研究業績

肝硬変の肝がん合併例では、ウイルス性肝炎は減少傾向も、依然として主因であることが全国調査で明らかに(内科学 肝・胆・膵科<現:消化器内科学>准教授 榎本 平之)

国際科学雑誌「Journal of Gastroenterology」誌(February, 2021)に、内科学 肝・胆・膵科<現:消化器内科学> 榎本 平之准教授らの論文が掲載されました。

2018年に実施した肝硬変の全国調査の結果について昨年報告しましたが、今回さらに、肝がんを合併した肝硬変症例を対象に集計を⾏いました。その結果、肝がん症例でもウイルス性肝炎の減少と非ウイルス性の肝疾患の増加を認めること、しかしながらウイルス性肝炎は、依然としてわが国の肝がんの主たる成因となっていることを明らかにしました。詳細は、下記をご覧ください。

論題

The transition in the etiologies of hepatocellular carcinoma-complicated liver cirrhosis in a nationwide survey of Japan

論文著者名

榎本平之、西川浩樹、西口修平(兵庫医科大学 内科学 肝・胆・膵科<現:消化器内科学>)ほか(全国調査)

概要

わが国における慢性肝疾患の多くは肝炎ウイルス(B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルス)の感染に起因します。しかしながら、近年では治療の発展により、ほとんどの症例で肝炎ウイルスの制御が可能となってきています。そこで、2018年に肝硬変の成因に関する全国調査を行い、実際に日本においてウイルス性肝炎に起因する肝硬変が減少していることを明らかにしました。

今回はさらに、肝がんを合併した肝硬変症例の成因に関する検討を行いました。肝硬変全体の検討と同様に、肝がん症例でもウイルス性肝炎が減少し、非ウイルス性の肝疾患が増加していました。しかしながら、肝がん症例ではウイルス性肝炎がおよそ4分の3と、成因の多くを占めていました。本研究からウイルス性肝炎は、わが国の肝がんの原因疾患としても減少傾向にあること、しかしながら、依然として主たる成因となっていることも判明しました。

研究手法と成果

第54回日本肝臓学会総会のポスターシンポジウム「肝硬変の成因別実態」に応募があったうち、肝がん合併例の症例数が得られた55演題(全国66施設)の23,637例が解析対象となりました。C型肝炎とB型肝炎に起因する肝硬変は、それぞれ60.3%と12.9%であり、わが国では依然として肝炎ウイルスに起因する症例が約74.3%と多数を占めていることが明らかとなりました。一方で肝硬変での検討と同様に2007年以前、2008-2010年、2011-2013年、2014年以降の4つの年代での成因を比較すると、2007年までは85.3%であったウイルス性肝炎由来の肝がんは 2014年以降では64.4%へと減少していました。一方で、非ウイルス性肝硬変由来の肝がんは増加し、アルコール性は8.5%から18.6%に、また非アルコール性脂肪肝炎からの肝硬変は1.5%から 7.2%へと増加していました。

これらの結果から、ウイルス性肝炎からの肝がん発症が減少し、非ウイルス性肝疾患に由来する肝がんの増加していることが明らかとなりました。一方で、わが国の肝がん症例においては、依然としてウイルス性肝炎が原因の多くを占めていることも判明しました。

研究費等の出処

第54回日本肝臓学会総会の企画を基に実施

今後の課題

全国施設の御協力のもと肝硬変の成因に関する調査を行い、昨年にはその動向について報告しました。本検討ではさらに肝がんの発症についても、その推移を明らかにすることが出来ました。肝がんのステージや予後といった、詳細な臨床情報についても推移を明らかにしていきたいと思います。

掲載誌