文野 愛海さん(第6学年次)

Würzburg大学留学を終えて

 今回2024年4月2日から4月26日にかけての4週間、ドイツのWurzburg大学にて臨床実習を行いましたので、報告させていただきます。私がこのドイツ留学を志望した理由は二つあります。第一に所属している部活の先輩が前年度の留学に挑戦されており、刺激を受けたことです。ドイツと日本の臨床実習の違いを聞きとても興味を持ち、挑戦することで必ず今後の医師生活の中で役に立つのではないかと考えました。第二に第5年次の夏にアメリカのワシントン大学での医療倫理のプログラムに参加させていただき、アメリカで臨床を行っている先生方とディスカッションする機会があり、自分の視野が広くなったことを感じ、より世界の医療について知りたいと思いました。ここでは私が臨床実習で経験させてもらったことをふまえながら、学び、感じたことをお伝えしたいと思います。
 まず、Wurzburgはドイツ南部マイン川沿いの都市であり、周囲にはワイン畑があり町を歩くと教会やお城などヨーロッパを感じることができます。Wurzburg大学は600年以上の長い歴史を持ち、町中に病院の建物が散らばっておりそれが今なお残っています。レントゲン博士がX線を見つけノーベル賞に輝いたことをとても誇りとし、すべての学生が初めの授業でレントゲン博士の偉業を学びます。それに続き14人ものノーベル賞受賞者を輩出している大学として知られています。
 初めの2週間は麻酔科で実習をさせていただきました。麻酔科を選んだ理由は、日本では麻酔科を見る機会が1週間しかなく、外科系を目指すからにはしっかり勉強しておきたいと思ったことと、麻酔科医のDr.Geireが日本人学生をとても歓迎してくれて、手厚いサポートをしていただけると聞いたからです。大学の敷地内には診療科ごとの建物があり、それぞれの建物に手術室があり、私は眼科、頭頚部外科、形成外科、産婦人科の手術室で実習をさせていただきました。麻酔科の実習でまず驚いたことはInduction roomとRecovery roomがあることです。日本の手術では患者は起きた状態で手術室に入り、導入も覚醒も手術室内で行う印象でしたが、ドイツでは手術室の隣にInduction roomがあり、前の手術が終わりそうなタイミングで次の患者の麻酔をはじめ、手術が終わり、清掃が終わり次第麻酔のかかった患者を手術室に運び、手術を終えます。手術が終わると患者は手術室の外で麻酔科医見守りの下、麻酔から覚醒され、そのままRecovery roomに運ばれます。Recovery roomでは麻酔医と看護師が常に患者の状態を観察しており、患者の痛みが消え、精神状態が安定したと判断すると一般病棟に送ります。この仕組みは個人的には、すべて手術室で行わず患者を移動させることで患者は眠っておりにもかかわらずモニターが外れている瞬間が数秒あるというデメリットは感じましたが、効率的に手術を進めるメリットがあると感じました。もう一つ日本との大きな差を感じたことは、患者とのかかわり方です。周術期の管理は麻酔科医の役割であるので、手術前の患者を迎えに行き、患者の家族と直前に話し、目覚めた患者への声掛け、手術直後患者や家族への説明、などはすべて麻酔科医が行っていました。そのすべての場面を近くで見学させていただき、合間を縫って麻酔科の知識を教えていただき、日本の実習ではなかなか経験できない末梢ルートの確保、麻酔前の酸素投与、ラリンゲルマスクの挿入などたくさん経験させていただきました。精神科病棟でのうつ病患者への電気痙攣療法のための麻酔の導入にも付いて行かせていただき、すべての患者の処置前後の換気を任せていただきました。はじめは機械の数値を見てしまっていたのですが、先生から、機械ではなく患者を見て感じることが大事だと教わり、患者の胸や腹を観察し、呼吸を自分で感じるようになることができました。すべては実践あるのみで、医師や看護師、患者のすべてがそれを受け入れてくれとても有意義な2週間を過ごすことができました。
 3・4週目は放射線治療科での実習をさせていただきました。放射線治療科も日本ではあまり実習を行う機会はなく、どのようなものなのかX線が発見された地で学びたいと思い選びました。放射線科は毎日朝8時から1時間半ほど患者さんの放射線治療計画も検討を医師と物理学者で行うカンファレンスから始まります。すべてドイツ語で行われたので理解は難しかったのですが、先生方や一緒に回った学生が都度英語に翻訳してくれることがあったのでとても助けられました。実習内容としては、先生が患者に行う放射線治療前の説明や放射線治療後のフォローの様子を横で見学させてもらい、実際に放射線での計画CT、放射線外照射、密封小線源療法を見学させていただきました。日常生活を行うことができる患者は入院せず、毎日通いながら治療をするのですが、入院が必要な患者は放射線治療科の病棟があり、そこでの回診に同行し、身体診察も行わせていただきました。一番印象に残った治療は6歳の白血病の男の子に対する放射線全身照射(TBI)です。ドイツでも限られた病院でのみで行っている治療で、他国から治療のためにドイツのWurzburgに来る患者は多くいるそうです。日本でも造血幹移植前に行われていますが、詳しい勉強や実際に治療の様子を見たことはありませんでした。肺や脳は3Dプリンターで作られたプロテクターで守られ1回1面少量の放射線で治療が行われており物理的な面からの治療もイメージできました。2週間実習を行い、乳がんや前立腺がんをはじめ、子宮頸がん、直腸がん、肺がん、神経腫瘍、その他癌の脳・骨転移など様々な悪性腫瘍そのものに関してや、放射線治療や化学療法について、その後の経過などたくさん勉強することができました。将来外科系で腫瘍の治療を行いたいと考えているため、その中では切っても切れない関係である放射線治療についてみっちり勉強できる良い機会となりました。
 実習後はスーパーで買った食材で料理をしたり、長崎大学からの留学生や先日兵庫医科大学に実習に来たり来年実習に来るドイツ人学生と街までご飯を食べに行ったりおうちに招いていただきホームパーティーをしたりととても充実しており、たくさん国際交流を楽しむことができました。週末には電車に乗ってフランクフルトやミュンヘン、ローテンブルクなど観光に行き1か月のドイツ生活を堪能できました。行く前は海外での生活なんてできるか、ドイツ語話せなくても大丈夫か、現地の医師や学生とうまくやっていけるのかなど不安はたくさんありましたが、すべての方々のおかげでとても楽しく、本当に一生忘れることのない大変価値のある経験をさせていただきました。最後になりましたが、このような素晴らしい機会を与えてくださった兵庫医科大学の先生方、Wurzburg大学の先生方や学生の皆さん、その他関わって下さったすべての方々に感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。