清水 美沙さん(第6学年次)

ヴュルツブルグ大学での研修を終えて

私は、2018年4月1日から4月29日までドイツのバイエルン州にあるJulius-Maximilians-Universität Würzburg で臨床実習をさせていただきました。私がこのプログラムに参加した理由は、高校生の時にドイツ留学の経験があり、それを活かせる機会だと思ったことと、日本の医療だけでなく、海外の医療や日本との違いを知ることで視野を広く持つことができるようになりたいと考えたためです。また、学生のうちにいろいろな経験をすることで、柔軟な考え方や発想を持つことができたり、新しい場所でのチャレンジ精神も養えるのではないかと考えていました。初めは言語の壁や、初めての海外での病院実習にとても不安を持っていましたが、原地の方々にたくさんサポートしてもらい、とても充実した1ヶ月を過ごすことができました。

実習期間の内訳としては、精神科で3日間、麻酔科で1週間、核医学で2週間でした。まず、精神科での実習ですが、カウンセリングやセラピーを1人の先生について見学させていただきました。ここでの実習は言葉のやり取りが多く、全てドイツ語で行われました。日常会話程度のドイツ語しかわからなかったため、医学用語などについてはたくさん質問しましたが、嫌な顔一つせず噛み砕いて毎回丁寧に教えていただけました。私の実習していた病棟は、そんなに重い症状の患者さんがいない病棟であったためか、部屋に隣のベッドと仕切るカーテンがなかったり、近くの公園に自由に散歩に行くなど、日本よりとても自由な環境であることに驚きました。また、任意で参加できるセラピーにもたくさん種類があり、音楽セラピーや美術セラピー、運動セラピーなど、長く入院している患者さんでも気分転換ができる工夫がたくさんありました。

麻酔科の実習では、担当の先生について精神科の電気けいれん療法、産婦人科や整形外科、眼科、心臓血管外科などの手術に参加させていただきました。今回は、担当の先生に説明を英語でして欲しいと頼んだものの、ドイツ語が少しでもわかるのならドイツ語ですると言われ、初日は機械や道具、薬の名前をドイツ語で覚えるのに必死でした。しかし、ここでもわからないことは何回でも説明するから聞いてと言われたので、安心して実習することができました。実習の中で、ドイツには麻酔科の資格を持つ看護師がいて、医師が量を指示すれば麻酔を投与できる看護師がいるということを知り、驚きました。また、日本では実習生が手術前の患者さんのルートをとったり、換気の設定や準備などを行う機会はありませんでしたが、ドイツでは実習に来ている学生が行うことが普通であると聞き、とても衝撃的でした。私が、日本で患者さんのルートをとったことがないと言うと、それは練習したほうがいいと言われ、先生や看護師さんに教えてもらいながら1週間で約10回ほどルートをとる機会に恵まれました。数回、失敗してしまいましたが、先生がフォローしてくださり、患者さんも学生が医療行為をすることに何も抵抗がないようで、優しく応援してくださいました。そこで感じたのは、手術前の不安な状況にもかかわらず、見ず知らずの外国から来た留学生に嫌な顔をせずに手を差し伸べてくれる環境は、医療者を全員で育てるという風習があるのではないかと考えました。実際に尋ねてみると、6年生になると採血や問診はほとんど学生が行い、大学病院に来る患者さんはそれを当たり前だと認識しているようでした。むしろ学生のうちから練習していないと医師になっても最初のほうは何もできないのではないか、それはいいとは思わない、という意見を受けて、医師としての即戦力を育てているように感じました。そして、ルートだけでなく、マスク換気の準備から人工呼吸器の設定、ラリンジアルマスクの挿入や気管挿管を一度、抜管や点滴交換、患者さんを麻酔から覚ますところまで、たくさんの経験をどの手術の時もさせていただきました。どれも初めてで戸惑っている私に、わからないことはジェスチャーなども交えて教えてくださり、また、術中管理に大事なことや麻酔記録の書き方まで、とても丁寧に指導してくださいました。加えて、もうひとつ日本との違いで驚いたことがありました。各科ごとに手術室が分かれていることが多く、科によって違いはあるものの、オペ着に着替える際に清潔になるように徹底されており、一番厳しい場所では着ていた服のままオペ着の置いてる部屋には入れないため、私服や靴を全部脱いでから隣の別室に入って手術室用の靴に履き替えて、オペ着を着用することが違うと感じました。また、一度トイレに行くとオペ着を着替えなければならない科もありました。麻酔科での1週間は初めての経験がほとんどで、常に圧倒された状態でした。

