文野 愛海さん(第5学年次)

ワシントン大学での研修を終えて

 今回8月5日から12日までの1週間ワシントン大学にて、生命倫理プログラムに参加させていただきました。私がこのプログラムに応募した動機は二つあります。一つ目としては、私は幼いころから留学に憧れがあり、機会があれば挑戦したいと思っていました。5年間で学んだ医学と自分の英語力が海外でのディスカッションでどれだけ通用するのか試す絶好のチャンスだと思いました。二つ目は、私は産婦人科に興味があり、人の誕生に携わる産婦人科を勉強するにあたり、たくさんの倫理的な問題があることを感じました。これから産婦人科医としてキャリアを積んでいく中でこのプログラムで学んだ生命倫理は必ず自分のためになると思いました。実際ワシントン大学でのプログラムに参加し学んだことを報告させていただきます。

 プログラムでは合計14個の講義を受けさせていただき、すべてが素晴らしい功績をお持ちの先生による素晴らしい講義でした。それぞれの項目においてアメリカと日本の医療の共通点や相違点などディスカッションをしました。

 まず初めに、患者に行う医療について決定していく中で一番基本になっている考え方が”The 4 boxes”というもので、4つの柱”Clinical Indication” “Patient Preferences” “Quality of life” “Other factors”をベースに患者を評価していくという考え方を勉強しました。日本もアメリカも昔とは違って、患者の希望やQOLを重要視するようになったという共通点とともに、相違点としては宗教や文化の重要性を強く感じました。アメリカは多人種による国であり、多くの宗教や文化が共存しており、それぞれが尊重されています。また二国では医療体制も大きく違い、医療の選択に金銭問題が大きくかかわってくることも日本との違いだなと感じました。

 アメリカの医療について驚いたのはアメリカではFamily Doctorがとても需要があり広く知られていることです。アメリカは土地が広大で大きい病院に行くためには5~6時間車で移動する必要がる地域がたくさんあります。そういう背景のもと、Family Doctorは患者のすべての段階での医療をサポートします。出産にも携わり、幼少期から大人になってからもその患者の医療にかかわることができます。多くの人は総合病院に行く前にFamily Doctor にかかり、Family Doctorは日常生活で起こりえる疾患について網羅しているため患者がたくさんの診療科に行く必要もなく、遠い病院に行かなくてもよいということでとても求められています。日本は医療へのアクセスには優れており、実際Family Doctorの需要はアメリカほど高くないかもしれませんが、人とのかかわりが多く、その患者の人生に長くかかわれるという点でとても興味を持ちました。

 ワシントン大学医学部に通う学生ともお話をする機会があり、アメリカと日本の医学教育の違いを感じました。アメリカでは一般の大学を卒業してからメディカルスクールに通うシステムであり、3年のメディカルスクールの間で医学を身につけます。初めの1年で医学の知識を身につけ、それと同時並行で隔週おきに病棟の実習に行き、医療面接や手技を学びます。長期にかけて病棟実習を行うことではじめはできなくてもだんだんできるようになり、定着していきます。また、どの大学に入学するにあたっても勉学以外にボランティア活動も重要視されています。ボランティア活動によって人のために行動することに喜びを感じるとともに当たり前という社会になっていき、社会の医療のために行動する行動力が身につくのかなと感じました。同じ分野の教育でも国によって重要視しているところが違い、とても興味深かったです。

 また、ワシントン大学医学部はWWAMIという多州医学教育プログラムを立ち上げており、WWAMIはワシントン州、ワイオミング州、アラスカ州、モンタナ州、アイダホ州の頭文字であり、ワシントン大学医学部それぞれの州に医学生はサービスを提供しています。ワシントン大学医学部に通う学生はワシントン州シアトルのレベル1の外傷センターでの実習から、モンタナ州リビーの小さなプライマリケアクリニック、アラスカ州アンカレッジのアラスカ先住民との協力まであらゆる医療を経験できます。WWAMIの最終的な目標はアメリカの北西部の市民が公的に支援されている医学教育へのアクセスしやすくなること、Primary Careを行う医師を増やすこと、地域に根ざした医学教育を行うこと、卒業後の医学教育を幅広くすること、があります。州によって医師免許が必要なアメリカにとって、州をまたいで実習を行うことで様々な視点を持つことができ、医学生にとっては非常に意味のあるプログラムであるなと思いました。

 滞在中たくさんの病院も見学させていただきました。その中のひとつであるHarborview Medical Centerは、ワシントン州で唯一Level1に指定された外傷・熱傷センターであり、アラスカ州、モンタナ州、アイダホ州の地域外傷・熱傷紹介センター、シアトルおよびキング群の災害対策・災害管理病院としての役割を担っています。ヘリポートもあり、カルフォルニアなど遠く離れた場所からも患者が運ばれてきます。運ばれてくる患者の地域、病院の規模すべてが日本とは大きく違いました。多言語に対応しており、常時13言語の通訳が待機しており、現に病院内では150か国語が飛び交っていて、人種や言語に関係なく誰でも不自由なく利用できる工夫がされているところでもアメリカならではだと感じました。

 Welcome partyやKing先生宅でのHome party、最終日のFarewell partyなどで講義に来てくださった先生方と個人的にお話しすることもできて、互いの国の医療の違いや、その違いの中でもお互い尊重していくことについて学ぶことができ、自分の意識も変わり、とてもいい経験になりました。このような素晴らしい機会を作ってくださった枚方療育園の先生方、King先生をはじめとしたワシントン大学医学部関係者の方々、現地でガイドしてくださったYoshikoさん、通訳をしてくださったYokoさん、このプログラムにかかわってくださったすべての方々に感謝申し上げます。学生の期間にこのような素晴らしい経験ができ、たくさんの思い出ができたことをとてもうれしく思います。今回の経験をこれからの医師としてのキャリアの中で生かしていきたいと思います。本当にありがとうございました。