研究業績

高血糖による血管炎症が引き起こされる分子メカニズムと糖尿病性血管合併症の制御につながる新たな標的因子を発見(糖尿病・内分泌・代謝内科 主任教授 小山 英則、大学院生 三好 晶雄)

FASEB Journal誌(19 Nov, 2018)に糖尿病・内分泌・代謝内科 小山 英則 主任教授および大学院生 三好 晶雄先生(糖尿病・内分泌・代謝内科 非常勤医師)の論文が掲載されました。

論題

JNK and ATF4 as two important platforms for tumor necrosis factor-α-stimulated shedding of receptor for advanced glycation endproducts

論文著者名

Akio Miyoshi, Sachie Koyama, Masayo Sasagawa-Monden, Manabu Kadoya, Kosuke Konishi, Takuhito Shoji, Masaaki Inaba, Yasuhiko Yamamoto, and Hidenori Koyama

概要

糖尿病患者では心筋梗塞、脳梗塞などの血管合併症が予後に大きく影響する。持続する高血糖が血管合併症の病因に深く関与することが推定されているが、その分子機序は明らかではない。本研究では、高血糖による細胞障害(糖毒性)にかかわる血管内皮の受容体receptor for advanced glycation endproducts (RAGE)が血管内皮の炎症を惹起し、またその炎症はRAGEの切断が誘導されるネガティブフィードバック系が存在すること、さらにその分子機序を初めてを明らかにした。

研究の背景

糖尿病患者の予後に、心筋梗塞、脳梗塞などの血管合併症が深く関与する。糖尿病患者の血管内皮機能は障害されており、その機序に高血糖がかかわることが知られている。当研究室は、高血糖による細胞障害(糖毒性)にかかわる受容体RAGEが、動脈硬化、メタボリックシンドローム、心血管系予後に関与することを明らかにしてきた。本研究では、RAGEの血管内皮の炎症への影響と、炎症によるRAGE切断(shedding)のフィードバック調節の存在とその機序を世界で初めて明らかにした。

研究手法と成果

アデノウイルスを用いた血管内皮へのRAGEの過剰発現により、炎症性サイトカイン(tumor necrosis factor-α, TNF-α)による炎症シグナルは亢進し、炎症機転が増幅された。一方血管内皮特異的にRAGEを過剰発現したトランスジェニックマウスにおいて、TNF-αなどによる炎症誘導は、RAGEの切断(shedding)を誘導した。TNF-αによるRAGE sheddingはJNK活性化によるマトリックスメタロプロテナーゼ(MMP)9と、小胞体ストレスにかかわるATF4によるADAM10誘導により引き起こされることが明らかとなった。これらの結果は、持続する高血糖刺激が血管炎症を惹起し血管合併症発症に関与すること、さらに血管の炎症増幅がRAGE切断・放出により高血糖と炎症の悪循環にブレーキをかける仕組みが存在することとその詳細なメカニズムを示した成果で(図)、極めて重要な知見と考えている。

今後の課題

本研究により、高血糖による血管炎症が惹起される分子機序、さらに糖尿病性血管合併症の制御につながる新たな標的因子を見出すことができた。今後、糖尿病性血管合併症の予防法開発に寄与するものと期待している。

研究費等の出処

大学院研究助成(三好晶雄)
科研費 23591329, JP18K08531 (小山英則), 15K09443 (庄司拓仁), 18K16248(小西康輔)

掲載誌