Würzburg大学留学体験報告

 今回、2025年4月7日~5月2日までの1ヶ月間の第6学年自由選択実習をWürzburg大学の核医学と麻酔科で行いましたことをご報告いたします。今回は、留学生活で得た学びや経験、日本とドイツの医療制度や臨床現場の違いなどに関して述べていきたいと思います。

 Würzburg大学はドイツ・バイエルン州のWürzburgにある国立大学で、1402年に創立された非常に歴史のある大学で、正式名称はJulius-Maximilians-Universität Würzburgです。世界初のX線写真を撮影し、1901年第1回ノーベル物理学賞を受賞したレントゲン博士が教鞭を執っていた大学でもあり、学内にはキャンパス内には歴史的な展示物やモニュメントが数多く点在していました。このような長い歴史と伝統を有する大学で学ぶ機会を得られたことは、私にとって貴重な機会となりました。

 まず前半の2週間は核医学での実習でした。外来に来られる患者さんは甲状腺疾患・乳がん・前立腺がん・自己免疫疾患の方が多い印象でした。この実習期間中はSPECTやシンチグラフィー検査の一連の流れを見学し、インフォームドコンセントの説明にも同席しました。日本と比べて、ドイツの患者さんは医師に対して積極的に質問を行い、不安や疑問点を率直に解消しようとする姿勢が強いという印象を受けました。文化的・言語的な背景の違いも影響していると思いますが、双方がほぼ同等の割合で対話を交わすことで、より充実したインフォームドコンセントが実現されていると感じました。よって、インフォームドコンセントを有効に機能させるためには、患者教育を通じて患者の理解と主体的な意思決定を支えることが必要だと感じました。また外来見学では、指導医の先生の立会いのもとで甲状腺エコーや採血を実施し、様々な手技を実践的に習得することができました。日本では医学生が実際の処置に直接携わる機会は比較的限られているのに対し、ドイツでは採血からIVラインの確保に至るまで、学生が一連の臨床手技を担う体制が整備されていることにとても驚きました。また、乳がんの患者さんの際はセンチネルリンパ節生検を見学し、色素の準備なども手伝わせていただきました。放射線内用療法が行われている病棟を見学した際には、遮蔽壁として鉛板が用いられていたほか、靴の履き替え・手洗い、専用の機械による汚染チェックなどコンタミネーション防止策が徹底されており、その厳重さに驚かされました。そのほかにもCT、MRIの読影のレクチャーや甲状腺がんの講義などがあり、連日多彩な実習内容を経験することができました。

 後半の2週間は麻酔科での実習でした。まずは毎朝全体のカンファレンスで情報交換を5分程度で手短に行い、それぞれの担当の手術室にそのまま向かうという形を取っていました。ここでは、バックバルブマスク換気や末梢静脈ライン確保、成人・小児いずれのラリンゲルマスク挿入、さらには気管挿管から抜管まで、日本での実習では考えられないような幅広い手技を実践する機会が与えられました。人生初めての留学であり、日本でも未経験の処置が多かったため当初は強い緊張を覚えましたが、ドイツの手術室には麻酔導入専用室であるInvasion roomが設けられおり、この環境が大きな支えとなりました。Invasion roomでは十分な時間を確保したうえでレクチャーや手技を行う体制により、学生側が処置に戸惑っても外科医の方々に急かされることがなく、精神的なストレスやヒューマンエラーのリスクが大幅に低減しているとのことでした。教育と患者安全を両立させるこのシステムに深い感銘を受けました。

 さらに印象的だったのは、麻酔科医が患者に挨拶し説明を行う際、必ずマスクを外し、笑顔でジョークや日常会話を交えながら不安を払拭していたことです。コロナ禍以降、院内では常時マスクの着用が当たり前となった日本の臨床現場とは対照的であり、表情を見せることが患者さんの安心感につながり、それが質の高い麻酔を実現させるということを学びました。よって、麻酔科実習を通じて実践的な手技の習得と患者さんや職場の同僚との円滑なコミュニケーションの双方が質の高い医療を実現させているということを強く痛感しました。また、指導医の方から、同じ職場で働くスタッフ全員に「ほんの一言でもよいから、できる限り自分から声をかけるようにしたほうがいいよ」との助言をいただきました。上下の垣根を低くし、フレンドリーに接することで互いの緊張が和らぎ、情報共有もしやすくなり、仕事もスムーズに楽しくできるとのことでした。日本では上司の先生に対して気軽に言葉を交わすことに勇気がいりますが、まずは気軽な挨拶やちょっとした雑談からでも会話を増やして、信頼関係を築くことがいい医療に繋がるのだと実感しました。これらの経験から、医学の知識を深めることだけではなく、人と人との関わりを大切にする姿勢を忘れない医師になりたいと強く思いました。

 私は5年生になるまで海外留学にはほとんど関心がありませんでしたが、卒業が近づくにつれて、「学生のうちに自分から何かに挑戦してみたい」という気持ちが芽生えました。そんな折、たまたま参加した留学プログラム説明会で先輩方の体験談を聞き、海外で医学を学ぶ魅力に強く惹かれました。英語は決して得意ではありませんでしたが、「苦手だからこそ今やる価値がある」と考え、英会話を始め、語学学習を一からやり直しました。また、大学に来ていたドイツやアメリカの留学生と交流して一緒に出かけるうちに、留学や英語学習、医学の勉強へのモチベーションもどんどん高まりました。やっとの思いで留学が決まったときは、喜びと同時に不安も押し寄せました。海外留学の経験もなく、1ヶ月間ドイツの病院で医学を学ぶなんて自分にできるのだろうかと心配でした。しかし、実際に現地に到着するとWürzburg大学の先生や学生の皆さんが温かく迎えて下さり、すぐに緊張は解けました。いざ留学を終えてみると「行って本当に良かった」と心の底から思いました。短い期間ながら、医学的な知識や手技だけでなく、異文化の中で患者さんや医療従事者の方々との交流を持てたのは、私にとってかけがえのない経験になりました。

 今回の留学で指導してくださったWürzburg大学の先生方をはじめ、現地で助けてくれた学生の皆さん、サポートしてくださった職員の方々や国際交流センターの方々、そしてこのプログラムにかかわってくださったすべての皆様に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。