国際・国内交流
内海 大樹さん
ヴュルツブルク大学臨床実習報告書
2025年4月7日から5月2日までの4週間、ドイツのヴュルツブルク大学にて臨床実習を行いましたので、ここに報告いたします。私がドイツへの留学を志望した理由は二つあります。第一に、2025年度の6年次における留学先としてアメリカとドイツが選択肢として提示されており、将来日本で医療を行うことを考えたとき、自由診療が基本であるアメリカよりも、日本と同様に国民皆保険制度が敷かれているドイツで学ぶことがより実践的で有意義であると考えたためです。第二に、昨年度日本に留学に来ていたドイツ人学生と特に親しくなり、彼らとの交流を通して、ドイツと日本の医療や文化の違いについて多く学び、自分自身の目でそれらを体験したいという思いが強くなったことがからです。ここでは、実習、留学で経験させていただいたことを中心に、私が学んだこと、感じたことについて記述いたします。
ヴュルツブルク大学医学部は、長い歴史の中で多くの著名な研究者・医師を輩出してきました。特にX線を発見したレントゲン博士はこの大学出身で、キャンパス内には彼の功績をたたえるレントゲン博物館がありました。また、日本の西洋医学発展に貢献したシーボルトの母校でもあり、日本人にとってもゆかりのある大学です。実習の最初の2週間は核医学科でお世話になりました。今年度からは応募時に核医学科を指定される形式となっており、核医学科を自大学で単独で実習する機会がないため、大変貴重な経験となりました。
1週目はSPECTやシンチグラフィを用いた外来診療と、放射性同位体を用いた入院治療の見学を行い、2週目は甲状腺疾患に特化した外来診療や画像診断の現場を中心に学びました。実習を通じて核医学に対する理解が深まっただけでなく、実際に患者さんへの採血やエコーも経験することができました。特に印象的だったのは病室の構造です。放射性同位体を服用した患者は自由に部屋を出入りできないため、各病室には庭付きのテラスが設けられていて、患者のQOLに配慮された設計となっていました。また、ヴュルツブルク大学の核医学科には日本人の樋口教授がご所属で、現地の先生方から様々なお話をお聞きする機会がありました。スケジュールの都合でお会いすることは叶いませんでしたが、日本人が海外の最前線で活躍されていることに強く励まされました。来年度以降の学生には、ぜひ先生にお会いしてほしいと思っています。
後半の2週間はMedical Emergency and Intensive Care Medicineで実習しました。ヴュルツブルク大学では診療科ごとに建物が分かれており、各科ごとに救急患者の対応を行っています。私がお世話になったのは循環器内科の救急部門で、循環器領域の急性期疾患の患者が多く搬送されていました。そこで勤務している医師の多くが循環器内科医であるため、心筋梗塞などの疾患に対して診断からカテーテル治療までを一貫して担当しており、時間のロスがない非常に理想的なシステムであると感じました。また、違法薬物による中毒患者が多く搬送される現実を目の当たりにし、日本との違いを強く実感しました。この科では現地の学生と一緒に実習を行いました。彼らは4週間この科で実習していて、自立性の高さには特に驚かされました。一人で病棟患者の問診・身体診察・採血・透析機器の管理等をこなしており、CVポートの挿入も、指導医の立ち会いのもとであれば一人で施行していました。日本では後期研修医以降が担当することが多いため、大きな驚きでした。救急患者の対応でも学生が積極的に動き、ショック状態の患者に自ら採血を試みたり、データを読み上げてチームと共有したりと、医療チームの一員として活躍している姿に感銘を受けました。
実習を総合的に振り返ると、最初に核医学科で実習できたことは非常に良かったと感じています。核医学科の先生方は救急患者が次々と運ばれてくる救急現場と比べ比較的時間に余裕があり、英語で丁寧に解説してくださったおかげで、初めての海外での実習に不安を抱えていた私も落ち着いて学ぶことができました。また、医学英語の勉強をもっとしておくべきだったとも痛感しました。低学年の時に古瀬先生の授業で行った医学英語の小テストは非常に有用だったと感じており、その際の教材を復習してから実習に臨みました。しかし、より専門的な会話になると、教科書的な知識では不十分で、わからない単語をその場で調べることも多々ありました。大学病院内ではインターネット接続が不安定で、Wi-Fiが使えない場面も多く、そのような状況で必要な医学英語が分からず困ったこともありました。医学英語は通常の英語と違って他の英単語で説明することが難しいです。さらに、ドイツ語の医療単語は医学英語と似ているため、少しドイツ語訛りの医療英語で話されることもありました。そのため、聞き慣れた単語だと発音が違っていても解釈できましたが、聞き慣れない単語の場合には話についていけなくなることもありました。普段から疾患名や処置名を英語で言えるようにしておくことの大切さを痛感しました。
現地での生活面では、昨年度日本に留学に来ていたドイツ人留学生をはじめ、今年度来日した学生や来年度来日予定の学生たちに大変お世話になりました。空港からの移動手段の手配や、寮までの送迎、生活必需品の準備など、到着前から手厚いサポートを受けました。留学開始後も、買い物や食事、観光、ドイツ特有の遊びなど多くを教えてもらい、文化の違いを肌で感じ、学ぶことができました。ここでは書ききれないほどたくさんのことを彼らに助けてもらい、異国の地で支えてくれる友人たちの大切さを改めて感じました。今後留学を考えている学生には、自分が留学する年度の留学生だけでなく、早い段階から出来るだけ多くの留学生と積極的に交流することを強くおすすめします。
最後になりましたが、このような素晴らしい機会を与えてくださった兵庫医科大学の先生方、ヴュルツブルク大学の先生方・学生の皆さま、そして関わってくださったすべての方々に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。