国際・国内交流
村上 昌暉さん(第5学年次)
ワシントン大学での研修を終えて
この度私はワシントン大学での生命倫理に関する研修に参加させていただきました。
本研修に参加した理由は、海外に出たいという単純で半ば衝動的な思いからでした。いつもとは異なる環境に身を置くことで見えてくる景色があるかもしれない、それって面白そうだなとワクワクしたのです。実際この研修中は心躍る毎日の連続で、素敵な人生の1ページとなりました。この一週間で学んだこと、感じたことはたくさんあるのですが、その一部を報告致します。
まずは本研修の主題である生命倫理の研修についてです。講義は4日間の間で合計14コマあり、扱われた内容は緩和医療や遺伝子検査、AIなど多岐にわたるものでした。それぞれの講義では、実際どのような倫理課題があるのか、またそれをどう捉えるのか、方針はどう決定するのか、その際どういった制度があるのか、ということを習いながら、生命倫理について多角的に考えていきました。そういった講義を受ける中で印象的だったことは、アメリカでは様々な面で議論が活発になされ、一部の倫理問題については制度化が進んでいるという事実でした。例を挙げると、ワシントン州を含めいくつかの州ではMAIDと呼ばれる自殺幇助のようなものが認可されており、患者の自発的な参加を前提にいくつかの条件を満たせば、医師が致死的な薬を処方し患者が自ら摂取するということが認められているそうです。こういった制度を設けることは責任の所在を明らかにし、方針決定をよりクリアなものにする点で非常に重要だと思います。ただ一方で、やはり倫理的懸念点も多くアメリカ国内でも州によって方針が異なっていたり、当然ながら個々で判断する必要があったりと、なかなか答えの定まらない点に改めて倫理の難しさを感じました。
もう一つ講義を受ける中で改めて重要だと感じたことは、話し合いです。各講義の後半に大抵ディスカッションの時間が設けられており、学生同士や、先生との対話の形式で様々な意見・質問が飛び交いました。アメリカと日本では医療保険をはじめとする医療制度が一部異なっており、そのために考え方に違いが生まれているような部分があったり、同じ日本人同士でも考え方が異なっていたりすることを垣間見ることができた瞬間でした。そのような今までの自分では見えていなかった部分に焦点を当てることができ、私の中でも少し価値観が広がったように思います。なかなか答えの出ない倫理問題ですが、今回のディスカッションのように様々な意見を取り入れることで、考えが洗練され、よりよい選択につながるのではないだろうかと感じました。
こういったそれぞれ非常に内容の詰まった講義を受ける中で、医療者を目指すものとしてどのようにこういった倫理的諸課題と向き合っていくべきかということを考えさせられました。医療とは何か。何を目指すものなのか。今後はそういったことも考えていきたいと思います。
研修目的のもう一つである施設見学では、Seattle Children’s Hospital やFred Hutchinson Cancer Center、Harborview Medical Centerといったワシントン大学の関連施設に行かせていただきました。それぞれ小児病院、癌センター、外傷専門病院であり、ある特定の分野に特化した病院ながら規模は総合病院と比較しても大きく感じ、その広さに驚かされました。また、小児病院は子どもを楽しませるためどこかテーマパークを思わせるような造りになっていたり、外傷専門病院ではドクターヘリが何機か駐機できるようになっていたりとそれぞれの工夫や特徴がみられ、非常に興味深かったです。また病院を見学する中で、この病棟はゲイツ夫妻の寄付で建てられた、ベゾス一家からこれだけの寄付があったというような話も伺い、さすが経済大国、スケールが大きいなと感心させられたりもしました。
講義や病院見学以外の時間は主に観光でした。スターバックス1号店やスペースニードルをはじめシアトルの主要な観光名所を巡り、楽しいひと時となりました。特に何度か訪れたワシントン湖・ユニオン湖の、水上飛行機とカモメが空を舞い、水辺や岸辺で人々が各々の余暇を楽しんでいるあの優雅な情景は色褪せることのない記憶になりそうです。
そして今回私にとって最も良かったことは、様々な方と交流できたことです。今回から兵庫医科大学、帝京大学の2校の参加となり、異なる大学の学生同士で色々な話ができたことは大変楽しかったですし、励みにもなりました。また引率の先生方の豊富な経験や熱い思いを聞けたことは、まだまだ未熟な自分にとって勉強になり、一つ自分を成長させるきっかけになったと思います。ワシントン州立大学の学生や先生方もみなさんユニークな人生を歩んでいらっしゃり、さまざまな面で刺激を受けました。英語で会話する機会もあり、自分の英語力を試す良い機会にもなりました。時に思っていることをうまく伝えられずもどかしい思いをし、もう少し英語を勉強してみたくなりました。とにかく話を聞くのが楽しく、たった一週間で研修が終わってしまったことが今では惜しいくらいです。
最後になりましたが、枚方療育園の皆様をはじめ、今回の研修に携わっていただいた皆様に感謝申し上げます。あらゆる面において至れり尽くせりの1週間で、研修を終えた今、本当にこのプログラムに応募してよかったと感じています。一生に二度もない貴重な経験をさせていただき誠にありがとうございました。今後は今回いただいた経験を次はほかの誰かに繋ぐことができるよう、日々精進して参ります。