使用に着目しましたが、今後も手術器具の選択や消毒、洗浄方法、術中の保温や血糖管理などをはじめ着目すべき点は多くあるため、その有用性や有害性を明らかにしていく所存です。

研究費等の出処

医局研究費

掲載誌