国際・国内交流
古市 絢菜さん(第5学年次)
ワシントン大学での研修を終えて
今回8月3日から8月10日までの1週間、ワシントン大学医学部での生命倫理研修プログラムに参加させていただきました。私がこの研修に参加したいと思った理由は主に2つあります。1つ目はアメリカという多民族国家で、文化、慣習、宗教の違いや多様性を肌で感じたかったからです。将来医師として様々な背景を持った患者さんと関わるので、自分の知っている世界を広げたいと思いました。2つ目は、普段学ぶ機会が少ない生命倫理についてしっかりと学びたかったからです。生命倫理については大学での講義で何度か取り上げられており、だんだんと興味を持つ様になりました。将来患者さんと関わる上で倫理的な問題は頻繁に発生すると思われ、勉強する必要があると考えました。また、引率をされている服部先生に病院実習でシアトル研修のお話を聞かせていただき、私にぴったりの機会だと感じ参加することを決めました。
今回のシアトルで研修は、様々な分野の第一線で活躍されている先生方の講義や、病院などの施設見学を行いました。講義は14コマも用意していただき、そのうちの1日はFred Hutchinson Cancer Centerで講義を受けさせていただきました。そこは白血病に対する造血幹細胞移植の方法を発見しノーベル賞を受賞したDr.E .Donnall Thomasをはじめ、3名のノーベル賞受賞者を輩出した世界の最先端の研究所で、貴重な経験になりました。講義中は毎回ディスカッションの機会があり、能動的に考えることができました。
講義では、まず倫理的な意思決定における基本的なアプローチである”4box model”を習いました。”Clinical Indication”(臨床状況)”Patient Preference”(患者の意思)”Quality of life “(生活の質)”Other Factors”(その他の要因)の4つをベースに考えるというものです。この授業で、印象に残っていることは”Quality of life “というのは医療者から見たものであり、患者が実際に感じているものと混同してはならないというお話です。医師から見て苦痛を伴う治療であり、やめた方がいいと思ったとしても、患者さんにとってはさほど苦痛ではないこともあり、患者さんの考え方や宗教によってはどんなに痛みを伴うものであっても治療を受けられない方が苦痛という場合もあるというお話を聞きました。この勘違いは実際の現場でよく起こっていると感じ、私自身も気をつけなければならないなと思いました。また、”Other Factors “には宗教や文化、金銭問題などが含まれています。多国籍国家であるアメリカは宗教も多様性に富んでおり、それぞれが尊重されています。金銭問題については、国民皆保険や生活保護などの制度が充実している日本とはかなり違う点もある様に感じました。
日本からアメリカに行かれた、家庭医であるSairenji先生の授業では、日常の臨床に潜んでいる倫理的な問題について講義していただき、医学生である自分もたくさんの倫理問題に直面していたという事に驚きました。また、まだ日本には馴染みの少ない家庭医という職業についての話を聞かせていただきました。家庭医はすべての内科から小児科、皮膚科、産婦人科まであらゆる年齢の患者さんのあらゆる病気に対して総合的かつ継続的に全人的なケアをする医師のことです。何年も同じ患者さんのことを診ていくので、その患者さんのライフステージの変化に合わせて医療の点からサポートをしていける家庭医は患者さんの人生に寄り添うことができ、非常にやりがいのある仕事であると感じました。日本にも家庭医の制度ができた場合、若者が病院を敬遠したり、高齢者がいろんな科の病院をハシゴしたりしなくて済む上、ポリファーマシーなどの対策になるため、とてもいい制度だと思いました。
また、病院見学ではSeattle Children’s Hospital、Fred Hutchinson Cancer Center、Harborview Medical Centerの3つに行きました。どの病院も日本とは規模が違い驚くことがたくさんありました。今回は、Seattle Children’sHospitalについて紹介します。
Seattle Children’s Hospitalは、小児専門の病院であり、あらゆる疾患の小児患者を外来、入院により治療しています。病院内はエリアごとにmountainエリアforestエリアなどテーマがあり可愛らしい内装になっている上、ギフトショップや遊具も充実しており子どもたちが病院に来たくなるような作りになっていました。また、屋外の遊具ではボランティアの方が入院患者の子ども達とバスケをして遊んでいる様子も見られ、日本での入院生活とはかなり違うように感じました。病室は全て個室で、シャワーや保護者のためのソファベットが完備してあり、家が遠方であっても子どもと一緒に病院に泊まれるようになっていました。部屋の前にはランゲージボードがあり、各部屋の患者さんの話す言語が表示されており、翻訳が必要な場合は誰でも無償で翻訳サービスを利用できます。また、医療費が高額で払えない場合は一般の人々からの寄付によりできた基金があるため、無償で治療を受けることができます。寄付は治療費のみでなく病院の建物も、シアトルにある世界的な大企業のCEOの奥様からの寄付などにより建てられました。日本とは医療制度が違うこともあり平等に医療を受けられるとは言えない状況だそうですが、このように寄付による基金により子ども達が平等に治療を受けられることは素晴らしいと感じました。
研修以外の時間もとても充実しており、忘れられない経験をさせていただきました。スタバの1号店に1時間並んだり、ワシントン大学グッズをたくさん買ったり、シアトル市街やワシントン大学内を散策したり、みんなでアイスを食べに行ったりと講義や見学のない時間も全力でシアトルを楽しむことができました。貸切のクルージングは初めての経験で、夕日から夜景に変わっていく景色は非常に美しく感動し、またこのような経験ができるように頑張ろう!とすごく夢が広がりました。
また、帝京大学からの参加者とはシアトルについてから初めて話したのですが、すぐにみんな打ち解けて友達がたくさんできたこともすごく嬉しかったです。
キング先生のお宅でのホームパーティーでは、キング先生ご家族とタコスパーティーをして、お庭にはたくさんのゲームを用意して下さっていました。最後の夜のフェアウェルパーティーにはシアトルでお世話になった先生方がたくさん来てくださり、拙い英語ながらもたくさんお話しすることができたことで少し自信がつき、アメリカでの研修の良い締めくくりになりました。
最後になりますが、このような貴重な機会を与えてくださった枚方療育園の山西先生、引率して下さった関先生、服部先生、山西先生、槇村先生、木村先生、枚方療育園の大石さん、正木さん、King先生をはじめとして講義して下さった先生方、ワシントン大学の学生の皆さん、ガイドのよしこさん、通訳のTuridさん、添乗員のまりこさん、国際交流センターの伊藤さん、そして一緒に参加した帝京大学と兵庫医科大学の友達、この研修に携わって下さった全ての方に感謝申し上げます。本当にありがとうございました。