寺山 文乃さん(第6学年次)

ビュルツブルグ大学交換留学を終えて

今回、2017年4月1日より4月28日まで、ドイツ・バイエルン州ビュルツブルグにあるJulius-Maximilians-Universität Würzburgの核医学科にて臨床実習を経験したので報告させていただきます。私は、日本だけでなく海外での臨床現場がどのようなものなのか自分の目で見て確かめたいと思ったのがこの交換留学プログラムに応募した大きな動機の一つでした。

核医学科の病院は下宿先から歩いて約30分かけて実習先まで通っていました。
核医学科での実習は、朝9時からの甲状腺超音波検査の見学から始まりました。患者さんとのやりとりはドイツ語なので、その都度英語に要約して説明をしてもらいました。ここで日本の臨床実習で見たものと違ったのは、超音波検査だけでなく同じ部屋で問診と採血も同時に行われていたことでした。そして、別の日に同じ検査を見学した際には現地の学生と一緒に医師の補佐を行いました。ドイツでは採血は学生の仕事であり、私も多くの採血を経験しました。基本的に核医学科での実習は甲状腺超音波検査・各種シンチグラフィー検査、病棟回診・治療、画像読影室での読影、カンファレンスに参加するといった毎日を送っていました。
毎週水曜日には内分泌疾患に関するカンファレンスが行われており、ここでもすべてドイツ語で行われたのですが、Clinical directorであるProf.Buckが一例一例英語で要約して説明してくださり、不自由はありませんでした。シンチグラフィー検査では甲状腺だけでなく、心臓、腎臓、骨、肺、センチネルリンパ節と多くの臓器のシンチグラフィーを見学することができました。患者さんに検査に関する説明を行った後、検査準備を行う過程もDr.SerflingやDr.Kircherに見学させていただきました。病棟ではBasedow病や甲状腺癌に対して行う放射性ヨウ素内用療法といった一般的な治療から、ヨーロッパでは標準的ですが日本ではまだ行うことのできない、神経内分泌腫瘍などのソマトスタチン受容体を発現している腫瘍に対するLu-177/Y-90-DOTATATEを用いたペプチド放射線受容体療法が行われていました。核というと第二次世界大戦で広島に投下された原子爆弾や2011年3月11日に日本で起きた福島第一原発事故を想起させることもあって、そのようなものを治療に使用することに抵抗がある人も多いかもしれません。しかし、ドイツで見てきた核医学治療はそのイメージを覆しました。治療効果だけではなく通常の抗がん剤治療で生じることの多い副作用に関しても、抗がん剤より同程度もしくは軽度で済みます。実際に回診で患者さんの様子を見に行くと、皆起き上がって会話し、庭に出て散歩するくらい元気だったのには驚きました。
今回臨床実習という名目で実習を進めてきましたが、核医学の診療や研究に携わっている心不全センターの樋口教授にもお会いし、半日だけ動物実験の見学・実習に参加させていただきました。外傷後に不随意運動を起こす人はある遺伝子に異常がみられることが分かっており、ラットを用いてFDGの集積において差がないかをFDG-PETスキャンで見る実験でした。途中でラットの断頭や心臓、腎臓、肝臓の採取を経験させていただく機会があり、昔ラットの解剖実習で学んだことを思い出しながら行いました。ただ、核種を含んだラットを扱っているため手際良く処理していかないと被曝線量が上がってくるので急いで行いました。
最終週には、PETセンターのProf.Samnickのもとへ行きサイクロトロンの見学をさせてもらいました。厳重に管理された部屋をいくつか通り、たどり着いた先には巨大な機械が置かれていました。ここで18F-FDGをはじめ68Ga-PSMA、68Ga-CXCR4及び68Ga-DOTATOC、18F-FLT、18F-FET及び11C-Cholineを必要に応じて製造していました。
他に経験したこととしては、学生が手技を練習するために使用するトレーニングルームで長崎大学の学生と一緒にルートをとる練習、心電図検査、胸部聴診も行いました。他にも尿道カテーテル留置の練習などが可能で、時間の許す限りいくらでも練習できる環境でした。

ドイツでの生活は、外食は日本よりも少し値段が高く、逆に自炊を行うととても節約できます。また、ペットボトルや瓶はものによっては商品を買うときにデポジット料金が上乗せされ、飲み終わって容器を所定のところへ持っていくとデポジット料金が返されるといった仕組みもありました。まだまだ日本と違って興味深かったところはありますが、書ききれないのでまとめると全体を通してかなり環境対策に力をいれているのだな、ということを実感しました。苦手としていた料理もドイツ生活後半にもなれば楽しく食材を選んでいて自分の変化にも驚きました。
 休日には、Würzburg大学の学生がWürzburg観光やspring festivalに連れて行ってくれたり、祝日で4連休になっていた期間には長崎大学の学生とともにDresdenに行ったり、自分でMünchenに行きサッカー観戦やオペラを見に行ったり、とても充実していました。

今回の短期留学は私にとっては大きな挑戦でした。英語やドイツ語が得意なわけでもありませんでしたし、初めての留学で不安もありました。しかしこの機会に行かなかったらきっと後悔すると思い、このプログラムに応募しました。そして1ヶ月と短い間でしたがこれらの経験をすることができたのは大きな財産になりました。今では心から行ってよかったと思います。ですがここまでやってこられたのは自分の力だけではありません。両親にはじまり本当に多くの方々に支えられてこの留学を終えることができました。この場を借りて力を貸してくださったすべての方々に深く感謝申し上げます。ありがとうございました。