研究業績

高齢者における高血圧症と口腔機能との関連を食習慣から明らかにした医学論文が国際的な医療学術誌「Nutrients」に掲載

国際的な医療学術誌「Nutrients」(4,February 2022)に総合診療内科学 新村 健主任教授、歯科口腔外科学 長谷川 陽子非常勤講師らの論文が掲載されました。

兵庫医科大学、新潟大学大学院医歯学総合研究科、丹波篠山市との共同研究で、「兵庫県 丹波篠山圏域在住高齢者」を対象にコホート研究を行い、高齢者における高血圧症と口腔機能との関連を食習慣から明らかにした内容です。詳細は、下記をご覧ください。

論題

The Association of Dietary Intake, Oral Health, and Blood Pressure in Older Adults: A Cross-sectional Observational Study

論文著者名

Pinta Marito、長谷川 陽子、玉城 香代子、Ma Therese Sta. Maria、善本 祐、楠 博、辻 翔太郎、和田 陽介、小野 高裕、澤田 隆、岸本 裕充、新村 健

概要

本研究は、兵庫医科大学、新潟大学大学院医歯学総合研究科、丹波篠山市との共同研究です。
高齢者の高血圧には、「塩分摂取量などの日常の食生活が関連していること」が知られています。また日本の吹田研究(大阪府吹田市の一般住民を対象としたコホート研究)では、高齢者の高血圧とお口の働きとの間に関連があることが報告されています。今回の論文では、高齢者の血圧変化にはお口の働きが関連し、「食品をかみ砕く能力が高いことは、高血圧に対して予防的な食生活を維持するうえで極めて重要である」可能性を示しました。特に奥歯の噛み合わせがない場合、「高血圧のリスクを1.7倍も高める」というエビデンスが得られました。
高齢者において高血圧のリスクを減らすためには、食塩摂取量を減らし、果物や野菜の摂取量を増やすことが大切ですが、そのような食生活を続けることは「お口の働きが悪い場合は困難」となります。そこで、「医科」と「歯科」の連携により、お口の働きを維持しながら、適切な食事指導をしていくことが、高齢者の健康寿命延伸のためには重要であると考えられます。

研究の背景

高血圧は、非感染性疾患の中で日本人の主要な死因の1つと言われています。75歳以上の日本人の約70%が高血圧といわれ、高血圧の発症にはさまざまな生活習慣が関係しています。歯科口腔外科の領域では、歯周病、歯の本数が高血圧と関連することが報告されています。
お口は、栄養を取り込むための重要な器官であり、さまざまな疾病の発症に関わっていると言われています。加齢や疾患により、口腔や全身状態が変化すると、食品の選択や食習慣が変化します。2018年の日本の国民健康栄養調査によると、60歳以上の約25%の人が咀嚼機能の低下を訴え、さまざまな食べ物を噛むことができない状態です。また歯を失った人は、好んで柔らかくて噛みやすい食べ物を選び、食物繊維が豊富で栄養価の高い食べ物を避ける傾向にあります。咀嚼は、「食べ物を細かく砕いて飲み込む」という消化プロセスの最初のステップであり、特に高齢者では健康維持に欠かせない栄養吸収をより可能にするものです。
食事摂取内容と高血圧との関係は広く知られていますが、「お口の健康が食事摂取内容と高血圧との関係性にどのような役割を果たすか」についての研究はほとんどありません。そこで本研究では、「血圧・食事摂取内容」と「お口の働き」との関連性を調査し、解析を行いました。

研究手法と成果

今回の横断研究は、兵庫県丹波篠山市内で行われたコホート研究「Frail elderly study in the Tamba Sasayama-Area(FESTA) 」の一部として実施しました。研究対象者は、2016年4月から2019年12月にかけて、医科歯科合同調査研究に自発的に参加し、書面によるインフォームドコンセントを提出した「65歳以上の自立した地域在住高齢者(894名)」です。
高血圧は日本高血圧学会のガイドラインに基づき分類しました。口腔内の状態は、残存歯数、咬合力(噛む力)、後方咬合支持(奥歯の噛み合わせ)、咀嚼能力、口腔内水分量、口腔内細菌数により評価しました。
食事摂取量は、簡易型自記式食事歴法質問票(BDQH)を用いて評価しました.運動習慣、喫煙習慣、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病、心血管疾患、脳卒中などの健康情報は、参加者のアンケート調査から収集しました。
解析の結果、高血圧と関連がある患者背景因子として、「年齢」「body mass index[体重<kg>÷(身長<m>の2乗)で算出]」 「臼歯部咬合支持域の状態」「摂取食品中のナトリウム/カリウム比」が抽出されました。特に臼歯部咬合支持域の喪失を認めた高齢者については、高血圧のオッズ比が1.72と有意に高いことが明らかになりました。

研究費等の出処

・兵庫県歯科医師会
・8020財団
・三井住友海上福祉財団
・日本学術振興会科学研究費補助金(科研費)(新村 健 2016-2018 助成番号16KT0012)

今後の課題

本研究は、横断研究であるため、「高齢者の高血圧」「お口の働き」「食生活」との因果関係は明らかではありません。今後は、高齢者の血圧の変化を経時的に追跡していくことで、「お口の働きを良い状態に保つことが、どのような作用により、高血圧に対しての予防的な役割を担っているのか」を詳しく解明していきたいと考えています。

掲載誌