向井 周さん(第6学年次)

Würzburg大学留学を終えて

 この度2023年4月3日から4月28日にかけて、Julius-Maximilians-Universität Würzburgに留学したため、その詳細についてご報告いたします。志望動機に関しては、大学入学時より、在学中に留学して自身の見識を広めたいと考えていた事や、日本の医療制度がかつてドイツの医療制度を参考に作られ発展したという歴史を持つため、現代における日本とドイツの医療制度の違いに興味を持った事、という2点が主な理由です。COVID-19の流行により2019年を最後に途絶えていた留学制度が、4年ぶりに再開しました。募集期間は留学の再開発表からわずか2週間であり、私は英語が得意ではなく、ドイツ語の素養もなく、また大学のプログラムで2年次に中国の汕頭に2週間留学の機会を頂いた他は海外経験に乏しく、留学に立候補することに不安がありました。しかし今回の留学経験を通して、挑戦してみること、その中で生じた困難に対応することで自分の見識を広くできるということを学びました。また現地の学生や先生方との交流を通じて日本の医療、医学教育制度の長所や短所についても考える機会を持ち、良い経験をさせて頂いたことを実感しています。

 私は循環器内科3週間、麻酔科1週間で臨床実習を行いました。循環器内科の1日は回診 (Round)から始まります。興味深かったのは、2チームが各々の担当患者さんの病室を訪れるのですが、7:15から始まる主任教授チームと7:30から始まる中堅医師チームがあったことです。その違いは個人保険加入者が前者の回診を、そうでない患者が後者の回診を受けるとの事でした。どちらの回診にも参加しましたが、主任教授チームの回診が先に終わることが多いものの約1時間半程度かけて回診しました。会話は全てドイツ語でしたが学生が英語で解説してくれたためある程度理解できました。その後病棟を巡って入院患者の採血をするのが学生の業務であり私も一緒に採血しました。COVID-19の感染者も5人程度病棟にいましたが、個室に隔離されることや、入室時に必ずガウンを装着しなければならないことを除いては特別に扱うことはなく、彼らの採血も経験しました。学生で手分けして病棟患者の採血を終わらせた後は患者のカルテを見て心電図や血液検査所見をもとに問診で聞くべき内容や行うべき身体診察をまとめ、患者の元へ向かいます。循環器内科の患者は高齢者が多く、多くの高齢者は英語を話すことができないため、問診に関しては学生が聴取するのを横で見ていました。身体診察についてはドイツ人学生と私が別個にとり、その後お互いに取れた所見について確認し合いました。日本の臨床実習ではあまり身体所見をとる機会がなかったため私の意見をドイツ人学生がカルテに書いてくれることに戸惑いましたが、徐々に余裕を持って聴診や打診、触診ができるようになりました。その後は学生と昼食をとり、午後は患者のカルテを見ながら病態について学生に解説してもらい、CAG、PCIなどの処置を見学しました。日本ではTAVIを見たことがないと先生方に伝えたところ、一度TAVIの術野に入らせて頂きました。

 またWürzburg大学にはFabry病センターがあり、ドイツ中のFabry病患者が診察を受けているとの事でした。希少疾患であり是非Fabry病患者にお会いしたかったため循環器内科の先生にお願いして半日Fabry病センターを見学させて頂きました。Fabry病センターではすでに診断済みの患者さんの心症状(心肥大による心不全や不整脈、虚血)のフォローアップと研究を行なっており、Fabry病に関する講義や運動負荷心電図検査を見学させて頂きました。運動負荷時に現れる特徴的な波形(knotung)など初めて知る知識も多く勉強になりました。

 最後の1週間は麻酔科で実習させて頂きました。日本とドイツの麻酔科の違いに関しては以前に留学に行かれた先輩方のレポートの通りであり、詳細に関しては割愛させて頂きますが、私が見学させて頂いたのは頭頸部外科、産婦人科、皮膚科、形成外科のオペでした。麻酔科のDr.Geierは日本文化に造詣が深く、日本の医学部の制度についても詳しいため、私が実技の経験に乏しいと言うことを承知した上で末梢ルートの確保、麻酔前の酸素投与、喉頭鏡を用いた気管挿管、ラリンゲアルマスクの装着などの機会を下さいました。Dr.Geierは”learn, do it, and teach it by yourself”と繰り返し、ただ見るだけではなく実際に自分で経験し、それを言語化して他人に教えられることができて初めて理解できたと言えるのだと私に何度もおっしゃいました。見学が主体の日本の医学教育と異なり学生が検査や手技をするドイツでは、確かに学生が私より深く検査所見の内容を読み込むことができており、一理あると痛感しました。

 日本、ドイツ間の医学教育、医療システムの違いについてですが、日本で初期研修医がする業務をドイツでは医学生が行なっていました。同じ6年制度でありながらドイツでは3年次より座学に加えて実技の練習を始めるとの事でした。また侵襲的な業務を任される分、ドイツの学生は責任感が強かったように感じました。一方で日本と比較して看護師には採血等侵襲的な処置が許されておらずまた検査技師なども見る限りではいなかったため、日本と比較して医師の業務が多く、その皺寄せが医学生によっているという側面も否定はできませんでした。国家試験は在学中に3回(2年:基礎医学筆記試験、5年:筆記試験、6年:口頭試問)あるため計画的に勉強をする必要がありますが、Ambossという日本のmedlinkに相当するアプリが学生ごとに勉強計画を自動で立ててくれるという話を聞き、非常に合理的なシステムだと思いました。普段の大学の試験は大学が過去問や模範解答を配っており、それを解きながらAmbossや教科書を使って勉強を進めていくとの事でした。さらに詳しく聞くと元々問題や解答は配らないようにしていたが、結局は学生が再現することや、時折再現問題が間違っており、そのことを問題視した先生たちが問題を配り始めたとの事でした。また余談ですが”Dragon Medical Direct”というアプリを用いて電子カルテがほぼ音声入力であったことに驚きました。保険制度は日本と同じ国民皆保険ですが個人保険に加入する人もおり、より高い水準の医療を受けられるとの事であり、ドイツでは経済格差が医療格差につながりやすいのではないかと考えました。

 最後になりましたが今回の実習を行うにあたりご尽力頂いた兵庫医科大学の先生方、Würzburg大学の先生方、学生の皆さん、1ヶ月共に過ごした福渡さんを始めとして全ての方々に衷心より御礼申し上げます。