稲垣 里衣さん(第5学年次)

ワシントン大学での研修を終えて

 今回、私は8月5日から12日の一週間ワシントン大学で生命倫理の研修に参加させていただきました。帰国してすぐに大学の試験というスケジュールで、初めは不安もありましたが、その不安など全て忘れてしまうぐらいの貴重な経験をたくさんさせていただき本当に一生に一度の思い出となりました。
 私が、このプログラムに応募させていただいた理由は2つあります。1つ目は、元々、家庭医に興味があり、アメリカでの家庭医のあり方を実際に見てみたかったこと、また、2つ目は、生命倫理は医師にとってとても重要な事であるにも関わらず普段の医学の勉強では生命倫理について向き合い、考える時間を取ることができていなかったのでこの研修を機にしっかりと考え今後の医師生活に役立てていきたいと思ったからです。

 どの授業も刺激的で素晴らしい講義ばかりだったのですが、ここでは特に印象的であった授業について取り上げさせていただきたいと思います。
 一つ目は、ワシントン大学での最初の授業であったthe 4 box methodのお話です。倫理問題を考える上でこの考え方はとても大切な考え方で、Clinical Indications、Patient Preferences、Quality of Life、Other Factorの4つで構成されているboxを一つずつ埋めていき患者さんの理解している点としていない点を明確にしていくというものでした。授業では、実際に例題を用いてディスカッションする時間があったのですが、4boxを学んでも埋まっていないboxについて何を尋ねて埋めていくべきかとても難しく感じました。また、living willを提示されずに意識不明になってしまった患者さんの代理人は誰にするべきか、また宗教によって最期の過ごし方が異なるといった問題もあり、普段の勉強ではなかなか考える機会のない内容であったのでとても勉強になりました。

 また、もう一つ驚いたことはKing先生の授業で教えていただいたspiritual care医の存在です。アメリカでは、全病院の2/3にspiritual care医が臨床医とは別に存在していて患者さんだけでなく患者さんの周囲のメンタルケアを行うシステムがあるそうです。Spiritual care医には約30分の予約時間が設けられており数ヶ月から数年にわたり患者さんのメンタルケアを行い、患者さんとの信頼関係をしっかりと築いていきます。患者さんに対する質問から、その患者さんが何に重きをおいていて何をしているときに喜びを感じるかを汲み取り患者さんと長く付き合っていくそうです。日本では、同じ様な役割をする特定の医師というのが存在せず同じような医療は緩和ケア病棟に入ってからの緩和ケア医による医療であり、海外と日本の医療の違いを感じました。ぜひ日本でも普及してほしいと感じる制度でした。
 
 他にも、アメリカで家庭医をされている日本人のTomoko先生のお話は大変貴重な体験になりました。元々、家庭医に興味があったのですが、アメリカの家庭医は外来やお産、皮膚科診療までも行い精神面のサポートも含めて一人の患者さんと長く深く付き合っていると仰っていました。これは、一人の患者さんと診療科を超えて深く関わっていくという私が理想としていた医療と合致していて本当に魅力的に感じました。Tomoko先生は日本の大学を卒業されており日本の医師免許を取得後、海外の医師免許を取得されています。日本の同期が臨床現場で活躍していく中、一人海外の医師免許の勉強をするのは孤独で精神面で苦しかったと仰っていました。自分の道をしっかりと決め、まっすぐ突き進まれたTomoko先生は本当にかっこよく、胸を打たれました。また、診療科に制限なく患者さんを診察するということは、それだけ多くの知識が必要で、患者さんのために勉強し続ける気持ちがあってこそだと思います。私も医師になるのがゴールではなく、いつまでも努力し続けることができる人間になりたいと強く感じました。

 今回の授業では、どの授業でもディスカッションの時間が多く設けられており倫理問題についての知識を学ぶだけではなく、授業の知識を元に実際に自分たちならどのように考えるか、意見を交換し合うことができました。ディスカッションを通じて、自分一人では着眼できていなかった点に気づくことができたり、1つの事に対するあらゆる考えを知ることができたのでとても良い機会になりました。また、日本で臨床実習を通して実際に患者さんとお話しする機会がある5年生でこの研修に参加させていただいたことで、実際に目にした倫理問題を当てはめて考える機会もあり、大変貴重な機会となりました。

 研修以外の時間にも、たくさんのイベントを用意して下さっていて毎日が本当に充実していてあっという間の一週間でした。シアトルに到着した日が土曜日だったので土日は、Pike Place MarketやStarbucks1号店、ビルゲイツセンターを見学させてもらいました。日曜日の夜にはKirklandの海がみえる素敵なレストランでWelcome Partyをして下さり、大きなサーモンと綺麗な景色でとても幸せなひと時でした。他にもKing先生のご自宅でのHome Partyはとても印象的でした。大人数の私たちを暖かく迎えてくださり、King先生のお子さん達とお庭で一緒にゲームをしました。準備して下さっていたお食事をいただきながらゆっくりお話をして、とても楽しいひと時を過ごすことができました。

 シアトルでの最後の夜のFarewell Partyでは、授業などでお世話になった先生方とお話をさせていただきました。拙い英語にも関わらず、どの先生方もゆっくりお話して下さるなどご配慮してくださり本当にありがたかったです。最後にはKing先生から一人一人、修了証をいただき一週間のワシントン大学での研修を皆で終えることができました。

 今回の研修では、医療倫理について自分自身考え直す機会を持てたことはもちろんですが、疑問に思ったことなどを積極的に質問したり、自分の意見をしっかりと持つことの大切さを学ぶことができました。今回の授業は、通訳の先生がいらっしゃったので英語の授業でしたが自分の頭にしっかりと落とし込むことができたので、とても恵まれた環境で授業を受けさせていただけたと思います。授業の後に質疑応答の時間が設けられていたので、積極的に英語で質問しようと挑戦したのですがうまく伝わらなかったことがあり悔しい思いをしました。この思いを糧にもっと英語を勉強し、自分の意見を英語で上手く伝えられるよう努力していきたいです。

 最後になりましたが、このような一生に一度の素晴らしい機会を与えて下さった枚方療育園の山西先生、関先生、服部先生、蒲生先生ご夫妻、中村先生、またこの研修がスムーズに行えるよう毎日動いて下さった大石さん、ガイドのYoshikoさん、授業を丁寧に通訳して下さった通訳のYokoさん、そしてKing先生をはじめとする講演して下さった全ての先生方に感謝申し上げます。また、国際交流センターの伊藤さん、最高の思い出を共にした友人、この研修に携わって下さった全ての方々にも感謝の気持ちでいっぱいです。この素晴らしい研修に参加させて下さり本当に本当にありがとうございました。