研究業績

COVID-19による面会制限が家族看護に与えた影響を明らかに~感染対策と人間的なケアを両立するために~

兵庫医科大学 看護学部 准教授 築田 誠らの研究グループは、大学病院および地域の中核病院に勤務する臨床看護師を対象に、量的・質的アプローチを組み合わせた混合研究法*による調査を実施しました。本調査では、家族看護**に対する考え方や自己評価について調べました。その結果、多くの看護師が家族看護を専門職としての重要な価値と認識している一方で 、家族との関わりにおいて依然として精神的な負担や「監視されている」という感覚、時間不足などの葛藤を感じていることが明らかとなりました 。さらには“コロナ禍の面会制限下でキャリアをスタートさせた看護師(経験3年以下)”と“コロナ以前を知る看護師”の世代間で家族看護の能力や認識に差が存在することが示されました。本研究は、看護学の学術誌「Journal of Clinical Nursing」に掲載されました。

本研究のポイント

・大学病院・地域の中核病院の看護師892名を対象に、COVID-19による面会制限が家族看護の実践意識に与えた影響を量的・質的データの統合により解明
・『潜在的な無関心(latent indifference)』のリスクを特定:直接的な関わりが制限されたことで、家族看護への関与が弱まる可能性を提示
・臨床経験による認識の乖離を解明:コロナ禍にキャリアを開始した若手看護師は関わりに強い不安や消極性を示し、ベテラン層は制限による『道徳的葛藤(moral distress)』を抱えていたことを示唆
・感染症対策と人間的なケアを両立するために、急性期医療機関に求められる看護の視点を提示した

研究の背景・概要

COVID-19の流行により、大学病院や地域の中核病院では、感染拡大防止のために厳しい面会制限が長期間実施されました。面会制限は、患者や家族だけでなく、家族と関わることを専門性の一部とする看護師の実践にも大きな影響を与えました。しかし、面会制限が看護師の家族看護に対する考え方や実践意識にどのような変化をもたらしたのかについては、これまで十分に検討されていませんでした。本研究は、高度急性期医療を担う調査対象の病院の実態に着目し、家族看護の変容を明らかにすることを目的として実施されました。

研究手法と成果

国内の総合病院4施設に勤務する臨床看護師を対象に、質問紙調査と自由記述による調査を実施しました 。混合研究法を用いた分析の結果 、面会制限下での経験が、看護師の家族に対する心理的距離や実践の質に変容をもたらしたことが浮き彫りになりました 。 特に、コロナ禍の厳しい面会制限下で看護技術を習得したキャリア初期(経験1〜3年)の看護師は、家族との対面経験が不足しているために、制限緩和後も家族との関わりに戸惑いや困難を感じやすい傾向にあります 。一方、経験豊富な看護師は、家族が不在であること自体にケアの不全感や道徳的な痛みを抱えていました 。質的分析からは、「関係性の分断」「感情的ストレス」「道徳的葛藤」など、看護師が直面している5つの主要な課題が特定されました 。

今後の展望

本研究の知見は、臨床現場における家族支援の仕組みを再構築するための重要な指針となります 。今後は、家族をケアのパートナーとして再び医療チームに統合するために、ロールプレイを用いたシミュレーション研修の実施や、ICTを活用したハイブリッド型の面会モデルの導入など、組織的な支援体制の構築を提案していきます 。 また、家族看護がもたらす価値を可視化し、看護師の精神的負担を軽減する体制を整えることで、いかなる状況下でも患者とその家族、そして看護職の三者が尊重される、より人間的な医療実践の発展に貢献することを目指します 。

用語解説

混合研究法*:一つの研究の中で、数値を用いた「量的研究」と、言葉や意味を読み解く「質的研究」の両方を組み合わせて分析する手法です。現象をより多角的かつ深く理解するために有効とされています 。
家族看護**:患者個人だけでなく、家族全体を看護の対象とし、家族が本来持つ機能と健康に関するケア機能を高める援助を行うことを指します。

掲載情報

掲載誌:Journal of Clinical Nursing
論文タイトル:Clinical Nurses' Attitudes and Self‐Reported Practices of Family Nursing in Japan Following COVID ‐19 Visitation Restrictions: A Cross‐Sectional Study

論文著者名

築田 誠 兵庫医科大学 看護学部 准教授
本田 順子 兵庫県立大学地域ケア開発研究所 教授
野島 敬祐 京都橘大学看護学部 准教授
伊東 由康 敦賀市立看護大学看護学部 准教授
浅田 裕美 兵庫県立大学看護学部 助教

研究費等の出処

日本学術復興会(JSPS)科学研究費補助金基盤研究C(課題番号:23K09934)

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