国際・国内交流
髙瀬 莉子さん(第5学年次)
ワシントン大学での研修を終えて
8月3日から10日までの1週間、シアトルにあるワシントン大学医学部にて生命倫理を学ぶ研修プログラムに参加させていただきました。アメリカの歴史ある大学で講義を受け、医学部の学生さんと交流し、病院見学もできるという、貴重な機会に魅力を感じ、またこの研修を通して医師にとって非常に重要な分野である生命倫理について深く学びたいと思い、参加を希望しました。
シアトルでの1週間は毎日が刺激的で、一生忘れることの出来ない経験となりました。特に印象に残った講義や施設見学、体験について書いていきたいと思います。
1つ目はワシントン大学で最初に受けた“the 4 box method”に関する講義です。この講義では医療倫理を考える上で基盤となるフレームワークについて学びました。”the 4 box method”とは医療倫理の問題を整理して、患者さんにより良い医療を提供するために使用される考え方のことで、Clinical Indication (患者の病状や治療方法を含む医学的事実)、Patient Preference(患者の意向)、Quality of Life(生活の質)、Other factors(お金や家族、文化、宗教など)の4つの要素から成り立っています。この4つの項目を埋めていくことで医師は複数の観点から患者さんの状況を評価し、患者さんにとって最善の選択を導き出すことができます。例題を使ったディスカッションの時間では、患者が判断能力を欠く場合の代理人選定や、他者が患者のQOLを正確に判断できるのかという点において特に難しさを感じました。また、アメリカでは国民皆保険制度がないことや、多様な人種や宗教が存在するため、医療費や文化、宗教などの要素が特に重要であることを強く認識しました。
2つ目はアメリカで家庭医として活躍されている日本人のSairenji Tomoko先生の講義です。アメリカの家庭医というのは、内科だけでなく小児科、産婦人科、精神科、整形外科など様々な分野の知識を持ち、患者の年齢や性別を問わず幅広い医療サービスを提供する総合的なプライマリケア医のことです。また家庭医は患者が幼少期の頃から老年期まで一貫して診療を担当し、患者やその家族と長期的な信頼関係を築くことを重視しているそうです。アメリカでは多様な文化的背景を持つ患者に対応するため、その文化や価値観を理解しながら医療を提供することが求められるという点が印象的でした。このように包括的に患者を診るというアプローチは日本でも学ぶべき点が多いと感じました。
Seattle Children’s HospitalやFred Hutch Cancer Center、Harborview Medical Centerの施設見学は、アメリカと日本の病院の違いを知れる非常に有意義な時間でした。
Seattle Children's Hospitalは、入ってすぐのロビーが広くて天井も高く大きな窓からは明るい光が差し込んでいて、病院とは思えないようなオシャレで開放的な空間だったので驚きました。病院内の壁がエリアごとに森や海などをイメージして作られていたり、動物たちの絵やオブジェがあったりと、色彩豊かで遊び心を取り入れたデザインとなっていて子どもたちの緊張感を和らげるような工夫がされていました。その他、病院内にはプレイルームや学校の教室、礼拝堂があったり、病室はほとんどが個室で親も一緒に寝泊まりできるようになっていたりと、子どもとその家族が快適に過ごせるような環境が整備されていることに感動しました。ここでは、小児の緩和ケアについての講義も受け、実際に架空の症例を使ってディスカッションを行いました。緩和ケアは治癒を目指す医療とは異なり、患者の苦痛を和らげ、生活の質を向上させることを目的としています。特に、小児に対する緩和ケアでは、子ども自身だけでなく、家族の精神的負担も非常に大きいため、家族全体をサポートする体制が整っていることが必要であると感じました。ディスカッションでは、余命が短い患者に対してどこまで侵襲的な処置を加えるかという点でとても悩みました。これに対しての明確な答えはありませんが、子どもの身体的、精神的苦痛に細心の注意を払い、家族の意向も考慮したうえで、医療チームとしてどのようにして最善のサポートができるかを常に考えなければならないと思いました。
Fred Hutch Cancer Centerを見学した際は、最先端のがん治療と研究が行われている施設の規模と専門性に圧倒されました。このセンターでは、免疫療法についての講義を受けました。特に印象的だったのは、本庶佑先生が発見した免疫チェックポイント阻害剤に関する研究がどれほど多くの命を救い、がん治療に革命をもたらしたかということです。アメリカに来てその成果について話を聞くことで、本庶先生がどれだけすごい発見をし、世界に大きな影響を与えたのかを改めて実感し、同じ日本人として誇らしい気持ちになりました。
Harborview Medical Centerは、救急医療の最前線で活躍している病院です。理念としてあらゆる患者を受け入れるということを掲げていて、多様な背景をもつ患者が訪れるため、医療スタッフは異なる言語や文化に精通しているだけでなく、患者の社会的背景や経済状況にも配慮しているという点が印象的でした。また、この病院は外傷センターも有名であるので、ワシントン州だけでなく周辺のエリアからもヘリで外傷患者が搬送されてくるそうです。
講義や施設見学のほかにもたくさんの貴重な経験をさせていただきました。Starbucksの1号店やPike Place Market、amazonの本社などシアトルの有名スポットの観光をしたり、ディナークルーズで美しい夜景を見たり、最後のfarewell partyでは素敵なレストランでKing先生をはじめお世話になった先生方やワシントン大学の医学生さんと食事をしたりと、どの瞬間も本当に楽しくて決して忘れることのできない時間となりました。
最後になりましたが、このような素晴らしい機会を与えてくださった枚方療育園の山西先生をはじめ、お世話になった関先生、服部先生、槇村先生、木村先生、山西先生、大石さん、正木さん、講義で通訳をしてくださったYokoさん、JTBのYoshikoさん、矢田さん、King先生をはじめとするワシントン大学の先生方、このプログラムに関わってくださったすべての方々に心より感謝申し上げます。そして最高の1週間を共に過ごした同学のみんなと帝京大のみんなにも感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。