研究業績

診療ガイドラインに基づいて、自動的に診療を支援する臨床決断支援システムの有効性を明らかにした医学論文が国際的な学術誌「Scientific Reports」に掲載

国際的な学術誌「Scientific Reports」(2,September, 2022)に臨床疫学 森本 剛教授、臨床研究学 森川 暢大学院生らの論文が掲載されました。

「総合病院の外来を通院するすべての患者」を対象に前向きコホート研究を行い、「電子カルテに臨床決断支援システムを導入することで、診療ガイドラインに基づいた診療がより実施されること」を明らかにした内容です。詳細は、下記をご覧ください。

論題

Effectiveness of a computerized clinical decision support system for prevention of glucocorticoid-induced osteoporosis

論文著者名

森川 暢、作間 未織、中村 嗣、園山 智宏、松本 知沙、武内 治郎、太田 好紀、小阪 真二、森本 剛

研究概要

本研究で検証した臨床決断支援システムとは、「診療ガイドラインに沿った推奨医療を、個人個人の患者の状態に応じて自動的に電子カルテにアラートやオーダリング画面として表示し、臨床医を支援するシステム」のことを表しています。

本研究では、ステロイド性骨粗鬆症ガイドラインを実装した臨床決断支援システムを開発し、前向きコホート研究を行い、「システム導入前後におけるステロイド性骨粗鬆症ガイドラインに基づいた診療プロセスの変化」を分析しました。

今回の研究結果から、臨床決断支援システムを導入することで診療ガイドラインに準拠した診療が向上することが示唆されました。

研究の背景

診療ガイドラインは診療の質の向上と標準化において、中心的な役割を果たしていますが、実臨床において、臨床医が診療ガイドラインを遵守する割合は十分ではないことが報告されています。日常診療において、診療ガイドラインの遵守率を高めることが可能なのかどうかを評価することは、臨床上の重要な課題です。

研究グループは、多彩な疾患に対して投与される薬剤「ステロイド」に注目しました。ステロイドは多くの患者に投与され、その効果は劇的ですが、一方でステロイドの副作用であるステロイド性骨粗鬆も臨床的に重要な課題です。日本においてステロイド性骨粗鬆症の診療ガイドラインは出版されていますが、その遵守率は十分ではありません。また、臨床決断支援システムが診療ガイドラインの遵守率に与える影響を検証した研究は国際的にも稀であり、今回の研究グループは、世界で初めて、ステロイド性骨粗鬆症の予防に関する診療ガイドラインに基づいた臨床決断支援システムを開発し、電子カルテに実装し、その効果を検証しました。

研究手法と成果

3カ月以上に渡ってステロイドが投与され、ステロイド性骨粗鬆症の予防に関する診療ガイドラインに基づく治療の適応を満たした外来患者を対象に前向きコホート研究を実施しました。

診療ガイドラインに基づいて、「骨密度検査」と「ビスホスホネート」の処方を電子カルテ上で自動的に推奨する臨床決断支援システムを導入しました。「システム導入前の1年間」と「導入後の1年間」で、合計938名の患者さん(導入前:457名、導入後:481名)を分析しました。
骨密度検査実施を推奨するアラートの対象となる患者のうち骨密度検査を受けた患者数は「導入前4%」から「導入後の24%」と有意に増加しました。その結果、骨密度検査のアラートの対象となる患者数は「導入前の93%」から「導入後の87%」と有意に減少しました。一方で、ビスホスホネート処方のアラートの対象となる患者のうち、実際にビスホスホネートが処方された患者数は「導入前の16%」から「導入後の19%」、ビスホスホネート処方のアラートの対象となる患者数は「導入前の67%」から「導入後の63%」と数字上では改善を認めましたが、有意差には至りませんでした。
また、診療科ごとのアラート受諾率を比較したところ、総合診療科は他の診療科と比べて「骨密度検査」と「ビスホスホネート処方」のいずれにおいても、アラート受諾率が有意に高い傾向であることがわかりました。

研究費等の出処

・科研費(18H03032、 21H03176):森本 剛
・厚労科研費(H26-Iryo-012、 H28-ICT-004):森本 剛

今後の課題

臨床決断支援システムを導入することで、診療ガイドラインに準拠した質の高い診療を実践できる可能性が示唆されました。一方で、臨床決断支援システムを導入してもビスホスホネート処方率や骨密度検査実施率は、理想的なレベルに達していない可能性もあります。アラートの受諾率の低さや診療科による差違の要因については、さらなる分析が必要であると同時に、骨折などのアウトカム評価も必要だと考えています。

掲載誌