国際・国内交流
都 大哉さん(第5学年次)
ワシントン大学での研修を終えて
2023年8月5日〜8月12日の期間において、アメリカ・ワシントン大学医学部での生命倫理研修プログラムに参加させていただきました。海外研修というこの上ない貴重な機会に、心を躍らせて今回の研修に応募させていただきました。そして現地では想像していた以上にたくさんのことを学び、非常に有意義な研修になったと感じています。その内容について以下に述べたいと思います。
現地では家庭医学やプライマリケアについてのご講義やKing先生のご講義など、さまざまのご講義やディスカッションに参加させていただき、大変勉強になりました。その中でも特に印象的であった講義が、James N. Kirkpatrick 先生のThe 4 Box Modelについての講義です。The 4 Box Model とは倫理的問題を考える際や患者さんの治療方針や治療目標を決定するために、患者さんの考え方などの整理に用いる枠組みのことです。
4 Boxつまり4つの箱とは、
① Clinical Indications(医学的適応)
② Patient Preferences(患者の意向)
③ Quality of Life(幸福の追求)
④ Other Factors(その他の要因) のことです。
まず①のClinical Indications(医学的適応)とは診断や病因、病気の経過、予後、治療の有効性などのことです。The 4 Box Model はこれらを整理する際に用いられます。
次に②のPatient Preferencesとは患者さんの意思決定のことを言いますが、そこには患者さんが説明や状況を理解し、治療を選択し伝えるという一連の流れを含みます。もし患者さんにその能力がないと判断されればリビング・ウィルや、委任状などを用います。またこの意思決定には医学的価値と患者さん自身の自由な選択による個人の価値の両方が関与します。患者さんが何を優先したいのかなど、医師として寄り添いコミュニケーションをとり、共に考える必要があると強く感じました。
そして③のQuality of Life(幸福の追求)は第三者からの評価となっています。ここで考えたいのが、患者さんのQOLや幸福というものを他の誰かが判断することは可能なのかということです。患者の評価こそ患者の希望です。他者からの評価では偏見などが入ってしまうのではないかと感じました。
最後に④Other Factors(その他の要因)とは金銭面や家族、文化、宗教、施設などのことです。アメリカと日本のように、国が違えば文化も宗教も異なることがあります。また日本内、アメリカ内など一つの国の中でも背景や考え方、文化、宗教などが異なる方々が沢山おられます。このような背景や考え方、文化、宗教などが違う方々の考え方などを整理する上でThe 4 Box Model は有効であると感じました。
私は脳神経内科を志望しています。脳神経内科は、変性疾患や難治性疾患の患者さんが多く、医学的適応から患者背景まで考える必要がある診療科だと思います。そして患者さんの人生にまで寄り添うことが必要な診療科であると考えています。また高齢化の波により、全ての診療科で同様のことが言えると思います。私はThe 4 Box Model を用いることで、患者さんの背景や考え方や希望を考え整理し、人生にまで寄り添う診療ができるのではないかと感じています。
この研修で、① Clinical Indications(医学的適応)② Patient Preferences(患者の意向)③ Quality of Life(幸福の追求)④Other Factors(その他の要因)の4つを用いながら、あくまで患者さんのために何ができるのかを丁寧に考え、患者さんの背景や考え方や希望にまで寄り添えるような診療の視点を身につけられたと考えています。この視点を医師として患者さんを診療する際に役立てたいと思います。
また、その他のプライマリケアの講義やスピリチュアルケアの講義などを通して、患者さんの健康問題を全人的にサポートする姿勢の大切さを改めて教えていただきました。この姿勢や考え方は医師として働く上で重要な考え方だと感じており、初期研修を経て医師として成長していく上で大切にしたいと思っています。
そして講義やディスカッションのほか、Harborview Medical Centerなどの施設を見学させていただきました。日本では見られないような大規模な病院や施設を見学し大変勉強になりました。Seattle Children’s Hospitalでは、入院されている子供達やそのご家族に配慮された設備や設計、スタッフの皆様の対応を見学させていただき大変勉強になりました。
私は今回の研修でここまでに述べたような講義の内容や、日本とアメリカの医療現場の違いなど多くのことを学びましたが、特にコミュニケーションのとり方について学び、より理解を深められたと考えています。ディスカッションや食事の際など、現地の医学生や先生方、先生方のご家族とコミュニケーションをとる機会が多くあり、そこでたくさんの学びがありました。私は元々コミュニケーションをとることは得意で、自分の長所と考えていました。この研修においてもコミュニケーション能力を活かし、そしてその能力をより磨くことができました。アメリカ・ワシントンで暮らしている方々と日本から来た私達では言語や文化が大きく異なり、講義内でディスカッションをしたり、日常会話することに困難を感じることもありました。その中でどうすればコミュニケーションを取れるのかを考え、文字であったり図を用いて伝えたり相手に伝えていただくなどしました。またそれに加え、ジェスチャーや身振り手振りを用いたコミュニケーションをし合っていただいたり、相手の表情を観察したり、声のトーンや口調に注意を向けることで、少しずつコミュニケーションを取れるようになりました。その結果、お互いの疑問や意見を伝え合うことができるようになり、講義の内容などについてより理解を深められました。その上、現地の学生達に友人と呼んでもらえるほど親密になることもできました。自分の長所を活かし、またより強みにできたこの経験は私にとって大変貴重で有意義なものでした。
私は患者さんの疾患のみでなく、人生にまで寄り添い、身体も心も救える医師になりたいと考えています。特に私の志望する脳神経内科は、緊急対応が必要となる急性疾患から、変性疾患などの慢性疾患まで幅広い疾患を対象とする診療科です。その中でも、難治性の変性疾患の患者さんやそのご家族の人生に寄り添い力になれる点を魅力に感じており、ぜひ力になりたいと思っています。そのためには患者さんの苦痛や不安や信条に寄り添うことが必要となります。そしてその内容に最大限応えられる、医師としての基本的な知識や技術、総合的な診察能力、全人的に診察する姿勢が必要であると考えています。特に、脳神経内科は循環器内科や膠原病内科など他科との繋がりが強く、適切に診療するためには全身を統合して診療する能力や姿勢が必要であると考えています。これらの能力や姿勢を身につけるためにも、今回の研修で学んだことを無駄にせず、卒業後の初期研修やその後の医師人生において、1日1日を大切に研鑽を積んでいきたいと考えています。また医師として働くと多種多様な考え方や信条や背景を持たれている方々と接すると思います。そして意思疎通の難しさを感じることもあるかと思います。その際にも今回の研修での経験や学んだこと、磨いた長所などを活かし、患者さんやそのご家族やコメディカルの方々とコミュニケーションをとり、信頼関係を築いていきたいです。
今回のアメリカ・ワシントン大学医学部での生命倫理研修プログラムでは、講義の内容に加え、背景や考え方、文化の異なる中でコミュニケーションをとる方法など、本当に多くのことを学ばせていただき、大変有意義な研修にすることができました。最後となりましたが、このようなプログラムに参加させてくださった枚方療育園の山西先生や関先生、服部先生をはじめとする先生方、King先生をはじめとするワシントン大学の先生方や学生の皆様、通訳やその他の手配などをしてくださったYoshiko様、講義で通訳をしてくださったYoko様、共に研修に参加した友人達、国際交流センター伊藤様、研修に関わってくださった全ての皆様に心より御礼申し上げます。誠にありがとうございました。