研究業績

医療科学研究科の院生ら研究グループが、血液透析患者のサルコペニアスクリーニングに血中クレアチニン濃度が有用な指標であることを解明

大学院医療科学研究科に属する修士課程2年生の垣田大輔さん、指導教員の玉木教授、松沢講師らの研究グループは、血液透析患者におけるサルコペニアのスクリーニングに、血中のクレアチニン濃度が有用な指標であることを明らかにし、2021年発行のJournal of Cachexia, Sarcopenia and Muscleに論文が掲載されました。

左から玉木教授、垣田さん、松沢講師

論題

Simplified discriminant parameters for sarcopenia among patients undergoing haemodialysis

論文著者名

垣田大輔、松沢良太、玉木 彰ら

研究概要

兵庫医科大学大学院医療科学研究科 病態運動学分野(内部障害) 大学院生 垣田大輔(修士2年)、松沢良太講師、玉木彰教授らの研究グループは、筋タンパクの代謝産物である血清クレアチニン濃度が血液透析患者におけるサルコペニアのスクリーニングに有用であることを明らかにしました。本研究論文はJournal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle(2021 JOURNAL IMPACT FACTOR: 12.063)に掲載されました。

研究の背景

本邦において、血液透析療法を必要とする末期腎不全患者は年々増加しています。透析患者の高齢化率に着目してみると、2018年末の本邦の透析人口の平均年齢は68.7歳と高く、60歳以上が78.1%を占めている状況です。透析患者はこうした加齢以外にも慢性的な低栄養の遷延、慢性炎症、インスリン抵抗性、代謝性アシドーシス、尿毒症、異化亢進/同化抵抗性、身体不活動/運動習慣の欠如、多疾患併存、生活習慣病の重度化、透析療法に伴うアミノ酸喪失、カルニチン欠乏および度重なる入院加療といったサルコペニア発症の危険因子を多く有することが知られています。サルコペニアとは筋量と筋力の進行性かつ全身性の減少に特徴づけられる疾患であり、近年では本格的な治療標的になっています。

サルコペニアの予防・是正を目的とした疾患管理を透析患者の日常診療の中で展開していくためには、簡便かつ信頼性の高いサルコペニアのスクリーニング指標を開発することが重要です。そこで、我々は筋タンパクの代謝産物である血液中のクレアチニン濃度に着目し、サルコペニアスクリーニングの有用性について検証することにしました。

研究手法と成果

東京都、神奈川県および兵庫県の3施設から集められた血液透析患者356名について、血清クレアチニン値から算出したクレアチニンインデックスのサルコペニア判別能について横断的に検証を行いました。研究対象者のうち142名(39.9%)にサルコペニアを認めました。受信者動作特性曲線を用いた解析から、クレアチニンインデックスのサルコペニア判別における曲線下面積は0.77であり、中等度の判別能を有することが確認されました。さらに患者背景因子で調整後のロジスティック回帰分析から、クレアチニンインデックス1mg/kg/day低下ごとにサルコペニア合併のオッズは1.27倍高くなることが明らかになりました(odds ratio, 1.27; 95% confidence interval, 1.06-1.53)。

血清クレアチニン値から算出するクレアチニンインデックスは客観的かつ臨床現場で簡便に用いることのできる有用なサルコペニアスクリーニング指標であることを示しました。

研究費等の出処

JSPS KAKENHI(若手研究:松沢 良太)
兵庫医療大学 教員研究費
兵庫医科大学大学院教育経費

今後の課題

本研究は小規模の観察研究であり、今後は症例数を増やした検討が必要です。また、残腎機能のある患者において、クレアチニンインデックスがどの程度正確にサルコペニアを判別できるか否かについてはさらなる検証が必要です。

掲載誌