桝谷 直子さん(第6学年次)

ヴュルツブルグ大学留学を終えて

 私は、2024年4月2日から4月26日にかけてビュルツブルグ大学に留学しました。関西空港からドバイで乗り継ぎ、フランクフルト空港まで約17時間のフライト。出発予定だった飛行機が機材トラブルで遅延し、1日遅れての到着というハプニングから始まりました。そこから電車に乗りビュルツブルグに着くと、コーディネーターのKatrinが快く出迎えてくれました。その後寮に荷物を置き、病院、ビュルツブルグの街の中心地などを案内していただきました。まだ頭がぼーっとしていましたが、マイン川にかかる橋の上で、周りで流れる音楽を聴きながら飲んだワインの味は忘れられず、素敵な街の雰囲気を楽しむことができました。

 本来は実習が月曜日から始まるのですが、4月1日はイースターで祝日だったので、火曜日からのスタートとなりました。当初は循環器内科を2週間ローテーションする予定でしたが、学会のため最初の週は急遽ICUでの実習に変更となりました。ICUでは朝7:30から回診が始まりました。その後は必要に応じて各患者の対応を個別にしていきます。私が一番驚いたことは、6年生が一人で患者さんに中心静脈カテーテル(CVカテーテル)を入れているということでした。日本ではCVの手技は早くて初期研修医が行うものという認識があったので、それを学生が自ら淡々とこなしている姿を見て学生のレベルの高さを実感しました。また急患が運ばれてきた時も戸惑うことなく、6年生がルート確保など適切な措置を行い、考えうる疾患などを上級医に報告していて、圧巻でした。そこでは私もエコーやCVの補助などをさせてもらいましたが、自分の知識、経験の未熟さに少し悔しく思いました。最初は医師が忙しそうにICU内を走り回っているので、どうすればいいのかわからず戸惑っていましたが、「とりあえず医師の後ろについてシャドーすること。わからなかったらなんでも聞いてくれていいから」と言われ、それからは、部屋に入ったらとにかく手袋をつけて「何かできることはありませんか?」「私もやってみてもいいですか」と積極的に行動するようにしました。16:30ごろには夜勤の人への引き継ぎがあり、その後帰宅していました。

 循環器内科では、7:30から朝の回診が始まりました。私は学生、レジデント、上級医からなるチームに参加していました。一緒に患者さんの部屋を訪問して、身体所見をとり上級医に報告します。回診は全てドイツ語で行われますが、学生やレジデントの先生が簡単に英語で翻訳してくださったのである程度の意味は理解することができました。その後の朝の採血は学生の仕事なので、採血カートを押しながら各患者さんの部屋を周り、採血をしていきます。2、3回学生と一緒に採血した後、「僕はこっちをやるから、君はあっち側の患者さんをお願い」と言われた時は驚きましたが、その後は一人で採血ができるようになりました。また弁膜症の患者さんがいらっしゃったので聴診し、英語が喋れる患者さんがいれば一通り問診から身体所見をとるまでさせてもらいました。その他にも点滴静脈注射、ルート確保など簡単なことはしていました。

 次の1.5週間は麻酔科を回りました。自大学の麻酔科の実習は1週間と短かったので、最初はついていけるのだろうかと少し不安でした。しかし、担当してくださったDr. Geierが丁寧に指導してくださり、最初はバックバルブマスクの使い方、機械の簡単な説明を受け、末梢ルートの確保、麻酔前の酸素投与、ラリンジアルマスクの挿入、喉頭鏡での気管挿管などをほぼ毎回の手術で行い、とても楽しく実習することができました。もちろん、国内でこのような経験はなく、今回が初めての体験でした。それでも周りの先生方は「大丈夫、いざとなったら変わるから!」と、とにかく実践あるのみという感じでした。また、麻酔科ローテーションの間は、精神科、産婦人科、胸部心臓外科、眼科など、色々な病棟を日替わりで周り飽きることはありませんでした。さらに朝のカンファレンスの後、午前中の業務が少し落ち着いたタイミングで一度コーヒーブレイクを挟むことが日課なのですが、Dr. Geierが自前のコーヒーを振る舞ってくださりそれが毎日の楽しみの一つでもありました。

 最後の三日間は核医学でした。回るきっかけになったのは、放射線科の樋口教授との出会いでした。樋口先生は核医学の診療や研究に携わっている心不全センターの先生でもあり、研究や臨床のお話を聞かせていただき、興味を持ちました。さらにここビュルツブルグ大学は、実はかの有名なレントゲンがX線を発見した場所でもあり、核医学の研究が盛んな場所でもあります。そこで少し予定を変更して、核医学を訪問することにしました。ここではある程度フレキシブルに実習予定が組めるのもいいところだと思います。核医学では9:00ごろに外来がスタートし、そこで機会があれば患者さんに甲状腺のエコーをさせてもらっていました。その他にも画像読影室での読影、先生と一緒にCT、MRI画像を見ながらレポートを一緒に書いたり、読影のポイントを教えていただいたりしました。バセドウ病や甲状腺癌に対して行う放射性物質による治療のため病棟も所有しており、学生と上級医の先生と共に一緒に回診させていただく機会もありました。

 1ヶ月を通して感じたことは、見学が主体の日本の臨床実習と比べ、ドイツではより手を動かすことに重点が置かれている点でした。またドイツの医学教育も日本と同様6年間ですが、6年生はインターンシップとして内科、外科、そして自分の好きな診療科の3つを1年間かけて回り、さらに実習の際にお給料も貰えます。その影響もあってか日本の医学部卒業時点と、海外では臨床経験に大きな差があると思いました。さらにその間、自分の所属している大学病院で実習する必要はなく、将来働きたい病院や海外で研修する人もいます。学生と話していると、将来はスペインやスイスで働きたいという人や、アフリカで外傷外科医をしたいと語っていた女子学生もいました。またドイツは働く時は働き、休むときは休むとオンオフはっきりしていて医師としては働きやすく、実際医学部の学生は半数以上が女性だそうです。

 ドイツでの生活は、円安の影響もあり少し物価が高く、週一回は自炊を行っていました。外食のご飯はどれも美味しく毎回ついつい食べ過ぎてしまうほどでした。休日には現地の学生が自宅に招待してくれたり、同じ時期に実習に来ていた長崎大学の学生とともに観光に行ったり、大学の先生方がご飯に連れて行ってくださったり、自分たちでミュンヘンやハイデルベルク、フランクフルトに行くなどしてとても充実した時間を過ごすことができました。

 今回の短期留学は私にとっては大きな挑戦でした。言語の壁や初めての留学ということもあり、期限直前まで応募するかどうか悩みましたが、この機会を逃せばきっと後悔すると思い、勇気を出して応募しました。この1か月間は私にとってかけがえのない経験となり、今では心から行ってよかったと思います。

 最後になりましたが、今回の実習を行うにあたりお世話になった兵庫医科大学の先生方、ビュルツブルグ大学の先生方、コーディネーターのKatrin、学生の皆さん、国際交流センターの皆様方、1ヶ月共に過ごした文野さんを始めとして力を貸してくださったすべての方々にこの場を借りて感謝申し上げます。本当にありがとうございました。