研究業績

「大腸がん肝転移に対する手術後の患者さんにおける無再発生存期間と術前全生存期間との相関」を明らかに

兵庫医科大学(所在地:兵庫県西宮市、学長:鈴木 敬一郎)消化器外科学(下部消化管外科)主任教授 池田正孝らの研究グループは、「大腸がん肝転移に対する手術後の患者さんにおける無再発生存期間と術前全生存期間との相関」を明らかにしました。

論題

Correlation between recurrence-free survival and overall survival after upfront surgery for resected colorectal liver metastases

論文著者名

片岡 幸三(※1)、高橋 佳苗(※2)、武内 治郎(※3)、伊藤 一真(※1)、別府 直仁(※1)、WimCeelen(※4)、金光 幸秀(※5)、味岡 洋一(※6)、遠藤 格(※7)、長谷川 潔(※8)、高橋 慶一(※9)、池田 正孝(※1)

(※1)兵庫医科大学 消化器外科学(下部消化管外科)、(※2)、兵庫医科大学 医療統計学、(※3)兵庫医科大学 臨床疫学、(※4)ゲント大学(ベルギー) 消化器外科、(※5)国際がんセンター 中央大学 大腸外科、(※6)新潟大学医学部 臨床病理学、(※7)横浜市立大学医学部 消化器・腫瘍外科、(※8)東京大学 肝胆膵外科・人工臓器移植外科、(※9)東京都立大久保病院 消化器外科

研究概要

本邦における「大腸がん肝転移について記録した全国規模データベース」を用いて解析した結果、大腸がん肝転移に対する手術後の患者さんにおける「無再発生存期間は全生存期間の代わりとなる指標として中等度の相関であること」がわかりました。

研究の背景

大腸がん肝転移に対して手術を受けた患者さんにおいて、再発までの期間(無再発生存期間:RFS)と(全生存期間:OS)が相関することについては十分にわかっていませんでした。そこで、「RFSとOSの2つの生存についての指標がどれだけ相関しているか求めること」を本研究の目的としました。

研究手法と成果

本研究では、大腸がんに対する根治手術を受けた患者さんを対象とした「日本の全国登録データベース」より、がんが肝臓の外に転移していない患者さんの再発と、生存の情報を抽出してRFSとOSの相関を算出しました。RFSとOSの相関(ρ)は、患者さんの再発および生存情報が途中でわからなくなった場合も考慮するための解析手法として、反復する多重代入と組み合わせた順位相関法を用いました。また、二次的な解析として手術後に実施した化学療法の内容によって、RFSとOSの「相関への影響の有無」についても評価しました。

研究結果は2005-2007年と2013-2014年における大腸がん肝転移の患者さん計2,385名が対象となり、RFSとOSの間に中程度の相関を認めました(ρ = 0.73)。また、手術後に実施した化学療法の内容はRFSとOSの間の相関に特に影響しないことがわかりました(オキサリプラチン+5-フルオロウラシル:ρ = 0.72; 5-フルオロウラシル単独:ρ = 0.72)。本研究から大腸がんが肝臓に転移し、切除して再発した場合に、「今後、患者さんの生存期間を判断する指標」が明らかとなりました。これらの指標が明らかになったことで、臨床試験を行い、新しい治療法を評価するときに、医師が「患者さんの再発までの期間と生存期間のどちらを評価した方が望ましいか」を判断するうえで有効な判断材料となります。

今後の課題

無再発生存期間はどこまで正確に全生存期間と相関するかどうかについては、今後さらに検証していく必要があると考えています。まだ十分に検証した結果を得られていない現状において、今回の「患者さんの生存期間を判断する指標」については、今後の臨床試験などの結果によって変わっていく可能性があります。

掲載誌