貫 智嗣さん(第6学年次)

ドイツ留学を終えて

今回、2019年4月1日から26日にかけてドイツ・ヴュルツブルクにあるヴュルツブルク大学にて臨床実習を行いましたので、報告させていただきます。大学入学当初は留学などに興味はなかったのですが、医学を学び臨床実習を行う中で、海外の医学・医療現場の様子を見てみたいと思うようになり、今回このプログラムに応募しました。ただ正直なところ、海外の医療現場を経験できることへの期待も大きかったですが、1ヶ月の長期にわたる留学は経験したことがなく、英語力やコミュニケーションをとれるのかなど多くの不安がありました。しかし、現地の病院スタッフの方々や学生が忙しい中とても優しく親切に接してくださり、次第に不安はなくなっていき、とても有意義な実習を行うことができました。

ヴュルツブルクはドイツ南部に位置し、人口約13万人の市です。ヴュルツブルク大学はヴュルツブルク旧市街の東側にあり、1402年創立のとても歴史のある大学です。医療でよく使用されるX線を発見したレントゲンや生物学でお馴染みの胚発生における誘導作用を発見したシュペーマンをはじめ多くのノーベル賞受賞者がヴュルツブルク大学の教員や研究者として活躍されていました。日本では歴史や伝統がある大学というと東京や大阪、名古屋、京都といった大都市に多くありますが、このような伝統と実績のある大学が日本でいえば静岡県富士宮市や三重県伊勢市と同程度の人口の市にあることに驚きました。

前半の2週間は循環器内科を、後半の2週間は心療内科をまわりました。病院は日本の大学病院のようにひとつの大きな病院の中に全科がそろっているのではなく、いくつかの科ごとに病院がいくつも建てられていました。循環器内科のある建物は寮から徒歩で5分程度のところにありました。循環器内科での1日の基本的な流れですが、朝7時15分からの教授回診から始まりました。その後カンファレンスがある日はカンファレンスが行われ、コーヒータイムを挟んで、検査や治療の見学をしました。教授回診やカンファレンスは当然のことながらドイツ語で行われていましたが、指導医の先生が英語で簡単に説明してくださったので何となく理解することはできました。検査・治療については心エコーや冠動脈造影、PCIなどを見学することが出来ました。初めのうちはただ見ているだけでしたが、先生に色々質問すると分かりやすく丁寧に教えてくださいました。また、ある日には現地の学生と一緒に模型を使った心臓カテーテルの体験をしました。このとき指導医の先生からの説明が現地の学生向けのドイツ語のみだったので、見よう見まねでしたが、カテーテルを実際に触れることができ、とても良い経験が出来ました。日本の循環器内科というと、多忙で帰りが遅く、休みもなかなか取れないといった話を聞きますが、現地ではとてもゆったりとしていて、16~17時頃には1日の仕事が終了していたので、とても驚きました。また、心不全に関連する研究を行っているということで、1日だけ核医学科へ行きました。核医学科では樋口先生に施設を案内していただきながら、研究内容を教えていただいたり、研究に使用している機器などを見せていただきました。核医学科で実習中の現地の学生とも交流が出来ました。

次に心療内科についてですが、心療内科は寮から徒歩で15~20分ほどの建物にありました。朝8時45分からカンファレンスが行われ、その後9時30分から始まる治療や外来を見学しました。ランチタイムを挟んで午後は13時30分から始まる治療を見学し、15時頃には終了していました。外来やグループセラピー(患者さんが集まって自分の悩みを話したり、他の患者さんの悩みを聴き、お互いに支えあいながら症状をやわらげていく治療法)はこれもまたドイツ語で行われましたが、指導医の先生が英語で説明してくださいました。また、アートセラピー(患者さんが絵を描いたり作品を制作する中で自分の気持ちを吐き出し整理する治療法)やスポーツセラピー(体を動かして気分をリフレッシュさせる治療法)、外活動(街へ行き施設を見学したりカフェに行ってコーヒータイムを楽しむなど)を患者さんと一緒に体験しました。アートセラピーでは折り紙で鶴や花、兜、手裏剣などを折ったり、絵を描いたりしました。特に折り紙は患者さんからも好評でした。日本との違いですが、ドイツでは日本でいう「精神神経科」が「精神科」と「精神療法科」の大きく2つに分かれており、さらに今回実習を行った「心療内科」もあります。似たような3科ですが、「精神科」は主に精神病を、「精神療法科」は主に神経症を、「心療内科」は主に心身症を扱います。実習期間中にはうつ病と痛みなど何らかの身体の不調がある患者さんが多かったのですが、休養と上記のようなアートセラピーやスポーツセラピーなどが中心でした。日本では一般的に心身症に対して薬物療法も行われますが、現地ではあまり行われていなかったことからも日本との違いを感じました。

4月は学期間の休暇期間でしたが、多くの現地の学生が自主的に実習を行っており、とても驚きました。現地の学生の様子を見ていると、自分で積極的にやることを見つけて実習を行っていました。この自分で積極的にやることを見つけて何かを行うというスタンスは日本での受け身型の実習とは大きく異なっていると感じました。核医学科で出会った現地の学生は自分で研究計画を立てて研究を行っていました。また、先生と方針や結果についての考察などをディスカッションしていたのですが、そのレベルがとても高かったです。そのような姿を見て僕ももっと積極的に学んでいこうと思いました。そうは言うものの、自分で積極的にやることを見つけて何かを行うことは最初のうちは困難でした。前述のように先生方は英語で説明してくださるとはいえ、やはり先生方や病院スタッフ、患者さんの会話は基本的にドイツ語です。僕は以前少しだけドイツ語を学んだことがあったのですが、とても会話ができるレベルではないし、英語もそこまで高いレベルとは言えなかったので言葉の壁を感じ、なかなか質問したり、会話に割って入っていくことができませんでした。しかし、せっかく経験したいと思って海外の医療現場に来ているのだから、自分の英語に自信がなくてもとにかく何でも言ってみる、伝えようとしました。すると段々と質問や会話ができるようになり、多くのことを学ぶことができ、刺激的で充実した実習になったと思います。

学生の間にドイツという日本とは全く違う環境で臨床実習を行えたことは、僕にとって一生の宝物になりました。実習以外の場でも多くの人と関わる中でドイツの歴史や文化を知ることができました。これからも機会があればいろいろな国で学び、自分の視野を広げることができたらと思います。最後になりましたが、今回の実習を行うにあたりご尽力頂いた兵庫医科大学の先生方、国際交流センターの鳥井さん、ヴュルツブルク大学の先生方、病院スタッフの皆様、留学担当のBarbaraさん、1ヶ月共に過ごした清水君、長崎大学医学部の後藤君と麻生さん、FlorianとJulioをはじめヴュルツブルク大学の学生の皆様、全ての方々にこの場をお借りして感謝申し上げます。この1ヶ月間で感じ学んだことを自分の将来に活かせるようにこれからも頑張っていきたいと思います。大変貴重な経験をさせて頂き、本当にありがとうございました。