核医学の実習では、固定の先生につくわけではなく、毎日やりたいこと、見たいことを自発的に実習していく形式でした。この2週間は英語を使っての解説と、日本人の先生がおられたので、日本語での実習となりました。ここでは、研究や臨床、画像など、好きなことを見ていいと言われ、私は画像を見ていた時間が長かったです。PET/CT、甲状腺エコー、心筋SPECT、骨シンチなどたくさん見学させていただきました。2日目だけ日本人の学生が救急で運ばれたので、そっちを見ておいでと言われ、救急の初期対応から検査、入院にいたるまで付き添いや通訳として見学させていただきました。そこで知ったのは、ベッドを部屋から検査室などに運ぶだけの役職があることでした。また、明らかに外国人であっても、医師や看護師など誰でも最初はドイツ語で話しかける点に驚きました。そのあとにドイツ語が話せないと知ると英語に切り替えるというのがほとんどで、日本で外国人を見たら英語で話さなくてはいけないと身構えてしまう私にとっては、とても不思議に思えました。後に、ドイツの学生とレクチャーを受けた際や、実習していた学生と出会った際にも私にまずはドイツ語で話しかけてくれ、ドイツの大学には外国から来ている人が多くその人たちはドイツ語が話せるため、別に外国人であろうとドイツ語が話せる程で話しかけられるのだとわかりました。残りの日のほとんどは日本人の先生と実習させていただきました。1週目はヴュルツブルグ大学の歴史や、日本とドイツの医療システムの違いや教授選や教育の違いを教えていただきました。3年生でオスキーが終わり、実習をしながら授業を受けたり、空いた時間に手術を手伝うバイトができたり、6年生の最後の4ヶ月は自由に実習する科を選べるという点が一番驚きました。また、2週目はPMSAの前立腺癌の画像解析や、DOTA-TATEなどについても教えていただきました。核医学の教授には、いろんな画像の読み方について教えていただきましたが、英語であったため理解するのに必死で質問などあまりできなかったので、基本的な医学英単語はもっと完璧にしていくべきだったと思いました。

実習が終わった後や週末などはドイツの学生や先生方、長崎から来ていた学生とご飯を食べに行ったり、旅行に行ったりして、たくさんの新しい発見がありました。医療のことだけでなく、日本とドイツの考え方の違いであったり、ドイツ人の日本人へのイメージを聞けたりと様々なことが新鮮でした。ドイツ人はYESかNOをはっきり言う文化であり、日本人はあまりはっきり嫌なことも嫌と言わないという認識があるようで、食事に呼んでいただいた際に、楽しかったと伝えると、冗談交じりではありますが、それは正直な感想かと聞かれることもしばしばありました。そして何より、ご飯の1プレートがとても大きく、大体の料理に大量のジャガイモが付いてくることもドイツらしさを感じました。また、日曜日には一部のレストランやカフェをのぞいて店は基本的に営業していないことや、平日もほとんどの店が19時や20時には閉まり、24時間営業のコンビニがないなどから働く時間が長い日本よりもゆったりと過ごしているように感じました。さらに、ドイツではプレゼン能力や発表能力、自己主張と交渉能力がとても優れていると感じました。医師として働く場所まで交渉しながら決めていくということにはとても驚きました。

今回の留学を通して、もっと積極的に発言することや、受け身なだけではなく積極的に参加することの大切さ、自分なりの意見を持つということの大切さを感じました。そして、実習は楽しんでじぶんで何かすることによって学び、身につけることができるのだと思いました。この4週間の経験を自分の将来に活かしていきたいと思います。最後になりましたが、今回のような素晴らしい機会を与えてくださった、古瀬先生、国際交流センターの鳥井さん、実習中お世話になったStahl先生、Geier先生、Buck先生、樋口先生、福島先生、Moll先生、チューターのAnnaさん、その他すべてのサポートしていただいた方々に感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。