研究業績

広範囲脳梗塞患者に対して血管内治療が有効となる脳虚血範囲を明らかにした論文が米国医師会雑誌「JAMA Neurology」に掲載

米国医師会の学術誌「JAMA Neurology」(10, October, 2022)に脳神経外科学 吉村 紳一主任教授、臨床疫学 森本 剛教授、内田 和孝准教授らの論文が掲載されました。

広範囲脳虚血病変を伴う脳主幹動脈閉塞症患者において、「血管内治療が有効である脳虚血範囲の限界」を世界で初めて報告しました。詳細は、下記をご覧ください。

論題

Association Between Alberta Stroke Program Early Computed Tomography Score and Efficacy and Safety Outcomes With Endovascular Therapy in Patients With Stroke From Large-Vessel Occlusion

論文著者名

内田 和孝、進藤 誠悟、吉村 紳一、豊田 一則、坂井 信幸、山上 宏、松丸 祐司、松本 康史、木村 和美、石蔵 礼一、吉田 篤史、井上 学、別府 幹也、榊原 史啓、白川 学、森本 剛

研究概要

今回我々の研究グループは、広範囲脳虚血病変を伴う脳主幹動脈閉塞症における血管内治療の有効性を評価したランダム化臨床試験の登録患者を対象に、相対的に脳虚血範囲が大きい群(ASPECTS≦3)における血管内治療の有効性および安全性を、相対的に範囲が限られている群(ASPECTS4-5)と比較して分析を行いました。その結果、脳虚血範囲が大きい群(ASPECTS≦3)では、血管内治療の有効性は明らかではなく、症候性頭蓋内出血のリスクが上昇することが明らかとなりました。
広範囲脳虚血病変を伴う脳主幹動脈閉塞症患者に対する血管内治療の適応拡大は、「ASPECTSが3である患者が1つの基準」であることを世界で初めて報告しました。

研究の背景

2015年に脳主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞患者に対する血管内治療の有効性が証明されました。しかし、「血管内治療が有効である」としてガイドラインで推奨される患者は全体の約10%であり、1人でも多くの患者が血管内治療の恩恵を受けるためには、「臨床試験で検証されていないために、ガイドラインの推奨対象となっていない患者における血管内治療の有効性や安全性の評価」が求められていました。特に広範囲脳虚血病変を伴う患者については、これまで「機能的転帰の改善が望めない可能性」と「治療後の出血性合併症が多く発生する可能性」が危惧されることから、現時点のガイドラインでは推奨されていません。
そこで、研究グループは、広範囲脳虚血病変(ASPECTS≦5)を伴った脳主幹動脈閉塞症例に対して、「血管内治療が有効であること」を世界に先駆けてランダム化臨床試験で証明し、国際的な学術誌である「New England Journal of Medicine」に掲載されました(N Engl J Med 2022;386:1303)。

研究手法と成果

本研究は、広範囲脳虚血病変を伴う脳主幹動脈閉塞症に対するランダム化臨床試験(RESCUE-Japan LIMIT)の追加解析です。ランダム化臨床試験の登録患者202例を「相対的に脳虚血範囲が大きい脳虚血病変を有する群(ASPECTS≦3)106例」と「相対的に脳虚血範囲が限られている群(ASPECTS4-5)96例」の2群に分けて、血管内治療の有効性と安全性を分析しました。
相対的に脳虚血範囲が大きい脳虚血病変を有する群(ASPECTS≦3)においては、血管内治療は90日後の機能的転帰を有意に改善せず、症候性頭蓋内出血の発生率が高いことが示され、「ASPECTSが3である患者」を血管内治療の適応基準とするか否かは、さらなる検討が必要であると考えられます。一方で、脳虚血範囲が限られている群(ASPECTS 4-5)については、「ガイドラインで推奨されている対象患者(ASPECTS≧6)と同等の有効性と安全性」が確認されました。

研究費等の出処

・公益信託三原脳血管障害研究振興基金:吉村 紳一
・日本脳神経血管内治療学会:吉村 紳一

今後の課題

本研究に登録された患者の約8割は「MRIを用いて脳虚血範囲の評価」が行われていましたが、諸外国ではCTによる脳虚血範囲の評価が一般的であり、「MRIによるASPECTSの評価」と「CTによるASPECTSの評価」が異なる可能性があります。また、出血性合併症に対する懸念から「rt-PA静脈投与が行われた患者の割合が20%程度」と「諸外国と比較して患者の割合」が少ないことが分かっています。これらの血管内治療以外の診療の違いが「広範囲脳虚血病変を伴う脳主幹動脈閉塞症に対する血管内治療の有効性や安全性」に与える影響を評価するために、さらなる追加解析を実施する予定です。

掲載誌