福渡 夏樹さん(第6学年次)

ビュルツブルグ大学留学を終えて

 今回、2023年4月3日から28日にかけての4週間、ドイツにあるビュルツブルグ大学にて臨床実習を行いましたので、報告させていただきます。医学部で学ぶ中で日本と海外では臨床実習の内容が異なることを知り、海外での臨床実習を経験したいと思いました。また、日本の医療制度がドイツをまねて作られたことを知り、ドイツの医療体制に興味を持ちこのプログラムに応募しました。ここでは私が実習で感じた、日本とドイツの医療制度や臨床実習の在り方の違いについてお伝えしたいと思います。

 ビュルツブルグはドイツ南部に位置する、周囲をワイン畑に囲まれた人口13万人程度の自然豊かな都市です。ビュルツブルグ大学は600年以上の長い歴史を持ち、学生数2万5千人以上という総合大学で、シーボルト医師の卒業校として、また、レントゲン博士が教員として活躍されていた大学としても知られています。

私が病院について初めに驚いたのは、病棟の雰囲気の違いです。病室が広いだけでなくサンルームがついていたり、病棟に患者さんが自由に使えるドリンクバーやスナックバーが設置されていたりと、日本の大学病院に比べて、より患者さんの快適さが重視されているように感じました。このような設備にはドイツの医療保険制度が関わっているとのことでした。日本の医療保険は公的医療保険のみであるのに対し、現在ドイツではpublic insuranceとprivate insuranceのどちらかを自由に選択でき、public insuranceは所得に応じて保険料が高くなるため、経済的に余裕のある人は多くの場合private insuranceを選択するそうです。保険によって受けられる医療サービスにも違いがあり、サンルームやドリンクバーはprivate insuranceの患者さんのためのものであり、また、骨髄穿刺や生検を行う際、private insuranceであれば恐怖心や痛みを軽減するために鎮静をかけてもらうことができたり、教授回診ではprivate insuranceの患者さんが優先的に診察してもらえたりといった特典があり、保険によって患者さんが区別されている状況に驚きました。

診療科としては、まず血液内科と幹細胞移植センターで実習を行いました。ビュルツブルグ大学のほとんどの内科では、朝7時半から実習が始まります。

 この2つの科では、朝の採血結果次第でその日の化学療法が可能か、輸血が必要かなどを判断するため、朝病院に到着後まず採血を行います。ドイツでは、救急科や麻酔科などの特定の科を除いて、看護師は採血や末梢静脈ルートの確保などの侵襲的処置ができず、これらは医師の業務であり、大学病院では医師に代わって医学生が行います。そのため、医学生は採血などの手技を3年生の頃から練習しており、手技を習得した状態で臨床実習が始まります。日本の臨床実習では学生同士で数回練習したのみだったため、いきなり患者さんに対して手技を行うことに最初はとても緊張しました。しかし、ドイツの学生に教えてもらいながら毎日実践していくうちに、実習が終わるころには、採血やルートをとりながら患者さんと世間話ができる程度の余裕も生まれていました。ここで感じたのは患者さんの学生実習に対する考え方が日本と大きく違うということです。日本では医学生はあくまで学生であり、侵襲的な手技を行うことを不安に思われる患者さんも多くいらっしゃいます。しかし、ドイツでは医学生は数年後に医師になる存在であり、手技の習得のためには練習が必要不可欠だという理解が浸透していました。それは私のように経験の少ない留学生に対しても全く変わらず、「やればやるだけ上達するのだから、日本でできないなら今私で練習したほうがいい!」と患者さんが快く受け入れてくださり、失敗してしまっても「こんな細い針は全然痛くないから気にしなくていい、もう一度落ち着いてやってみて」と応援してくださったり、成功すれば一緒に喜んでほめてくださったりととても温かい環境でした。ドイツの学生に聞いてみると、臨床実習の後半になれば骨髄穿刺などのさらに侵襲度の高い手技や胆嚢摘出術の執刀もでき、これも患者さんはほとんどの場合受け入れてくれるそうです。医師のつきっきりの指導があり何かあった時のサポートがある学生のうちにこれらの手技を経験しておけるのはとてもラッキーだと思うと話してくれました。日本でも、学生が臨床実習中にできることを増やす流れがありますが、患者さんの学生という存在に対する理解や、学生が実習前に手技を練習できるカリキュラムなどまだまだ多くの課題があると感じました。

 採血を終えると、先生の回診の前に学生だけでチームの担当患者さん全員の身体診察を行い、カルテに記載します。この時、前日までなかった異常に気付けば指導医に報告します。その後に行われるチームの回診では、医師の問診が主体となり、身体診察は医師が問診中に気になった部分や学生が異常を報告した部分のみ行われます。ここで私が驚いたのは、医師の学生に対する信頼の厚さです。学生が異常はないと言えば、医師はそれを信用して身体診察をskipします。その信頼に応えるため、学生は少しの見逃しも無いよう真剣に聴診や触診を行います。この信頼関係によって医師の仕事量が軽減できるだけでなく、学生に責任感が生じ、身体診察が単なる毎日のルーティーンにならずに質の高い実習が行われていると感じました。

 また、ビュルツブルグ大学で核医学の研究をされている樋口先生のご厚意で核医学科でも実習をさせていただきました。核医学科では、バセドウ病などの甲状腺疾患に対する放射線内用療法はもちろん、治験として前立腺癌に対しても内用両方が行われており、日本を含めて世界中から治療を受けに来られていました。放射線内用療法は手術と違い、画像で確認できない全身の微小な病変にも効果が期待でき、さらに化学療法よりも全身状態を悪化させる副作用が少ない(海外から治療を受けに来られた患者さんも治療の数日後には飛行機に乗って帰国できるほど体力的なダメージが少ないそうです)というメリットがあります。今後さらに適応が拡大し広まっていくであろう、このような最先端の医療技術に触れることができ、とても貴重な経験になりました。

 私は以前留学をしたことがあり、海外での生活や英語は比較的身近な存在でしたが、今回は臨床実習という専門的な会話が求められる場であることや、英語圏ではないドイツへの留学ということで不安もありました。しかし、このような先生方や学生の皆さん、患者さんの温かさにあふれた環境で、ドイツでの医療や臨床実習の在り方を実際に肌で感じながら実習できたことは、私にとってかけがえのない経験になりました。最後になりましたが、このような素晴らしい機会を与えてくださった兵庫医科大学の先生方、ビュルツブルグ大学の先生方、ビュルツブルグ大学の学生の皆さん、その他すべてのサポートをしていただいた方々に感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。