研究業績

サルコペニアの早期診断の可能性を示した医学論文が国際的な医療学術誌「JAMDA」に掲載

国際的な医療学術誌「JAMDA」(23,August 2021)に総合診療内科学 新村 健主任教授、楠 博非常勤講師らの論文が掲載されました。

兵庫医科大学、兵庫医療大学、兵庫医科大学ささやま医療センター、京都大学、愛媛大学、丹波篠山市の共同研究で、「兵庫県 丹波篠山圏域在住高齢者」を対象にコホート研究を行い、フレイルの早期診断の可能性を示した内容です。詳細は、下記をご覧ください。

論題

Estimation of Muscle Mass Using Creatinine/Cystatin C Ratio in Japanese Community-Dwelling Older People

論文著者名

楠 博、田原 康玄、辻 翔太郎、和田 陽介、玉城 香代子、永井 宏達、伊藤 斉子、佐野 恭子、天野 学、前田 初男、杉田 英之、長谷川 陽子、岸本 裕充、下村 壮治、伊賀瀬 道也、新村 健

概要

本研究は、兵庫医科大学、兵庫医療大学(薬学部・リハビリテーション学部)、兵庫医科大学ささやま医療センター、京都大学、愛媛大学、丹波篠山市との共同研究です(筆頭著者は本学 楠非常勤講師)。加齢に伴う筋肉減少症(サルコペニア)の診断には全身の筋肉量を身長の2乗で割った骨格筋量指数(skeletal muscle mass index: SMI)が必須です。一方で腎機能の指標であるクレアチニン(Cr)とシスタチンC(CysC)の比Cr/CysCが筋肉量と相関することが知られています。兵庫医科大学ささやま医療センターの調査参加者908名のデータからCr/CysC等を用い、SMIを推算する回帰式を作成しました。回帰式によるSMI推定値のvalidationとして、愛媛大学抗加齢ドックの参加者263名のデータを用い、有用性を確認しました。

研究の背景

フレイルとサルコぺニアは寝たきりの一歩手前の状態と考えられ、健康長寿延伸を目指すための重要な病態です。アジア人向けのサルコペニアの診断基準はAWGS2019が広く用いられており、SMIの低下に握力低下、歩行速度などの身体機能の低下が加わるとサルコペニアと診断されます。しかし、SMIの測定にはDXA(骨密度測定にも用いるX線検査)やBIA(バイオインピーダンス法)などの特殊な機材が必要となるため、より簡便な筋肉量の評価方法の開発が望まれていました。その例として東京大学の柏スタディでは、ふくらはぎに両手の親指と人差し指で作った輪に隙間ができるかどうかで、骨格筋量の低下を評価する「指輪っかテスト」が考案されています。 国内外の先行研究でCr/CysCが筋肉量と相関することが数多く報告されており、血液検体から簡便にSMIを推定できるのではないかと考え、この研究を行いました。

研究手法と成果

2015年より、兵庫医科大学ささやま医療センターで行われている高齢者疫学研究(FESTA研究)の調査参加者908名のデータからCr/CysC、体重、年齢、ヘモグロビン値を用い、SMIを推算する回帰式を男女別に作成しました。

男性: 4.17-0.012*年齢+1.24*Cr/CysC-0.0513*ヘモグロビン値+0.0598*体重

女性: 3.55-0.00765*年齢+0.852*Cr/CysC-0.0627*ヘモグロビン値+0.0614*体重

回帰式によるSMI推定値(pSMI)はBIA法による実測したSMIと強い相関が認められました。また、pSMIはCr/CysCのみよりもサルコペニアを感度、特異度ともに高く診断できることが分かりました。また、pSMIが他の集団でも有用であるかを検討するためのvalidation群として、愛媛大学抗加齢ドックの参加者263名のデータを用いました。validation群においてもpSMIはCr/CysCのみよりもサルコペニアを感度、特異度ともに高く診断できることが分かり有用性が確認できました。

研究費等の出処

・科研費 基盤(B)16KT0012 (2016–2018 新村 健)、若手研究19K16995 (2019–2022楠 博)

・兵庫県医師会勤務医医学研究助成 (2016 新村 健)、兵庫医科大学二大学連携共同研究支援助成金 (2017–2019 新村 健)

・未来医療研究人材養成拠点形成事業:リサーチマインドを持った総合診療医の養成 (2015–2017 兵庫医科大学)

今後の課題

今回の研究で見出したSMI推定値(pSMI)が、腎機能の評価に用いられるeGFR(推算糸球体濾過量)のように広く認知されれば、サルコペニアの早期診断にもつながるものと期待されます。しかし、シスタチンC(CysC)は一般の後期高齢者健診の項目には含まれておらず、また腎障害の無い場合、保険診療上の算定が困難なこともあるため、クレアチニン(Cr)とシスタチンC(CysC)の同時測定の医学的意義を認知させていくことが、SMI推定値(pSMI)を広く普及させるための課題であると考えています。

掲載誌