研究業績

糖尿病患者における「夜間高血圧」が心不全未発症の段階から心拡張機能悪化のリスク因子であることを明らかにした医学論文が「Hypertension」に掲載

American Heart Association(AHA:アメリカ心臓協会)が発行するジャーナル「Hypertension」にて、糖尿病内分泌・免疫内科学講座の木俵米一病院助手、角谷学講師、小山英則主任教授らと、医療統計学の井桁正尭准教授、大門貴志教授、循環器・腎透析内科学の朝倉正紀教授、石原正治主任教授との共同研究の成果をまとめた論文が発表されました。 (Hypertension. 2024;81:172–182. DOI:10.1161/HYPERTENSIONAHA.123.21304.)

研究の詳細は以下をご覧ください。

論題

Nocturnal Hypertension and Left Ventricular Diastolic Dysfunction in Patients With Diabetes With the Absence of Heart Failure: Prospective Cohort HSCAA Study

論文著者名

Yonekazu Kidawara, Manabu Kadoya, Masataka Igeta, Akiko Morimoto, Akio Miyoshi, Miki Kakutani-Hatayama, Akinori Kanzaki, Kosuke Konishi, Yoshiki Kusunoki, Takashi Daimon, Masanori Asakura, Masaharu Ishihara and Hidenori Koyama

研究概要

近年、左室の拡張機能低下による心不全が増加しており、その病態やリスク因子が注目されている。糖尿病がこの心不全と関連することは以前から指摘され、不安定な血糖変動がその一因と考えられてきた。しかし、糖尿病患者での「夜間高血圧」による左室拡張機能への影響については不明であり、さらに心不全未発症の段階からの影響を、非糖尿病患者と直接比較して検討した研究はこれまで報告されていなかった。
今回我々の研究グループは、心不全未発症の段階において、糖尿病患者では「夜間高血圧」のnon-dipper型及びRiser型が、それぞれ患者背景とは独立して拡張機能低下の進行を予知しうることを前向きな研究で初めて明らかにした。本研究結果は、糖尿病患者における「夜間高血圧」のリスクを心不全未発症の段階から示した成果であり、これからの心不全予防戦略としての重要な知見を臨床現場に還元できた。
*本研究は医療統計学 井桁正尭准教授、大門貴志教授、循環器・腎透析内科学 朝倉正紀教授、石原正治主任教授との共同研究の成果である。

研究の背景

本邦では近年、心不全の罹患率が増加しているが、特に左室の収縮機能は保たれているものの拡張機能のみが低下した心不全(Heart Failure with preserved Ejection Fraction: HFpEF)の病態に注目が集まっており、その予防やリスク因子の抽出は喫緊の課題である。この心不全のリスク因子として、以前から糖尿病の存在が指摘され、不安定な血糖変動がその一因である可能性が指摘されていた。一方で、糖尿病患者では「夜間高血圧」の合併頻度も高く左室拡張機能に影響することが想定されていたが、心不全未発症の段階における影響について、非糖尿病患者と直接比較し前向きに検討を行った研究はこれまで全く報告がなかった。

研究手法と成果

我々は様々な代謝疾患や動脈硬化、心腎機能障害の発症に、客観的に定量化した睡眠や自律神経機能、夜間血圧変動などがどのように関与するかを明らかにするため、前回のHIC事業の一環として本学でHyogo Sleep Cario-Autonomic Atherosclerosis (HSCAA) コホート研究を実施している。本研究では、HSCAAコホート研究に登録された患者のうち、心不全未発症の糖尿病患者154名、非糖尿病患者268名を対象に、夜間高血圧(non-dipper型、Riser型)が心拡張機能障害の進行にどのように関連するのかを前向きに検討した。
カプランマイヤー解析の結果、糖尿病患者ではnon-dipper型及びRiser型が通常の夜間血圧降下を示すdipper型に比べて、明らかに将来の心拡張機能障害を来す割合が高かった。一方、非糖尿患者では夜間高血圧と心拡張機能との明らかな関連は認められなかった。これらの因子の影響を患者背景も含めて検討したCox比例ハザードモデルにおいても、糖尿病患者におけるnon-dipper型及びRiser型は、将来の心拡張機能の低下と依然有意な関連を示していた。さらに、線形混合モデルを用いた解析でも、特に糖尿病患者でのRiser型は各観察年度ごとの心拡張機能の変化率と有意に関連していた。
本研究結果より、心不全未発症の段階から、糖尿病患者では「夜間高血圧」が心拡張機能障害の進行に対する重要な予知因子であることが確認された。このことは、将来の心不全発症予防の観点において、糖尿病患者では血糖変動以外に、特に「夜間高血圧」の存在に着目する必要があることを示しており、心不全治療を行う臨床現場に対して極めて重要な知見を提供できたものと考えている。

今後の課題

今回の検討では、糖尿病患者における「夜間高血圧」が心拡張機能悪化のリスク因子であることが示された。今後は、「夜間高血圧」を有する糖尿病患者に対する血圧治療介入を行うことで心拡張機能の低下の予防に実際に寄与できるかどうかの検討が必要である。加えて、糖尿病患者における「夜間高血圧」がどのような機序で心拡張機能低下に影響するのか、左室心筋細胞の実質にどのような影響を及ぼしているのかといったメカニズムに迫る基礎的検討も必要である。

研究費等の出処

科研費:JP19K19421(角谷学)、JP20K18944(森本晶子)、JP18K17399(角谷美樹)、JP19K19446(小阪佳恵)、JP18K08531(小山英則)
2018年度~2021年度HIC事業研究費(小山英則)

掲載誌