研究業績

睡眠時の「無呼吸」や睡眠の「質」の低下が左室拡張機能障害の進行予知に重要な因子であると解明した医学論文が「Journal of American Heart Association」に掲載

American Heart Association(AHA:アメリカ心臓協会)が発行するジャーナル「Journal of American Heart Association」(21, September, 2022)にて、糖尿病内分泌・免疫内科学講座 大学院生の木俵米一さん、角谷学講師、小山英則主任教授らと、医療統計学の大門貴志教授、循環器・腎透析内科学の朝倉正紀教授、石原正治主任教授との共同研究の成果をまとめた論文が発表されました。

また、AHAのニュースとして同論文の内容をもとにした記事(Move around a lot while you sleep? It might be bad news for your heart)も掲載されています。

研究の詳細は以下をご覧ください。

論文タイトル

Sleep Apnea and Physical Movement During Sleep, But Not Sleep Duration, Are Independently Associated With Progression of Left Ventricular Diastolic Dysfunction: Prospective Hyogo Sleep Cardio-Autonomic Atherosclerosis Cohort Study

論文著者名

Yonekazu Kidawara, Manabu Kadoya, Akiko Morimoto, Takashi Daimon, Miki Kakutani-Hatayama, Kae Kosaka-Hamamoto, Akio Miyoshi, Kosuke Konishi, Yoshiki Kusunoki, Takuhito Shoji, Akiko Goda, Masanori Asakura, Masaharu Ishihara and Hidenori Koyama

概要

近年、左室の拡張機能低下による心不全が増加しており、その病態やリスク因子が注目されている。睡眠の問題が心不全と関連しうることが以前から指摘されていたが、「無呼吸」、「短時間」、「質の低下」などの種々の睡眠関連因子を定量的に評価し、左室拡張機能障害の進行に対する影響を直接検討した研究はこれまで報告されていなかった。
今回我々の研究グループはHIC事業の一環として、心不全未発症の段階において、睡眠時の「無呼吸」と「質の低下」がそれぞれ独立して拡張機能低下の進行を予知しうることを、前向きな研究で初めて明らかにした。心不全予防戦略における睡眠評価の重要性を示した成果である。
*本研究は医療統計学 大門貴志教授、循環器・腎透析内科学 朝倉正紀教授、石原正治主任教授との共同研究の成果である。

研究の背景

本邦では近年、心不全の罹患率が増加しているが、特に左室の収縮機能は保たれているものの拡張機能のみが低下した心不全(Heart Failure with preserved Ejection Fraction: HFpEF)の病態に注目が集まっており、その予防やリスク因子の抽出は喫緊の課題である。一方、心不全の患者では、睡眠時の「無呼吸」、睡眠の「時間」や「質」の低下といった睡眠の問題を合併している割合が高いことが以前から報告され、睡眠が心不全発症に影響する可能性が推測されていた。しかし、これら「無呼吸」や「時間」、「質」などの睡眠の問題を定量的かつ同時に評価し、心不全未発症の段階において、心拡張機能に対しそれぞれがどのような影響を及ぼすかを統合的に検討した研究はこれまで全く報告がなかった。

研究手法と成果

我々は様々な代謝疾患や動脈硬化の発症に、客観的に定量化した睡眠や疲労、自律神経機能などの神経内分泌学的機能がどのように関与するかを明らかにするため、HIC事業の一環として本学でHyogo Sleep Cario-Autonomic Atherosclerosis (HSCAA) コホート研究を実施している。本コホート研究に登録された患者のうち、心不全未発症の対象者の計452名において、睡眠時の「無呼吸」、睡眠の「時間」と「質」が心拡張機能障害の進行にどのように関連するのかを前向きに検討した。
カプランマイヤー解析の結果、中から高程度の睡眠時の無呼吸を有する患者、並びに睡眠中の体動が多く「質」の低下した患者では、明らかに将来の心拡張機能障害を来す割合が高かった。一方、睡眠の「時間」については心拡張機能との明らかな関連は認められなかった。これらの因子の影響を患者背景も含めて検討したCox比例ハザードモデルにおいては、中から高程度の睡眠時の無呼吸を有する患者、並びに「質」の低下した患者では、将来の心拡張機能の低下と依然有意な関連を示しており、さらに、これらの関係は互いに独立したものであった。
本研究結果より、心不全未発症の段階から、睡眠時の「無呼吸」や睡眠の「質」の低下は、心拡張機能障害の進行に対し、互いに独立した重要な予知因子であることが確認された。このことは、将来の心不全発症の予防の観点では、普段の睡眠中の「無呼吸」の程度や、睡眠の「質」にも着目する必要があることを示しており、心不全治療を行う臨床現場に対して極めて重要な知見を提供できたものと考えている。

今後の課題

今回の検討では、睡眠時の「無呼吸」や「質」の低下が、心不全未発症の段階においても、心拡張機能悪化のリスク因子であることが示された。今後は、睡眠時の「無呼吸」が多い患者への介入、さらには良好な睡眠の「質」を維持、もしくは「質」の改善を目指した介入を行うことで心拡張機能の低下の予防に実際に寄与できるかどうかの検討が必要である。加えて、特に睡眠の「質」の低下がどのような機序で心拡張機能低下に影響するのか、左室心筋細胞の実質にどのような影響を及ぼしているのかといったメカニズムに迫る基礎的検討も必要である。

研究費等の出処

科研費:JP19K19421(角谷学)、JP20K18944(森本晶子)、JP18K17399(角谷美樹)、JP19K19446(小阪佳恵)、JP18K08531(小山英則)
HIC事業研究費(小山英則)

掲載誌