研究業績

高齢者のRSウイルス感染、入院後の死亡リスクの高さが明らかに―国際的な権威のある学術誌「Clinical Microbiology and Infection」に論文掲載

兵庫医科大学 社会医学データサイエンス部門 主任教授 森本 剛らの研究グループでは、日本の3施設において、急性呼吸器症状または徴候を呈して緊急入院した50歳以上の成人を対象に、前向きコホート研究「EVERY study」を実施しました。結果について研究グループでは、「急性呼吸器症状で緊急入院する高齢者において、RSVはインフルエンザやCOVID-19よりも高い死亡率に関連するリスク因子であった」と結論付けました。
この結果は、感染症と臨床微生物学に関する研究論文を掲載する国際的な学術誌「Clinical Microbiology and Infection」に掲載されました。

本研究のポイント

・急性呼吸器症状で入院した50歳以上の成人におけるRSウイルス(RSV)の有病率と予後を、COVID-19およびインフルエンザと比較した。
・RSV感染患者の30日死亡率は14.3%と、COVID-19(8.4%)やインフルエンザA/B(2.9%)より高かった。
・年齢・併存疾患・ワクチン接種歴による調整後も、RSVはインフルエンザA/Bと比較して死亡リスクが有意に高かった。
・研究期間中、RSVワクチン接種者はゼロであり、ワクチン未接種および特異的な治療薬がないことが予後に影響している可能性が示唆された。

研究概要

本研究は、急性呼吸器症状で緊急入院した50歳以上の成人におけるRSV感染の臨床的影響を明らかにすることを目的とした多施設共同前向きコホート研究である。
2023年7月から2024年12月までの期間、島根県立中央病院、洛和会音羽病院、奈良市立病院の3病院において50歳以上の救急入院患者を対象に調査を行った。主な評価項目は、下気道感染症(LRTI)、画像所見を加えた修正LRTI、そして30日全死亡率とした。

研究の背景

呼吸器ウイルス感染症は、高齢者や基礎疾患を有する患者にとって重大な健康リスクである。ワクチンで予防可能な呼吸器ウイルス感染のうち、インフルエンザは長年にわたり高い罹患率・死亡率を示す感染症として認識され、ワクチン接種が広く行われてきた。また、2021年以降はCOVID-19もワクチンで予防可能な呼吸器ウイルスとして、広く認識されている。
一方、RSウイルス(RSV)は、新生児において重症の呼吸器感染症を起こすウイルスとして広く知られてきたが、近年では高齢者や慢性疾患を有する成人においても重症化することが報告されている。過去の研究では、冬季に急性呼吸器症状で入院する高齢者の一定割合がRSVに感染していることが示唆されていた。しかし、急性呼吸器症状で入院した高齢者におけるRSVが予後に与える影響を、COVID-19やインフルエンザと直接比較した前向き研究は十分ではなかった。
さらに、近年RSVワクチンが高齢者向けに承認されたことで、RSVも「ワクチンで予防可能な呼吸器ウイルス」として認識されつつある。その臨床的意義を明確にするため、RSVの有病率と予後を他の主要呼吸器ウイルスと比較検討する必要があった。

研究手法と成果

急性呼吸器症状で入院した患者を対象に、入院後24時間以内に採取した鼻咽頭スワブ*1を用いて多項目の微生物PCR検査を実施し、RSV、COVID-19、インフルエンザA/Bを診断した。最終的な解析対象は3,067人で、平均年齢は81歳であった。
急性呼吸器症状で入院した患者に占める割合は、RSVが1.6%(49例)、COVID-19が18.0%(553例)、インフルエンザA/Bが2.2%(69例)であった。
入院後に下気道感染(LRTI)を併発する率はいずれのウイルスにおいても80%以上と高率であった。30日死亡率はRSV感染症で最も高く14.3%であり、COVID-19の8.4%、インフルエンザA/Bの2.9%と比較して有意に高かった(p=0.02) 図1。
多変量ロジスティック回帰分析では、RSV感染はインフルエンザA/Bと比較して30日死亡の調整オッズ比が5.2(95%信頼区間1.2–36.7)となり、交絡因子を調整後も有意な死亡リスクの上昇が認められた。一方で、LRTIの発生率自体には有意差は認められなかった。
サブグループ解析では、特に糖尿病を有する患者においてRSV感染による死亡リスクが高い傾向が示された。

図1 下気道感染症の発症頻度および30日死亡率

今後の展望

本研究は、RSVが急性呼吸器症状で入院した高齢患者において重要な死亡リスク因子であることを明らかにした。RSVワクチンは研究期間中に日本で発売されたばかりであり、本研究に登録された患者においてRSVワクチンを接種した患者はいなかった。
今後、高齢者を中心としてRSVワクチン接種が浸透することによりRSV感染症患者の死亡率が低下することが期待される。
また、COVID-19やインフルエンザでは抗ウイルス薬が治療選択肢として確立しているが、RSVに対しては特異的な治療薬が存在しない。この治療格差が予後に影響している可能性がある。
一方で、本研究は日本国内の3つの病院でのみ実施された研究であることから、結果の一般化には注意が必要である。さらに、RSV感染症の症例数が限られていたため、結果の解釈には慎重さが求められる。今後は、より大規模な研究による検証が必要である。
本研究では、急性呼吸器症状で入院した高齢患者におけるRSVの疫学を明らかにした。RSVに感染した患者では、30日以内の死亡率が有意に高いことが示されたことから、日常診療においても、この見過ごされがちなウイルスへの認識を高めることが重要である。

用語解説

*1 鼻咽頭スワブ…先端に綿やポリエステルなどの繊維が付いた棒状のツールで、鼻の奥から粘液や細胞を採取し、ウイルスや菌の検査に使用する

研究費等の出処

GlaxoSmithKline Biological

掲載情報

掲載誌:Clinical Microbiology and Infection(IF:8.5)
論文タイトル:Prevalence and clinical outcomes of respiratory syncytial virus, COVID-19, and influenza among older hospitalized adults: the EVERY prospective cohort study
DOI: 10.1016/j.cmi.2026.01.002

論文著者名

森本 剛 兵庫医科大学 社会医学データサイエンス部門 主任教授
森川 暢 兵庫医科大学 社会医学データサイエンス部門 非常勤講師
井村 春樹 洛和会音羽病院 感染症科 副部長
根津 麻里 兵庫医科大学 社会医学データサイエンス部門 助教
浜崎 健弥 兵庫医科大学 社会医学データサイエンス部門 大学院生
作間 未織 兵庫医科大学 社会医学データサイエンス部門 准教授
中村 嗣 島根県立中央病院 感染症科 部長